【新社長インタビュー】〈住電日立ケーブル・門田徹也氏〉首都圏で五輪特需捕捉 中堅社員の育成強化

――まずは就任の抱負から。

 「この数年間、建設用電線では需要停滞や価格低迷があり、業界全体が疲弊しているような状況だ。厳しい中でも良いサービスや製品を顧客に提供するには、電線産業に携わる一人ひとりが社会になくてはならないインフラの一翼を担っているという矜持を持ちながら仕事をすることが不可欠。そのために取引条件の適正化や、適切な水準での利潤確保に全力を尽くしたい」

――現在の市場環境についてどのような認識を。

住電日立ケーブル・門田社長

 「東京五輪や首都圏再開発計画など期待材料はあったものの需要の立ち上がりは遅れていた。だがここにきてようやく改善の兆しが見えてきた。五輪関連の特需は今年度下期から来年度上期にかけてピークになるだろう。また再開発については建設現場の人手不足や資材価格高騰の影響で20年以降に先送りになるものも多く、五輪後も需要は堅調に推移すると考えている。その後も大阪万博など景気を刺激するイベントの開催が期待できる状況で、しばらくは底堅い需要がありそうだ」

――その中で注力する取り組みは。

 「まずは増える需要を捕捉する体制を整えることが重要。首都圏の物流センターでは在庫の積み増しや切断・配送の要員確保を進めている。営業面では基本に立ち返り、幹部も含め最終顧客である電材店や工事業者の皆さんを、より密に訪問する。そこで求められていることをしっかりつかめば顧客満足度向上やシェア拡大につながる。代替わりしている先もあり、若手経営者の皆さんの新たな発想からは多くの学びがある。新商材・新ビジネスを模索する方もおり、顧客と当社に出資する3社が有する技術や知見をマッチングできれば商いの幅はさらに広がるだろう。併せて現場のニーズをメーカーに伝えることで商品の競争力強化に貢献できると考えている」

――今年度の業績目標については。

 「首都圏だけでなく地方にも堅調な需要があり、今期の出荷銅量は約12%増の6万7千トンになりそうだ。売上高は約1割増の730億円で計画している。需要は増加の兆しが見えているが、価格の改善はなかなか進んでいない状況だ。また銅価が下落基調になっていることも収益的にマイナス要因になっている」

――業界では商慣習適正化が課題となっています。

 「電線工業会が適正取引の指針であるガイドラインを打ち出し、流通の皆さんにも熱心に取り組んでいただいて休日・夜間納入など特殊配送の有償化や、品質に問題がなくとも製造と販売で年をまたぐと引き取りを断られる年号問題は大きく改善された。ただ電設市場での件名先物契約における取引基本契約の遵守や、市販市場でのリベート問題に関してはまだ道半ば。当社としても改善に向けて努力していきたい」

――今年度から東西2本社制に移行しました。

 「住友電工の連結子会社として、総務や経理などの管理部門に関する連携を促進することが狙いだ。経費精算や勤怠管理などに関して親会社のシステムを活用して効率化を図るため、大阪に管理部門と本社の登記を移した。一方で今後需要が拡大する東京は営業で中心的な役割を果たす拠点となるので東京本社としている」

――中期的に進めたい施策は。

 「物流拠点では作業者の確保が年々難しくなっており、中期的には流通との共同運営なども考えていかなければならないだろう。また委託在庫や共同配送なども検討したい。加えて人材育成にもさらに力を入れる。当社は設立から16年目を迎えプロパー社員が管理職になっており、今後彼らに経営に近い層で活躍してもらうことは十分にあり得る。そのためにミドル層の管理能力や論理的思考力を高める教育を充実させることは非常に重要だ。収益的には製販一体での黒字を継続させ、当社単体としても黒字化を目指していく」(古瀬 唯)

プロフィール

 2009年から住電日立ケーブルに赴任。営業畑を中心に歩み「顧客と近い所で仕事をしてきた」と話す。建設用電線の豊富な知識や、市場に関する肌感覚の知見を持つことが強み。趣味は街歩き。生まれ育った大阪のほか京都・奈良を散策するが「慣れた場所でも新たな発見はある」と笑顔。

略歴

 門田 徹也氏(もんでん・てつや)1984年(昭59)大阪大経済卒、住友電工入社、営業企画部マーケティンググループ長、東北支店長、住電日立ケーブル企画業務部長、同社取締役営業本部副本部長・関西支社長などを経て6月から社長。大阪府出身、57歳。

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