【工場ルポ】〈缶用アルミ製「イージーオープン蓋」国内唯一の専門メーカー「アルトップ」いわき工場〉「次工程はお客さま」の精神、高品質製品を供給 空気清浄度保ち、保管能力も拡充

 アルトップ(本社・東京都墨田区、社長・広浜泰久氏)は、缶切りを使わず手軽に缶を開けられるアルミ製「イージーオープン蓋(EOE)」を生産する国内唯一の専門メーカーとして、1989年に設立した。2015年10月には各種缶パーツ製造大手、ヒロハマのグループ会社となり、さらなる業容拡大に向けた取り組みにかじを切っている。生産拠点のいわき工場(福島県いわき市)を訪ね、新たな生産体制の整備が進む現場の最前線に迫った。(中野 裕介)

 アルトップのいわき工場は、常磐自動車道が至近でアクセス良好な、福島県浜通りの南部、いわき市のいわき好間中核工業団地に立地する。約3900平方メートルの敷地に生産棟と製品倉庫を構え、アルミ製のEOE一筋で操業する。

 生産棟には、同社ならではの技術が結集する。その代表格が印刷機。アルミのコイルを伸ばしながら、UVインクで版に刻んだデザインを印刷する。紫外線で硬化後、ワックスを施し打ち抜きやすい状態で巻き取る仕組みで、開業時から内製で対応している。

 印刷を始点に、打ち抜きやカーリング(端部を丸める加工)、プレスといった前工程を経て、巻き締め時に密封性を保てるようラバーを塗布したり、タブ(つまみ)を付けたりするなどして最終製品に仕上げていく。各工程とも複数の加工機がそれぞれ独立して動いており、弾力的な生産体制の構築につながっている。

 仕上げの段階ではLEDの光を当て、専用のモニターによって不純物の付着や微細な穴を逃さない。同じくLEDを工場の照明に採用し、省エネにつなげている。細かな取り組みを随所で積み重ね、顧客からの信頼を勝ち取る。

 「次工程はお客さま」―構内を歩くと、たびたび目にする言葉だ。最善を尽くし、高い品質の製品を顧客に供給しなければならないとの思いを全社員で共有する。1995年に施行された製造責任者(PL)法に対し、缶の蓋(ふた)に安全に開けられる注意書きを印刷するなど、製品の在り方をはじめ時流に乗った研究開発にも余念がない。

 お茶や香辛料、備蓄用のソフトパン、ビスケット、ナッツ…一般缶向けをはじめ、日常生活に身近なEOEを国内外の製缶メーカーに提供する中、ヒロハマグループの一員となってからは、食品関係の生産工場として、より良い品質で缶の安全を確保する環境を作り上げる。

 とりわけ直近3年で生産ラインの周辺は大きく様変わりした。工場の出入口にエアーシャワーを新設し、構内にエアコン7台を完備。原材料の入庫や製品を出荷する一角には、自動の二重扉やシートシャッターで外気を遮断して一定の空気清浄度を保たせている。材料の置き台や足場を従来の木製から鉄製に切り替え、木の臭いや微粉などが発生しない工夫を凝らす。

 工場と隣り合う製品倉庫には立体で3段のプッシュ型のラックを導入し、有効な空間の活用を実現。これまでの平置きに対し、倉庫の保管能力が大幅に拡充した。ラックを出し入れする際に動力が不要な造りのため、BCP(事業継続計画)の観点からも全社的な優位性が高まった。今後は倉庫機能の拡充を視野にラックの増設を検討する。

 ハードとともにソフト面でも変化の波が起きる。ヒロハマが全拠点で運用する「52週課題」をアルトップにも取り入れたのは、大きな契機の一つ。親会社の実践に従い、会社の経営方針をベースに工場でたたき出した年間の事業計画や毎月の利益計画などに対し、部や課、社員個人で1年(52週)に取り組む課題を設定する。一連のプログラムを通じて、採算や生産性などに対する「20人の従業員一人ひとりの意識が確実に高まっている」(山口勉工場長)。

 営業機能はヒロハマの本社に置き、同社が生産するスチール製の缶パーツと一緒に取り扱う。全30種類にも及ぶアルトップの商品がラインアップに加わり、スチール、アルミの両素材でヒロハマグループの提案力に磨きがかかる。

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