なぜメディアは「間接的な被災者」を生むのか

東日本大震災でも熊本地震でも、北海道胆振東部地震でもそうなのだが、なぜメディアは災害発生時だけ報道が集中し、それ以外は伝えないのだろうか?しかも、家族を失って苦しむ人にインタビューをしたり、被災者が身を寄せ合う避難所の前から大きな声で放送をするなど、その行動はどんどん異常なものになっている。このような苦しむ人たちをさらに苦しめる報道を誰が見たいのか?現地では怒りの声もあがっている。そしてバランスの欠けた報道によって、「間接的な被災者」も生んでいる。3つの災害を見てきた者として、あまり伝えられていない間接的な被災者のいまと、「観光・伝達ボランティア」の必要性について考える(野村 尚克)

賑わいが戻りつつある札幌狸小路商店街(9月15日13時・筆者撮影)

3連休の札幌

3連休の初日である9月15日、札幌狸小路商店街にはたくさんの人が歩いていた。ここは札幌の中心部にあり、大通り公園とすすきの間に位置する。最近では海外からの観光客も多く訪れる人気の場所だ。

さっぽろオータムフェスト2018

また、この日は市民の憩いの場である大通り公園で「さっぽろオータムフェスト2018」が開幕。これは北海道内の旬の食材やグルメなどが集まるイベントで、当初は9月7日に開幕予定だったが地震の影響で15日からスタートしたもの。この場所はさらに多くの人で賑わっていたが、毎年来ていると言う市内在住の50代の主婦は「例年より人が少ない。特に観光客や海外の人がいない」と言う。しかし、このように3連休の札幌市内でたくさんの人たちが楽しんでいる状況を北海道外の人はどこまでご存知だろうか?

直接的な被災者と間接的な被災者

災害が発生すると家屋を失い、命や家族を失う人たちが生まれてしまう。この方たちは「直接的な被災者」であり、いま現在で死者41人、重軽傷者679人、負傷程度不明者2人、避難者1,177人が存在する(※9月18日現在・内閣府発表)。

災害発生後は第一にこうした人たちへの早急な支援が必要であることは言うまでもない。しかし、一方であまり注目されない被災者もいる。それは災害の風評や観光の自粛などによって被害を受ける「間接的な被災者」であり、主に観光業や飲食業などに携わる人たちだ。しかし、この人たちが日常の生活に戻って働いても、その姿を伝える報道はなぜかあまり見られない。

すすきののいま

ジンギスカン屋の「めんよう亭」

「すすきの」は札幌市内にある北海道一の歓楽街である。現在、国をあげて海外からの観光客誘致に積極的だが、その目玉の一つに「ナイトタイムエコノミー」がある。これは「夜の経済」と言われ、観光客を集める新たなコンテンツとして注目されているものだ。北海道ではすすきのが主要拠点にあたり、食や酒といった魅力ある観光資源を提供している。

すすきのにある「めんよう亭」は生ラムにこだわるジンギスカン屋だ。昭和60年の創業から口コミで人気となり、いまでは行列の絶えない繁盛店である。しかし、私が訪れた時は客が1人もいなかった。店主の利浪かつ子さん(69歳)は、「今回のような状況ははじめて」と言い、しかし、この日もお客が来るかもしれないと、炭をおこして店を開けていた。「お客さんがいつ来てくれるかわからない。しかし来た時に食べるものを提供できなければ楽しい観光をガッカリさせてしまうから」。

すすきのの入口にある「ラーメン横丁」はいつも観光客で賑わう観光名所だ。ここに店を構える「ラーメンの赤レンガ」は、ラーメン激戦区のすすきので平成4年から営業する人気店である。しかし、こちらも私が訪れた時は客が1人もいなかった。店主の森秀樹さん(50)は「電気が復旧した翌日から店を開けているが客数は3分の1になった」と言い、「特にひどいのは夜の営業。観光客が激減している」と言う。しかし、そうした状況であっても朝から仕込みを行い、いつでも客をもてなす準備を整えている。

ラーメンの赤レンガ

このように観光や地域の経済に貢献している飲食店が苦しむ姿は、災害後の東北や熊本とよく似ている。どちらも「被災地」とのイメージが広まり、通常営業している店の姿が知られていないからだ。

今回の地震によって北海道への宿泊キャンセルは延べ94万2,000人、影響額は117億2,500万円に上り、飲食代や土産物代などを含めた影響額は約292億円と推計されている(※9月15日・北海道庁発表)。北海道は観光によって地域を活性化させてきた日本を代表する観光地の一つである。私は災害後の東北と熊本を現地で見てきたが、この悲惨な状況は当時の熊本から書いたこの時の状況とそっくりである(※2016年5月2日:【熊本地震】これから必要なのは「トリプルボランティア」)。

直接的な被害を受けたのは一部の地域

主な被害状況

北海道は「都道府県」の一つとして区画されているが、実態は「関東地方」や「九州地方」といった地域ブロックに近い。実際に地図を当てはめるとわかりやすいが、本州の真ん中に北海道を置けば、北は石川県から南は静岡県、西は大阪府から東は東京都までがすっぽり入る大きさだ。つまり、1つの地方の中に札幌、旭川、函館、帯広、網走といった県のような市がある「1つの地域ブロック」とも言えよう。これを北海道外の人が理解するのは難しいのかもしれない。

今回の震源地は「北海道胆振地方中東部(北緯 42.7度、東経 142.0度)」にあり、人的被害も同地域の近くに集中している。よって、地震の名称も「北海道地震」ではなく、「平成30年北海道胆振東部地震」と定められた。つまり、今回の地震では北海道全体が直接的な被害を受けたのではなく、一部の地域が被災したのである。

仮にこの地図のような配置で災害が起こったとしたら、人的被害は愛知県を中心に隣接県の一部に発生したということである。皆さんはそのような災害が起こったとして、果たして大阪や石川、長野や東京への観光をキャンセルするだろうか?

しかし、停電したインパクトは大きく、北海道全体が被災したという報道やイメージを持たれている人も多いだろう。停電の理由は震源地の近くに発電所があったからで、これは“2次被害”によるもの。現在ではほぼ全ての地域で電力が復旧し、計画停電の予定や20%の節電目標も解除。多くの場所が日常生活に戻りつつある。

本州に北海道をはめ込むとその大きさがよくわかる(筆者作成)

東日本大震災で生まれた新しいボランティア

2011年の東日本大震災で生まれた新しいボランティアに「トリプルボランティア」がある。これは「災害ボランティア」「観光ボランティア」「伝達ボランティア」の3つを同時に行うもの。

「災害ボランティア」はガレキ撤去や被災住宅の支援といった多くの人が知っているボランティア活動のこと。「観光ボランティア」は観光客が来なくて苦しんでいる地域へ観光に行く支援活動のことで、場合によってはその地域の宿泊施設を被災者や復興事業者が利用していることもある。

そのような時は離れた所に宿泊して観光地へ行くもの。そして最後の「伝達ボランティア」は、被災地で見たことを個人が伝達する支援活動であり、SNS時代に広まったものである。発災時の支援物資や避難所情報といったことだけではなく、復興に向けて頑張る人たちや地域の細かい情報など、メディアが取り上げない姿をSNSや口コミで伝えることで支援する。このトリプルボランティアは東日本大震災では大手旅行会社がツアーを組んだり、観光庁がモニターツアをしたりし、そして熊本地震では九州の企業や団体などが実施した実績がある。いまの北海道はまさにこの「トリプルボランティア」が必要な状況にある。

道外の人に求められるのは「観光」と「伝達」

しかし、これまでの状況を見ていると、被災地では“いますぐに県外からの大量の災害ボランティアを必要としていないよう”である。災害ボランティアセンターは地域の社会福祉協議会が立ち上げるが、札幌市の社会福祉協議会は、「札幌市内の活動につきましては、現段階では災害ボランティアセンターは開設せず、当面、通常のボランティア活動センター、各区社会福祉協議会(「社協」)として対応いたします。(※公式HPより抜粋)」とし、最も大きな被害を受けた厚真町は災害ボランティアセンターを立ち上げてはいるが北海道外からのボランティアは受け付けていない。もちろんこの状況は今後の復興の進み具合や地域によっても違いや変化が生まれるが、現在のところはこのような状況にある。

それではいまの北海道にはボランティアは必要ないのか?それは違う。「観光ボランティア」と「伝達ボランティア」が早急に必要だ。トリプルボランティアは「トリプル」としたところに意味があり、3つのうちの2つだけを実行しても大きな支援になる。

事実、東日本大震災や熊本地震では現地の災害ボランティアセンターへ行っても定員オーバーで参加できない人が続出した。そうした時にこの人たちは積極的に現地やその周辺などで美味しいものを食べて名産品を買い、地域の経済に貢献した。

また、災害ボランティアに参加する体力や時間がない人も、ボランティア意識を持って観光に行って消費をした。そして共に現地で頑張る人たちや営業を再開している観光地の姿などをSNSで発信して風評の払拭に貢献したのである。いま、北海道外の人にして欲しいのは、北海道を訪れて観光を楽しみ、そうした姿をたくさんの人たちへ伝えることだ。そして、北海道内で被害を受けなかった人たちもお金を使うことを自粛せず、どんどん経済をまわすことだ。それが北海道の早急かつ継続的な復興支援になるのだ。

最後に

これを読まれている方はインターネットに繋がっていると思うが、そのまま航空会社やホテルの予約サイトにアクセスしてほしい。北海道行きの飛行機はガラガラで、北海道内のホテルは空室ばかりなのが分かるだろう。

この状況はいつまで続くのだろうか?北海道は食が豊かで、これからがまさに一番美味しい時期である。「さっぽろオータムフェスト2018」は9月30日まで開催され、道北や道南、十勝やオホーツクといったその他の地域でもイベントは予定されている。しかし、このままでは開催が危ぶまれるだけではなく、さらに地域を疲弊させてしまう。

前出の「めんよう亭」の利浪かつ子さんと「ラーメンの赤レンガ」の森秀樹さんは同じようなことを言っていた。「同じ北海道の中で被災した人がいる。そのような中でお店が元気にやっていることを発信することは心苦しい。商売がはじめられただけでも幸せだと思わないと」と。この言葉は災害後の東北や熊本で何度も聞いてきた言葉で、地域で事業をされている方に共通する思いなんだと思う。本人たちは来て欲しくてもそれを言うことはできない。ならばそのような状況を理解して、ボランティア意識のある人たちが観光で訪れれば良い。この方たちも被災者になってしまっており、そうした行動が北海道の支援になるのだから。

一度広がった風評を既存のメディアで払拭することは難しい。多くのメディアは広告収入で成り立っているが、最近の広告研究の世界では人を動かすのに最も力のあるメディアは「口コミ」であると言われている。一方的でバランスの欠いた報道をするメディアよりも、実際に行って見てきた人の話しの方が信頼されて影響力のある時代なのだ。

もし、北海道に関心があるならば、そして困っている人を助けたいと思うならば、ぜひ北海道に来て欲しい。そして「遊びに来たよ!」と言ってほしい。それを聞いた北海道の人たちは笑顔になり、誰もができる限りのおもてなしをするだろう。

そうした新しいボランティアのカタチが広がれば復興は早まる。そして、それはいまなお、復興に向けて歩んでいる西日本豪雨で被害を受けた中国四国地方の人たちや、台風21号で被害を受けた関西地方の人たちにも言えることだ。一時的な災害報道だけで地域をイメージしないでほしい。どこの場所にも皆さんが来るのを心待ちにしている人がいるのだから。

執筆:野村尚克(のむらなおかつ)/北海道出身・東京都在住。2011年の東日本大震災では企業の支援活動や現地の大学生らの復興活動を手がけ、宮城大学非常勤講師も務める。2016年の熊本地震では企業や大学生らのトリプルボランティアを手がけ、東海大学熊本キャンパス復興支援チームのアドバイザーも務めた。2018年9月6日、北海道の実家へ帰省中に災害に遭遇。立教大学大学院修了、筑波大学大学院退学。著書に「世界を救うショッピングガイド」、「ソーシャル・プロダクト・マーケティング(共著)」など。「ボランティア白書〈2012〉」、「新CSR検定3級公式テキスト」等への寄稿も。社会デザイン学会、日本NPO学会、日本災害復興学会、日本経営倫理学会会員

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