<再ブレーク盤> 藤澤ノリマサ『ポップオペラ名曲アルバム』 感情のうねりに任せた熱唱に引き込まれる

藤澤ノリマサ『ポップオペラ名曲アルバム』

 ポップスとオペラを融合した作品を発表する男性歌手による70~80年代の邦楽カバー集。一見、分かりやすい切り口だが、実はとても緻密に作られている。

 『瑠璃色の地球』や『糸』などの全12曲を、武部聡志によるピアノ演奏のみで歌うのだが、見事なまでにドラマティック。彼の歌唱は、まるで“飼っていたチワワが、実はドーベルマンでした”という、前半のか細さから、サビの太く響く歌声への激変が持ち味だが、本作では、透明感のある裏声や演劇的な歌唱も加わり、人の弱さや立ち上がる勇気も感じられる。これは、歌声と引き合うようなピアノ演奏が引き出した効果も大きいだろう。

 特に、『for you…』から『川の流れのように』までのラスト4曲は、原曲通りではなく感情のうねりに任せた熱唱に引き込まれる。また、甘さと力強さが溶け合う様子は70年代の布施明を想起させ、この選曲や演奏によって彼の10年の成長を実感した。

 初回盤CDには、代表曲4曲のピアノ弾き語りと新曲『AVANTI』を収録。本作を聴けば、“シンプル”と“イージー”の違いをより意識するはず。

(ワーナー・2CD+フォト・ブックレット 初回限定盤 5000円+税)=臼井孝

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