印象深い中日戦での3度の逆転劇 9回の得点力際立つヤクルト、データも傑出

ヤクルトのバレンティン・山田哲人・青木宣親(左から)【写真:荒川祐史】

セ他球団と比較しても飛び抜けた9回の平均得点

 今季のセ・リーグで、ヤクルトの9回における得点が目立っています。特に印象深いのは、

6月28日
中日
011 000 031 | 6
002 000 025x| 9
ヤクルト

7月21日 
中日
020 010 011 | 5
000 002 203x| 7
ヤクルト

9月4日
中日
330 002 100 00 | 9
010 200 006 03x| 12
ヤクルト

 と、神宮での中日戦における9回の攻撃は凄まじく、9回裏のあった6試合で4回得点しています。また他カードや他球場での9回の得点も目立って多いように見えるのですが、実際にはどうでしょうか。

◯ヤクルトの9回の対戦球団別平均得点

対中日 1.24 対DeNA 0.80 対阪神 0.71  
対巨人 0.67 対広島 0.47 対パ・リーグ 0.31
(ヤクルトのイニング平均得点 0.52)

 対広島と対パ・リーグ以外はヤクルトの1イニングにおける平均得点を上回っています。

 ここで、セ・リーグ各球団の9回における得点力を比較してみましょう。
(データは9月18日現在)

◯9回の平均得点と得点確率

ヤクルト
平均得点 0.70 得点率 35.0%

阪神
平均得点 0.46 得点率 23.3%

広島
平均得点 0.43 得点率 24.0%

巨人
平均得点 0.41 得点率 24.5%

DeNA
平均得点 0.40 得点率 26.0%

中日
平均得点 0.36 得点率 23.1%

 他の5球団の平均得点が0.4前後の中、ヤクルトは0.7と飛び抜けています。また得点率もヤクルトだけ30%以上となっています。では9回の攻撃指標を比較してみましょう。

9回の攻撃指標も特筆ものの数字

◯9回の打率、OPS、本塁打、先頭打者出塁確率、代打率、代打OPS、代打本塁打

ヤクルト
打率.319  OPS.870 HR 11 先頭打者出塁確率43.4%
代打率 .267 代打OPS.859 代打HR 3

広島
打率.224 OPS.722 HR 12 先頭打者出塁確率34.4%
代打率.245 代打OPS.743 代打HR 1

DeNA
打率.238 OPS.701 HR 14 先頭打者出塁確率23.8%
代打率.299 代打OPS.825 代打HR 3

中日
打率.268 OPS.695 HR 8 先頭打者出塁確率 29.8%
代打率.250 代打OPS.571 代打HR 0

阪神
打率.232 OPS.667 HR 5 先頭打者出塁確率34.7%
代打率.321 代打OPS.796 代打HR 0

巨人
打率.242 OPS.638 HR 8 先頭打者出塁確率37.1%
代打率.190 代打OPS.557 代打HR 0

 ヤクルトの数値はどれも傑出しており、特に先頭打者の出塁確率は4割を超えています。また代打のOPSが0.8を超えているのも特筆すべき点です。

 さて、9回にリードされた状態で臨んだときの得点についてもまとめてみました。

◯9回ビハインド時の平均得点と得点確率

ヤクルト
平均得点 0.86 得点率 41.4%

巨人
平均得点 0.44 得点率 27.4%

中日
平均得点 0.37 得点率 22.4%

広島
平均得点 0.37 得点率 21.6%

阪神
平均得点 0.33 得点率 21.9%

DeNA
平均得点 0.32 得点率 25.4%

 ヤクルトの平均得点、得点確率ともに、9回平均時より上回っています。つまり9回リードされた状態でのヤクルトは、より攻撃力を増しているということになります。では打撃指標もみてみましょう。

◯9回ビハインド時の打率、OPS、本塁打、先頭打者出塁確率、代打率、代打OPS、代打本塁打

ヤクルト
打率.348 OPS.937 HR 9 先頭打者出塁確率43.5%
代打率.306 代打OPS.992 代打HR 3

中日
打率.272 OPS.690 HR 5 先頭打者出塁確率 28.4%
代打率.280 代打OPS.622 代打HR 0

DeNA
打率.219 OPS.655 HR 9 先頭打者出塁確率22.5%
代打率.293 代打OPS.832 代打HR 3

広島
打率.203 OPS.651 HR 5 先頭打者出塁確率30.6%
代打率.129 代打OPS.350 代打HR 0

阪神
打率.235 OPS.644 HR 3 先頭打者出塁確率37.5%
代打率.357 代打OPS.901 代打HR 0

巨人
打率.237 OPS.626 HR 6 先頭打者出塁確率38.7%
代打率.220 代打OPS.636 代打HR 0

 どの指標も平均時より増強されており、打率、代打率は3割超え、OPS、代打OPSは0.9を超えています。その結果、9回の攻撃人数は以下の分布になります。

ヤクルトは9回に6人以上つなげて攻撃する割合が3分の1

◯9回ビハインド時の攻撃人数

ヤクルト
3人24.6% 4人21.7% 5人20.3% 6人以上33.3%

広島
3人36.7% 4人34.7% 5人14.7% 6人以上14.3%

阪神
3人34.4% 4人28.1% 5人18.8% 6人以上18.8%

DeNA
3人39.4% 4人35.2% 5人11.3% 6人以上14.1%

中日
3人43.3% 4人23.9% 5人17.9% 6人以上14.9%

巨人
3人43.5% 4人24.2% 5人17.7% 6人以上14.5%

 ヤクルトは3人で終わる割合が少なく、6人以上つなげて攻撃する割合が3分の1にもなっているのがわかります。他球団が3人であっさりと攻撃を終える割合が1/3以上であるのに比べ、とても対照的なデータとなっています。

 ちなみに9回ビハインド時、どの打順で始まるかを示すデータは表の通りです。

9回ビハインド時の先頭打者打順割合

 ヤクルトは打順の巡り合わせで9回に青木宣親、山田哲人、バレンティンといった強打者が配置されている上位打線に回る確率が高くなっていることがわかります。また9番スタートが14.5%ですが、ここに代打が入り出塁すると、ランナーをおいて、上位打線がランナーを迎え入れるというパターンでの得点も目立っています。

 打順の巡り合わせに関する考察に関してはまだ議論の余地はありますが、ヤクルトの9回における粘り強さがデータで示されました。
 
 ただ、9回の攻撃を迎えるということはホームゲームの場合、リードされている(もしくは同点)ということの表れなので、本来なら9回の攻撃は少ない方が良いということになります。ちなみに9回をリードされて迎えた回数は

広島 49回
巨人 62回
阪神 64回
中日 67回
ヤクルト 69回
DeNA 71回

 となっています。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

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