アウディ 新型A7 Sportback&新型A8 試乗| アウディらしい軽快な走りに、EV時代への序章を感じさせる麗しのスポーツバックとフラグシップセダン

ウディ A7 Sportback S line 1st edition

セダンの洗練とアバントの実用性を備えた、麗しのスポーツバック

ウディ A7 Sportback S line 1st edition
ウディ A7 Sportback S line 1st edition

アウディ A6とA8の狭間を埋める巨大な5ドアハッチバック。ご存じ、アウディ A7 Sportback(スポーツバック)の二代目モデルが登場した。

これはメルセデス・ベンツで言えばCLS、BMWで言えば6シリーズ・グランクーペに相当するクルマで、実用性はもちろんのこと、ここに“若さとエレガンス”を備えることが最大の特徴だ。そしてアウディ流に言えば、セダンの洗練とアバントの実用性を備えるのがスポーツバックということになる。

確かに新型A7 Sportback、そのスタイリングは麗しい。そのダース・ベイダー的な顔つきこそいかついが、サイドビューでは「quattro」を表現する前後のフェンダーラインと、一段下のドアノブから伸びるセンターラインの交錯が目に楽しい。そしてダメ押しで、ドアの厚みを打ち消すための深くえぐれた下端のプレスが、その存在感を強烈高める。

線の多さではメルセデスのCLSとは対照的。その賑やかなデザインにシックなカラーを重ねると、いつまで見ていても飽きない。アルマジロのようにヘンテコなカッコウをしていた先代に比べると、スポーツバック的なリアビューは受け継ぐものの遙かにエッジーで、それなのになめらかで、ひとことで言えばカッコいい。

マイルドハイブリッドが組み込まれた3リッターV型6気筒TFSI、その魅力とは?

ウディ A7 Sportback S line 1st edition

しかし新型A7 Sportbackがカッコ付けているのは、デザインだけじゃない。パワーユニットやインターフェイスも、外見に負けないくらい先進性を武器にしてEV時代に見栄を切っている。

グレード構成は一種類で、エンジンは340ps/500Nmの出力を発揮する3リッターV型6気筒TFSIを搭載。駆動方式は後輪の駆動をコースティングする最新世代のクワトロ4WDだ。

しかし今回からそのパワーユニットには、48Vのマイルドハイブリッドシステム(MHEV)が組み込まれている。具体的にはベルト駆動方式のオルタネータースターターを用い、ブレーキング時に最大12kWのエネルギーを回生してリチウムイオンバッテリーに充電。その電力を走行に役立てている。

マイルドというだけあり、EVとしての魅力は弱い。極低速域でアクセルを一定に加速をすると、エンジン回転が低く抑えられたまま加速をして行く様は確認できるものの、こらえ性なくアクセルを踏み込めばすぐさま内燃機関がその主導権を握る。

このツインスクロールターボを採用するTFSIと、デュアルクラッチを用いた7速Sトロニックの加速はすこぶる気持ちが良いから、なおさらモーターを実感しにくい。

では、どこでその利便性を感じられるのかと言えばそれは、「感じられないところに意義がある」ということになる。というのもこのMHEVはアイドリングストップからの始動があまりにスムーズで、どこでエンジンが掛かったのかを全く意識させないままに走り出してしまうのである。ちなみに今回の試乗では高速走行を試すことができなかったが、このMHEVは55~160km/hというワイドなレンジでエンジン出力をカットするコースティング走行も可能だという。

インテリアはアウディの“血の通わない”ロボ的な印象をさらに高めた

ウディ A7 Sportback S line 1st edition
ウディ A7 Sportback S line 1st edition

その静かな走行フィールにピタリとマッチするのが、インテリアの質感だ。

外観同様ポリゴンで統一されたインパネやメーターナセルの造形は無機質。特にセンターパネルから二段構えで備え付けられる巨大なデジタルパネル(MMIタッチレスポンスコントロールシステム)が、アウディの“血の通わない”ロボ的な印象をグッと高めている。

インフォテインメントなんていかにもな横文字を並べたところで、何か特別なことをやっているわけではない。最大7名のドライバープロフィールを登録できると言っても、スバルだってすでに新型フォレスターで、最大5名だけれど、これをやっている。

そこにはナビやオーディオ、クライメイトコントロールといった至極当たり前の機能がフルデジタル化されているだけなのだが、巨大なクリーンが“カチッ”とクリック感のあるタッチで動く様を見る(感じる)と、次世代の雰囲気が伝わって来るような不思議な気持ちになる。これで「ハロー、サー。今日はどこへ?」なんて聞かれたりしたら、気分はナイトライダー。つまりこうした演出が、かなり心理的には効果があると言うことだ。

とにかく軽快な走りをみせたA7 Sportback!唯一の弱点は・・・

ウディ A7 Sportback S line 1st edition

そんな新型A7 Sportbackのフットワークは、呆れるほどに軽快だ。このクラスではもはや常識装備となった後輪操舵と、可変ギアレシオのステアリングの組み合わせ(ダイナミックオールホイールステアリング機構)が、狭い山道でもこの巨体を軽快に走らせる。こうなってくると、小型車の利便性もあったものではない。

ちなみにその最小回転半径は、5.2mという小ささである。(ダイナミックオールホイールステアリング非装着の場合は5.7m)

ハンドリングは、これまでのアウディに見られたアスリート的なスポーツカー的テイストではない。操舵に対する反応は徹頭徹尾穏やかで、しかしながら思い通りにクルマを曲げることができている。雲の上を滑るようなコーナリング感覚はまさに後輪操舵の影響。リアタイヤがトレイルし、スリップアングルによる抵抗がないために、特に低速走行時の同位相状態では、一昔前のドイツ車然としたどっしり感は失われている。とにかく動きが軽やかなのである。

ウディ A7 Sportback S line 1st edition

唯一この新型A7 Sportbackに残念な部分があるとすれば、この近未来的な雰囲気に少しだけ水を差す乗り味だ。それはそうだろう。スポーツバック最大の特徴であるハッチバックは巨大な開口部をボディに与え、セダンに比べてそのボディ剛性は大幅に落ちているはずである。さらにその足下には、20インチの大径タイヤを履かせているのだ。

そういう意味でメルセデスがCLSにハッチではなくトランクとエアサスを与えたことは正解であり、無難。かたやポルシェ パナメーラが同じハッチバックで高い質感を得ていることを考えると、新型A7 Sportbackもオプションのエアサスが必須だと思えた。

アウディ A8 55 TFSI quattro

新型A7 Sportbackに足りなかった質感の高さを備えた新型A8

新型A7 Sportbackの後に乗ったせいもあるけれど、新型A8はアウディのフラグシップセダンを名乗るに相応しいでき映えだった。アーキテクチャー的には新型A7 Sportbackとまったく同じ。ダイナミックオールホイールステアリングを駆使して5170mmの巨体をスムーズに走らせ、4リッターV8(460ps/660Nm)、3リッターV6(340ps/500Nm)ともにマイルドハイブリッドシステム(MHEV)を搭載している。

アウディ A7 Sportback(右)・A8(左)

インテリアの設えも、新型A7 Sportbackと共通である。いやむしろこれは、新型A8のシステムが新型A7 Sportbackに投下されたというべきか。

では新型A8がどこでヒエラルキー差を見せつけているのかといえば、それは新型A7 Sportbackで僅かに不足と感じた質感においてだ。

アルミニウムを基軸にスチール、マグネシウム、そしてカーボンで作り上げられたセダンボディは剛性感が高く、その乗り味には落ち着きがある。その重量は2040kgまで抑えられており、ねじり剛性に関しては先代比で24%も向上しているのだという。

ドイツ三強らしいハンドリング性能

アウディ A8 55 TFSI quattro

エアサスの制御も見事だ。フワフワとしたバウンスを残すことでエアサス付きのプレミアム性をアピールするのではなく、あくまで最適な乗り心地とスタビリティを両立するための最適な手段としてこれを選んでいる。「あ、エアサスなのか。どうりで乗り心地がよいわけだ」という具合である。

基本的に精緻なハンドリングはメルセデス・ベンツよりも若々しい反応の速さがあり、クワトロ4WDの接地感はBMWよりも腰の据わった直進安定性を言葉少なに保証している。

ドイツ三強は、お互いにライバルを横目で見ながらも他を真似ない姿勢が共感できる。つまりオーソドックス派ならメルセデス・ベンツ Sクラス、軽快さを大事にするならBMW 7シリーズ。そしてその中間を行くのがアウディだと思う。

新型A8は若さがあるのに攻めが足りない!?保守的な印象を与えたポイントは?

アウディ A8 55 TFSI quattro

ただし新型A8には(新型A7 Sportbackもだが)、かつてアウディが持っていた冷酷なまでの機械っぷりがなくなった。矢のような直進性や、大地に張り付くような駆動感だ。あの融通の利かない冷徹さが薄らいだのは少し寂しくもあり、同時に彼らが次のフェイズへ移行しようとしているのではないかと思えた。

また若さがあるのに、ルックスも少し保守的に過ぎると感じた。せっかく若さがあるのだから、新型A7 Sportbackのトランク版(ややこしい!)でよいのではないか。

アウディ A8 L 60 TFSI quattro(4リッターV8エンジン)

特に上級パワーユニットである4リッターV8 TFSIの穏やかな出力特性は、こうした印象に拍車を掛けた。どこからでも豊潤なトルクと4WDのダッシュ力が快適な出足を実現し、そのままアクセルを踏み倒せばハイパーセダンの超高速巡航を可能にする。

しかしこれまで感じていたTFSIユニットの、そしてアウディ製V8ユニットのキレと凶暴性のあるブースト感やメリハリが薄い。これだと、もうジェイソン・ステイサムは乗ってくれないのではないだろうか?

冗談はともかく、このまったりとしたフィーリングがMHEVによって初速を補われたことによるものなのか、トルコンATである8速ティプトロニックのテイストによるものなのか、年々厳しさを増すエミッションコントロールによるものなのかはわからない。たぶん、全ての要素が入り交じっての結果だろう。もちろん3リッターV6との出力差は大きいのだが、これなら速度域が低い日本では、無理してV8ユニットを手に入れる必要はないのではないか?

新型A7 Sportbackと同じく、ダイナミックオールホイールステアリングを備えた新型A8の身のこなしは驚くほどに華麗だ。後部座席に乗っていても後輪操舵がアタマを揺さぶることなど皆無であり、シートをリクライニングさせてくつろげば、やや足下に狭さを感じつつもショーファードリブン度は抜群に高い。

新型A7 Sportbackと同じく、新型A8もかつてのアウディ味を脱却

アウディ A8 55 TFSI quattro

量産車世界初と言われるレーザースキャナーをフロントに一基備え、合計23個に及ぶレーダーやカメラが導入されたACCのハンドルアシスト操作も、以前に増してその作動が滑らかになった。ちなみに2019年からは、このレーザースキャナーが路面状況をスキャンしてロールやピッチをコントロールする「AIアクティブサスペンション」が導入される。これは側面衝突が避けられない状況では車体を持ち上げ、一番強固なサイドシルを盾にして乗員を保護するのだという。

つまりADAS(自動運転)の時代が来れば新型A8は、ドライバーを雇わずしてパーソナルショーファーを可能とするわけだ。そしてアウディはこれを見越しているのではないかと思う。もし近未来にボクが新型A8を手に入れるだけの余裕があったなら、迷わずロングホイルベースを選ぶだろう。

テイストの統一という点では、新型A8も新型A7 Sportbackと同じくかつてのアウディ味を脱却している。そして思うのは、これが来るEV時代への序章であり過渡的状況なのだろう、ということである。

[Text:山田 弘樹/Photo:小林 岳夫]

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