明日を笑おう!名もなき農村を元気にしたい。

いま名もなき農村で起きていること

西日本豪雨では各地が大変な被害にあった。土砂崩れなどによる被害場所は細分化され、もはや山奥の田舎においてはメディアの取材もほとんど入らず、誰もが通り過ぎて行くだけの場所が数多く存在する。

僕の出身は、そんな誰もが通り過ぎて行くだけの広島県竹原市田万里町という農村だ。周辺地域の人は「田万里」のことを知ってるが、他県の人はもちろん県内の人でもこの地を知らない人が多い。でも日本全国を見渡してみるとそんな農村だらけである。言うなれば「名もなき農村」だらけ…。

僕らは昨年、インターネット農学校 The CAMPus(ザ・キャンパス)を立ち上げ、全国にいる変態的な農家さんたち(敬意をもって言ってます笑)や農や食の分野に携わる面白い人たちを集めて、彼らの生き方や考え方、農法などをウェブマガジン形式の講義として配信している。
なぜこのインターネット農学校The CAMPusを立ち上げようと思ったかと言うと、僕自身が小さな米農家(前述の竹原市田万里町)の出身で、一昨年に父親が亡くなったことをきっかけに農村の高齢化や担い手不足の深刻さを痛感したからに他ならない。

これまで戦後の農地改革で田畑が地主のものから小作人のものに権利移譲して細分化された農地は、その地で農業が商売として成り立たなくても「ご先祖様に申し訳がたたない」という思いの上に守られてきていた。

しかし、昨今ではインターネットや科学の進化によって農村出身の次世代たちは、都会でより儲かる仕事に就くようになり、地域の担い手はいなくなる一方。そんなことを考えていると「何とかしなきゃ」という想いが猛烈に沸き起こる。

幸せな未来の暮らしは農村にヒントがある

2017年に売れた本で、イギリスのビジネススクールの教授2人が書いた『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』と言う本がある。その中で言われているのは、人生100年時代なんだから、何度だって試せるし、失敗も繰り返してより成長出来る時代なんだということ。キーワードはより自分らしく、健康的に、クリエイティブに。僕はこの本を読んで、そのフィールドは「農村」にあると思った。

またダライ・ラマが言ってた「人間社会は科学の進化とともにあり、科学の進化は仏教哲学を実証していってるだけ」だという言葉を思い出す。つまりそれは「人間社会は自然の中にこそ答えを求めて進化している」という意味。

テクノロジーが進化すればするほど、僕らの暮らしは便利になるはずなのだが、便利になる反面で何か人間(自然の中の一つの要素)として大切なものを忘れていっている気がする。

都会で病んで働くべからず。疲れたら空を見上げてこう言おう、

「そうだ農村へ行こう!」

農村では「創ること」「働くこと」「食べること」という人間の暮らしの基本要素が自然環境の中で1本の線で繋がっている。The CAMPusでの活動を通じて都市と農村の暮らし方の違いを見ていると、まず「働き方」を見直すことから考えるべきだと感じるようになった。The CAMPusは、新型農家の誕生を促して地域を活性化させていくのがその活動目的。新しく農家をやってみようという気概のある人は突然変異では生まれない。だからこそ、まずは週末農業など都市と農村に生活の拠点を置きながら、新しい時代の働き方を考えていくのが近道だなぁと思っている。
その一つとして、僕の出身の名もなき農村「田万里」で新しい動きに取り組み始めていた。名付けて「田万里 有機油の里プロジェクト」。田万里は稲作が中心の農村なので、そのスタイルを変えることなく、だけど確かな地域ブランドを誕生させることのできるプロジェクトとして、春の時期に村全体に菜種を植えて5月のGWには、観光客が菜の花畑を観に来る。そしてその後は菜種を収穫して油を精製する。そして、いつも通り水稲を植えて秋になったら米を収穫し、今度は米粉油を生成する。しかもそれらを全て有機で作る。こんなことを仕掛けて、地元の若者たちが作るベンチャーが誕生したら面白いだろう、ということで自治体にも具体的に提案し「進めていこう!」という機運になっていた。

その矢先、西日本豪雨が発災。

僕は考えた。これは神様が与えた試練なんだなと。自然と共に生きるというのはそういうことなんだろう。乗り越えなければ。

ピンチをチャンスに。

有機油の里プロジェクトは一旦置いといて、まずは、今回、この田万里の地で被災した農家さんたちのお手伝いをしたいと考えた。田万里は西日本豪雨で多くの土地に土砂が流れ込み、民家においても断水や家屋浸水など、大変な被害があり多くの人が傷ついた。しかし、どうしてもこのような有事のときは、まず生活インフラの方が優先され、田畑など農地のことは後回しになる。調べてみると、今回、農地に対しての豪雨の被害は甚大で、今後、完全なる復興には3年かかると市は試算している。

自然とともに暮らす僕らにできること

The CAMPusは「世界を農でオモシロくする」というのが理念。だから今回、田万里でボランティアをするにあたっても、どうせやるならポジティブに楽しみながらやって行こうという事で企画したのがこちら

https://camp-fire.jp/projects/view/93607

この地域の魅力を1人でも多くの人に知ってもらいたいし、いつか有機油の里を誕生させたい。そんな意図もベースに起きつつ、もしもこれが成功すれば、全国の名もなき地域だって元気にできる。そう思った。

一見、巨大すぎる問題や課題も、誰だって最初は小さな動きだけど、どうにか改善するアクションは出来るはず。その一歩は、全国の名もなき地域の未来について少しでも思いを巡らせること。そして、何かそこでチャレンジをしようとしている人を応援してあげたり、参加してみたりしてほしい。ポジティブに。

田万里での農業ボランティアツアーは今月9/16(日)〜29(土)。農地の泥かきとか専門技術が必要なものは直接やらず、人手が足りない農家さんたちの草刈りとか稲刈りなど日常作業のお手伝いが中心。だけど、このような作業を通じて、豪雨が与えた農村への被害と、新しい農村の未来を模索する学び多き体験ツアーにできたらと思う。毎日、The CAMPusの教授陣や農分野におけるプロフェッショナル、地域の未来を創るキーマンたちをお招きしてワークショップもおこなうので乞うご期待!

被災者の皆様へメッセージ

この度は西日本豪雨による被害を受けられた皆様に心よりお見舞申し上げます。僕の実家の小さな田圃にも土砂が流れこみ今年の収穫はかなり厳しい状況です。「止まない雨はない」というのは素敵な言葉だと思います。がしかし、この言葉の意味は「雨が止むまで待てばいい」ということだと思うのですが、僕は「晴れた空を目指して雲の境目のところまで突っ走ろう」と解釈しています。現状維持なんて有り得ない。僕らの世代が動きを変えて思い切りPEACEな方向に突っ走れば、きっと子や孫の未来は明るく楽しく多くの笑顔に包まれていくことと思います。豪雨による爪痕は大きなものでしたが、この逆境を大きな好転換の機会として捉え、共に手を携えながら頑張っていきましょう。

読者の皆様へメッセージ

どこかで災害が起こった時、私たちに何が出来るのでしょうか?「ボランティアに行きたいけど仕事などで時間がとれない」「寄付したいけど生活費が圧迫されるので厳しい」などなど思いがあっても様々な理由から具体的な行動に繋がらない人も多いと思います。確かにボランティアなどの社会貢献的な活動にはある程度、時間とお金の余裕が無いと出来ないというのも事実です。しかし、どうにか自分のコネクションを辿って被災地にいる人々とほんの一瞬でもいいので触れ合ってみてください。気持ちは一変するはずですし、小さくても今の自分に出来ることが必ず見つかるはずです。大事なのは「自分ごと」として考えること。千里の道も一歩から。踏み出しましょう。

【井本喜久プロフィール】

1974 年、広島県竹原市で小さな米農家の息子として生まれる。東京農業大学に進学するも、在学中に渋谷のイベント会社でアルバイトに明け暮れ。卒業後、そのままその会社に入社。企業プロモーションの企画にのめり込む。26歳で独立。故郷の広島でアパレルショップを開店するも1年半で閉店。その後、広告事業に切り替えるも上向かず、2年で広島を撤退。東京に戻り広告業の下積みからやり直す。2009年、岩井俊二氏らと映画製作をプロデュース。同じ年に日本イベント大賞を受賞。その頃から「広告」という枠を超えて社会への熱いメッセージを強く意識するようになる。現在は「次の世代のPEACEを創る」を自身のテーマに様々な企業のブランドづくりに携わる。2012年には、仲間と一緒に「ポテトとジンジャーで世界を平和にする」食のブランド、Brooklyn Ribbon Fries( http://brooklynribbonfries.com )を立ち上げ、東京の表参道と駒澤でお店を展開中。2016年には「学び」をテーマにした未経験の若者が主役の都市型マルシェ「The CAMPus(ザ・キャンパス)」を新宿駅屋上で半年間の期間限定で展開し延べ10万人を動員。また、2017年には「The CAMPus」という屋号はそのままに、インターネット上にバーチャルな農学校( http://thecampus.jp )を誕生させる。「世界を農でオモシロくする」をテーマに新型農家の誕生を前提とした地域活性プロジェクトに日々奔走中。

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