「赤ちゃんは1人残らず死んだ」100人超の命を奪った沈没事故 生存者の無念は……

地中海のマルタ島沿岸で、多数の移民・難民を乗せたボートが沈没する事故が起きた。生存者の証言によれば、2隻のゴムボートが9月1日に北アフリカのリビアを出航。1隻のボートはエンジン故障で停止し、もう1隻も空気が抜けて沈み始めた。乗客がイタリア沿岸警備隊に連絡したが、救助を待っている間に沈没したという。

この事故で、子ども20人以上を含む100人以上が死亡。生き延びた55人はリビアに送還され、応急処置を受けた後、収容センターに勾留された。複数の生存者が、現場の惨状を生々しく語った。

足が不自由な女性にしがみつき……

水難事故から生還した女性

水難事故から生還した女性

電話に出た(イタリア当局の)女性に「お願いだから助けに来て」と言いました。私は「子どもと女性が大勢いるの」と繰り返しましたが、手遅れでした。人が溺れだしたんです。隣の人に携帯電話を回し、みんなで助けを求めました。

どうして助けに来てくれなかったんでしょう?大勢の人が亡くなりました。私は夫を亡くしました。何時間かした後に飛行機が来たので声を張り上げました。誰もが生き延びようと必死でした。

神のご加護で、今も生きています。私は救命胴衣を着けていませんでした。隣に片方の脚がない女性がいて、救命胴衣を持ってはいたけれど、使い方が分からず困った様子でした。着るのを手伝ってあげたら、胴衣につかまらせてくれました。助かったのは彼女のおかげです。 

海水を飲んで何時間もしのいだ

当時の様子を語る10歳の少年(右)

当時の様子を語る10歳の少年(右)

お母さん、妹と一緒にリビアを出ました。僕たちが乗っていたボートのエンジンが故障して、何時間も海の上で過ごしました。飲み水がなかったから、塩辛い水を飲みました。

イタリアの沿岸警備隊が助けに来てくれると思っていたんだけれど、姿を見せたのはリビア人で、(リビアに)連れ戻されました。2人の死体を見ました。大勢の人が泣いていました。

私たちは犯罪者じゃない

欧州に対する憤りを語った男性

欧州に対する憤りを語った男性

航海の途中で、ボートがしぼんでいきました。猛暑の中、子どもや妊婦が大勢乗っていました。死体の隣で水に浸かって、生き延びようと必死でした。

イタリアの警備隊に電話したのに、彼らはリビア人を送って、ここに連れ戻しました。ものすごく危険なリビアで、私たちがどんな目にあっているのか知るべきです。私の左脚は銃で撃たれ、今も傷跡が残っています。ヨーロッパで脚を治療したかったんです。

とても悲しく、がっかりしています。つらい。たくさんの友達を亡くしました。私たちは犯罪者じゃない。がんばって生きようとしているだけです。ここでは囚人として閉じ込められています。明日が見えません。 

赤ちゃんはみんな亡くなった

生存者の男性

生存者の男性

強い日差しの中で、ボートは沈み始めました。子どもがたくさん乗っていて、赤ちゃんは1人残らず死にました。

なぜ何時間も救助が来なかったのでしょう?人が死んでいるというのに、なぜ私たちは海で放っておかれたんでしょうか? 

私たちも人間です

救助後、収容センターに勾留された女性

救助後、収容センターに勾留された女性

私たちは海に打ち捨てられました。なぜ人を見殺しにできるのでしょう?助ける方法はいくらでもあったはず。みんな希望を失っています。

私たちも人間です。ヨーロッパを目指すのは、よりよい人生を送りたいから。これからも、海を渡る人は絶えないでしょう。戦争から逃げる人も、貧困を逃れる人もいます。まず救助して、それから個々の事情をみていくべきです。

ずっとリビアにいる気はありません。ヨーロッパに行きたい。私たちは犯罪者ではありません。

国境なき医師団(MSF)はリビアで2011年から活動。その後2016年にトリポリ収容センターで活動を開始し、一次医療、心理ケア、給排水・衛生活動を担っている。現在緊急搬送を担う唯一の医療団体であり、収容センター内の難民・移民・庇護希望者を病院に搬送している。MSFはフムス、ズリタン、ミスラタ市内の収容センターでも活動し、バニワリドでも診療を行っている。 

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