【日本溶接協会と日本溶接学会、共同事業開始から2年】互いの知見生かし「魅力」発信 人材確保への危機感、連携強化後押し

 日本溶接協会と日本溶接学会が共同事業に乗り出して間もなく2年を迎える。技能者や技術者、研究者といった溶接・接合技術の担い手が不足・減少する中、互いに活動の枠組みを広げながら連携を強化。団体の垣根を越えて、ものづくりの基盤となる技術の発展に向けた糸口を探る動きが活発になっている。

 共同事業を推進する背景の一つである、厳しさが増す人材確保に対し、両団体の危機感を募らせる。溶接協会によると、好調な建築鉄骨市場を背景に、ここ数年で溶接技能者の不足感が拡大。2016年度の初めから一段と顕著になり、17年度には有効求人倍率が前年度の1・92倍から2・54倍にまで上昇している。

 技能者資格の検定試験をめぐっては、新規の受験者が全体の半数近くにとどまり、直近で合格率も70%台前半に低下している。全産業における就労人口の動きに比例して、25年までに溶接技能者が現行に比べて最大10%程度減少する恐れもあり、溶接管理技術者とともに量と質の両面で人材の確保が喫緊の課題として迫っている。溶接学会においても研究者の減少は最先端の研究に対する競争力を削ぐのに加え、溶接の教育をめぐる機会と質を低下させるものと受け止める。

 重要な技術要素である溶接・接合技術の担い手をめぐる危機的状況に対し、協会と学会は溶接界の総力を結集して対応する必要があると判断。これまで両団体で運営してきた日本溶接会議に共同企画委員会を新設し、「アウトリーチ」と「イノベーション」「人材育成・教育連携」を活動の柱に据えて、一昨年10月から活動を開始した。

 共同企画委員会は協会の総合企画会議と学会の企画委員会が主導する。両団体が派遣するメンバーが委員会で議論を重ねた活動案は着々と実行に移されている。

 今春には協会が主催者として参画する国内最大の溶接・接合展示会「国際ウエルディングショー」に特設ブースを出展した。これまで両団体らが同展示会で携わってきた溶接連合講演会のプログラムを発展させ、新たに溶接シミュレータの体験コーナーを配置。実践さながらの趣向を凝らし、IoTを活用した技能伝承に照準を合わせた。

 協会も学会の主催行事に名を連ねる。今月12日から14日にかけて松山市の愛媛大で開催した学会の秋季全国大会において、初めて共同でワークショップを実施した。学会の四国支部が企画する「溶接技術実用講座」を兼ねた場には、両団体や会員企業に所属する識者6人が登壇。約60人が造船や建築鉄骨といった四国で盛んな溶接の需要分野に関連した講演を聴いた。

 会場の一角には溶接関連企業が製品や工法を展示するコーナーがあり、協会は昨年の同大会に続いて専用のブースを構えた。対象のスペースは大幅に広がり、溶接のマンガや女子会、アプリをはじめ独自性に富んだ多彩な紹介をした。期間中は発表や聴講を終えた学会の関係者が訪れ、「授業で教材に使いたい」と出展する印刷物の手配を依頼する光景もあった。

 今年度も上半期が終わろうとする中にあって、両団体の共同事業は3年目に入る。溶接という同じ土俵にあって、新旧の場でそれぞれの知見を生かした取り組みは深化の一途をたどる。交流や発信の機会醸成を通じて溶接界の魅力を伝え、入職者の門戸を広げていく。(中野 裕介)

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