「ゲーゲンプレスだけとは言わせない!リヴァプールがPSG戦で見せた戦術的対応力」

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世界中のサッカー狂が待ち焦がれたUEFAチャンピオンズリーグが今季も開幕した。

例年通りグループリーグ初戦から注目カードが揃ったが、その中でも特に大きな関心を集めたのがリヴァプールとPSGの一戦であっただろう。

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共にドルトムントで指揮を執ったことのあるユルゲン・クロップ、トーマス・トゥヘルの「指揮官対決」という点でも話題を提供したが、純粋に選手のネームバリューやチーム力からみても最高級のバトルになることは誰の目にも明らかであったからだ。

そして、肝心の試合展開もサッカーファンの期待を裏切ることはなかった。

リヴァプールが、この試合で先発起用されたダニエル・スターリッジの先制点、そしてジェームズ・ミルナーのPKで2点リードを奪うが、前半終了間際にフォワード顔負けの得点力を誇るトマ・ムニエが反撃弾をマーク。さらに、終盤にはネイマールの「単独破壊」からキリアン・エンバペが見事にゴールネットを揺らし、PSGが2-2のイーブンに持ち込んだのである。

しかし、ドラマはまだ終わらなかった。

後半アディショナルタイム、途中出場したロベルト・フィルミーノが技ありゴールで終了間際に勝ち点3を奪取し、アンフィールドを興奮の坩堝と化したのである。

と、本来であれば試合内容に関してさらに言及するべきかもしれないが、ハイライト動画で視聴すれば簡単に概要を把握できる時代だ。

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そこで、今回は、このゲームの中で特に興味深かった現象を個別に抽出して焦点を当てたいと思う。

今後両チームの試合を見る際の予備知識として活用して頂ければ幸いだ。

クロップが手を加え始めたビルドアップ

ユルゲン・クロップ就任から4シーズン目を迎えるリヴァプール。監督の継続路線が続くとマンネリズムに似たような空気感が漂うこともあるが、このチームには存在しない。それは選手の入れ替えだけではなく、戦術面でも常にアップデートを行っているからである。

そして、今季のリヴァプールの変化として必ず取り上げなくてならないのが、ビルドアップ時における異変である。

これまでのリヴァプールに関しては、正直言って、そこまでビルドアップに工夫を施すようなチームではなかった。

基本戦術として、ゲーゲンプレスをベースにした敵陣でのプレー進行、ボールを奪われてから即時奪回を目指すネガティブトランジションの強度で勝負してきたチームであるため、自陣後方からのビルドアップにそこまで大きな意味を成さないからだ。

よって、対戦相手に合わせての対策についても、後ろからいかにボールを繋ぐかではなく、プレス位置や掛け方に手を加える印象が強かった。

だが、2018-19シーズンの彼らは一味違う。

これまでのリヴァプールと言えば、DFラインからボールを組み立てる際にDFとMF間でのパス交換やパスルート確保に時間をかけず、シンプルに前線の3枚を使うシーンが多かったが、プレシーズンマッチから取り組んでいるものは「自陣からじっくりと好機を伺う」戦法だ。

まず、根幹となるアクションの一つは、セントラルミッドフィルダーの一人をDFラインに落とす形である。

言わずと知れた戦法の一つだが、数的優位を作り出すことにより、前からプレスを掛けられた際に自陣の深い位置でボールロストを発生しにくくさせる効果もある。

さらに、このアクションと同時にサイドバックが意識的に高い位置を取り、FWの両翼はハーフスペースの位置にポジション修正している点も大きい。

各選手が後方からボールを引き出しやすいポジショニングを取ろうとするため、ボールの流れもスムーズに進んでいる。

(この異種系としてフォワードの両翼が大外に張り、サイドバックが中寄りのポジションを取るパターンも夏のキャンプから試験していたが、こちらはまだ実戦では活用していない)

フィルヒル・ファン・ダイク、ジョー・ゴメスのようにボールを扱える選手を所有していること、さらにGKに「足技の宝庫」アリソンが加わったことで初めて機能した戦術とは言えるかもしれないが、これで明らかにリヴァプールの「引き出し」は増えた。

過去には前線からプレッシングをかけてくる対戦相手に苦心することもあったが、今後はより冷静に試合を進められることだろう。

「対カウンター」を考慮した戦術策

上記の通り、リヴァプールのビルドアップには明確な変化が起きているわけだが、このPSG戦ではさらに面白い現象が起きていた。

それは「ビルドアップ時にセントラルミッドフィルダーの一枚を落とす」のではなく「ビルドアップ時以外にも必ず後ろに三枚を残す」という形へと変化していたことである。

前者と後者の違いは文字では伝わりにくいかもしれないが、大きな違いは、前者は「ビルドアップ時に限定されているもの」である一方、後者は「ビルドアップ時以外(アタッキングサードへ侵攻した状態など)も含まれている」という点だ。

また、DFラインを作る三枚の構成も異なる。

前者はセンターバックの二人とセントラルミッドフィルダーの一人で作ることに対し、後者はセントラルミッドフィルダー以外だけではなくサイドバックがこの役を担うケースも想定されているのである。

さらに、この三枚を構築する際にセントラルミッドフィルダーが落ちるポジションは一般的な「センターバック間の間」ではなく「センターバックの脇」を基準点とし、サイドバックとのポジション移動をスムーズにさせている点も非常に興味深い。

このメカニズム(サリーダ・ラボルピアーナと呼ばれる戦術の一種)自体は物珍しいものではなく、これまでに様々なチームが採用してきているが、少なくともこれまでのリヴァプールにおいては見られなかったものだ。

プレシーズンマッチでは、アンカー適正の高いファビーニョの特性を利用して、アンカーのポジションからそのままDFラインの真ん中に落とす動きを頻りに行っていたが、センターバックの横に移動させたパターンは少なくとも筆者の記憶にはない。

そのため、どの時点で用意したものであるかが不明だが、仮にPSG戦に向けて準備していたとするならば、クロップにはただ驚かされるばかりだ。

対策を施した理由は…

では、何故、このような変化をクロップがこの一戦で仕掛けてきたのであろうか。

この件についてはあくまでも推論にはなるが、考え得る大きな理由として「PSGの最大の武器を抑える」という狙いがあったのではないかと見ている。

リヴァプールの最大の脅威となり得たのがPSGが誇るアタッキングトリオ。エディンソン・カバーニ、ネイマール、キリアン・エンバペの個人技による無慈悲なまでの「守備ブロック破壊」である。

特にエンバッペは、カウンターアタックの場面になれば、驚異的なスピードを活かして単独で試合を決める力もあり、対戦相手は攻撃時においてもその存在を常に警戒をしなくてはならない。

そこでクロップが手を打ったのが「常に後ろに三枚を残す」というルールを決めたことであった。言い換えるならば、「いかなる状況においても、PSGの前線による攻撃に対応しやすい陣形を取り続ける」というものだ。

高度なサッカーIQを備えるプレーヤーが集結するビッグクラブであれば、試合の流れに応じて選手たちが能動的に戦術的変化を行う場合もある。

そのため、この試合におけるリヴァプールも選手主導で行われたパターンも考えられるが、このメカニズムは試合を通じて再現性や精度が高かったことを考えると、事前に用意してきたという見方のほうが可能性は高いだろう。

ここで話を戻すと、センターバックと共に後ろに残ってリスクマネージメントを行う役割は主にミルナーが担っていた。だが、彼は攻撃時にも重要な役割を担っていた(詳細は後述)こともあり、時間帯によっては彼とDFラインとの距離が開くこともあった。

となると、サイドバックが高い位置を取りがちなリヴァプールは、対カウンターアタック時に「センターバックの二人のみでPSGの前線三人を抑える」という最悪の状態に陥りやすいのだが、そこへの保険も存在した。

ミルナーが持ち場から離れる際には、ヘンダーソンにその役割を継承させたのである。

さらに、ミルナーらセントラルミッドフィルダーが敵陣サイドで高い位置を取るようなシチュエーションにおいては、両サイドバックが後ろに下がって補完するというシステムを取り、ここでも数的不利からカウンターを受けてしまうケースを未然に防ぎ続けた。

無論、PSGのカウンターアタック発動を抑えられた要因はそれだけではない。

攻撃から守備への切り替えが早かったこと、ネイマールやエンバペにボールが入っても複数で囲い込めていたという点なども好影響を与えていた。だが、いずれにせよ、この対策がPSGに効いていたことは間違いないだろう。

徹底的な右攻め

「彼らのシステム変更を予測して我々もシステムを変えたんだ。ネイマールが左サイド、ディ・マリアがセンターでプレーすると(事前に)計画していたので、そこまでディフェンス陣はトラブルを抱えなかったと思う。(中略)ボールを持った時にもネイマールがいる右サイドを使えた。ネイマールはワールドクラスのタレントだが、守備が得意な選手でない。我々はそこを突けた」

試合後にクロップはこのように振り返っていたようだが、ここで触れたいのは「ネイマールのサイドを封じるだけではなく、有効活用してその穴を突いた」という点にある。

トゥヘル政権下のPSGは守備ブロックを敷く際に4-1-4-1の形を取りながら帰陣するが、中盤における守備力(主にボール奪取力)は決して高くない。それはエンバペやネイマールのように守備時に気を抜いてしまいがちなタレント(さらにこの試合ではアンヘル・ディ・マリアもその一人)にも守備タスクを求めているためだ。

彼らが中盤のサイドに落ちて守備をする際、外から中へのパスを防ぐようなポジションを取ることが多いため、守備ブロックの外(タッチライン付近)で相手チームにボールを保持されることが多く、そこではサイドバックと共に対応して二対二で注視する場面が度々訪れる。

だが、そこで彼らは相手の出方を待って、冷静に構えての守備はできない。

誤ったタイミングでボールを奪いにいってかわされる、もしくは注意を落としてマーク相手を簡単に離してしまうといったプレーから、数的同数にもかかわらず、自らピンチを招きやすいのである。

特に左サイドの脆さ顕著で、ネイマール自体が守備面で問題を抱えていることもそうだが、左サイドバックのフアン・ベルナトに至っても対人戦や一対一の強さの面には信頼が置けるようなタレントではないことも大きい。

「ネイマールの弱点をカバーする」や「個人の力で左サイドを封殺する」という役割は求められるレベルにはなく、攻撃面に特長のあるプレーヤーであるからだ。

(個人的には、ここでベルナトを使い続けるのではなく、キンペンベを左サイドバックに移す方法やプレシーズンマッチで積極的に起用されたU-20代表のスタンリー・エンソキを抜擢したほうが機能性は高まると考えている)

そして、この穴を徹底的に突いたのが、この試合におけるリヴァプールの「右攻め」であった。

後ろから積極的に右側へとボールを運び、ミルナーはサイドアタッカー時代を彷彿させるように大外のレーンを疾走。

スタートポジションは左のセントラルミッドフィルダーであったが、持ち前のダイナミズムで逆サイド(右サイド)にも顔を出し、ムハンマド・サラーやトレント・アレクサンダー=アーノルドとの連携から幾度となくチャンスを演出。彼が右サイドで起点となることで、PSGの守備陣にプレッシャーを与え続けた。

そして、偶然にもリヴァプールのいずれのゴールも右サイドが起点となったものであった。

先制点となった左サイドからのアンドリュー・ロバートソンのクロスボールも、右サイドを崩した延長線上で生まれたものであり、2点目のPKもジョルジニオ・ワイナルドゥムのドリブルに対して、慌てたベルナトが中に絞った際に足をかけてしまったことが起因したもの。

試合を決めたフィルミーノのゴール(リヴァプールの3点目)に関しても、ペナルティエリアボックスのやや右寄りからフィルミーノが仕掛けたことで生まれたものであった。

まさに相手の弱点を攻略し続けたリヴァプールの戦術遂行力が掴んだ結果と評価できるだろう。

数シーズンに渡って築き上げてきたゲーゲンプレスを懐刀として残しつつ、攻守両面において、これまでには見られなかったカラーを取り入れ始めた「クロップ・リヴァプール」は、サッカー界において驚異的な存在になり得るかもしれない。