<レスリング>【特集】2018年世界選手権へかける(2)…男子グレコローマン87kg級・角雅人(自衛隊)

《JWFデータベース》《UWWデータベース》《国際大会成績》
《勝者の素顔=JWFフェイスブックインスタグラム


(文・撮影=樋口郁夫)

角雅人(自衛隊)

 早朝計量、決勝までを2日間で実施、グレコローマンにおけるグラウンド攻防の復活など、ルールが大幅に変わった2018年。そのルールを先取りして実施した昨年11月のデーブ・シュルツ国際大会(米国)で優勝し、新ルール向けの選手として期待された一人が、男子グレコローマン87kg級の角雅人(自衛隊)。

 今年2月のアジア選手権(キルギス)では銀メダルを獲得し、期待にたがわぬ活躍を見せた。3週間後のニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)でも5位に入賞。6月の全日本選抜選手権をも勝ち抜き、4年ぶりの世界選手権出場を決めた。

 世界レベルの国際大会は、2016年リオデジャネイロ・オリンピック最終予選以来。前回の世界選手権(ウズベキスタン)もこのオリンピック予選も、国内2番手選手としての出場だったが、今回の世界選手権は1番手としての出場。「日本の代表として世界に出ます。結果を求めます」。日本一のプライドは、間違いなく角の精神力を強くしている。

「2位も1回戦負けも同じ」という厳しい気持ちを持つ

 この夏は厳しい現実に直面した。世界選手権の前哨戦となったアジア大会(インドネシア)では、1ヶ月前のトルコでの大会で勝っていたインド選手に敗れ、敗者復活戦にも回れずに8位。立て直しを迫られることになった。「(相手が)自分を研究してきたことが分かった。最初からスパートしてきて、泡食ってしまい、自分のペースに持ち込めなかった」と振り返る。もちろん、「一度闘って研究されたから負けた」が通用するとは思っていない。「実力不足です」ときっぱり。

今年2月のアジア選手権決勝、相手を立てなくなるまで追い込んだ角だが、結果は黒星

 「優勝を目標にしていたので悔しい」と言う一方、「いつまでも引きずっていたら、世界選手権でも同じことになる。今やるべきことを、全力でやりたい」と気持ちも新たにスタートを切った。心にとどめていることが、「2位も1回戦負けも同じ」という厳しい気持ち。

 「実際は違うんでしょうけど」と前置きしながら、「優勝」への強い気持ちを持つことで自身を鼓舞し、好成績を目指している。「どんな内容でも、勝つことですよ」。2位や3位で「内容はよかったぞ」と褒められても、うれしくはない。「勝って、初めて『内容もよかった』と言ってもらえるのだと思っています」。

 スタミナでは欧州の選手にも負けない感触を持っており、「動いて相手をばてさせて勝つ」という日本選手共通の勝ち方が勝利の方程式。その前提は先にテクニカルポイントを取ること。「0-0では、相手を焦らせることはできない」。

 では、その決め手となる技は? 「この技がうまい、すごい、という選手ではありませんので…。がぶって、引きずって、カッコ悪くてもポイントを取ることです」。泥臭くても、勝つことにこだわってマットに上がる。

2014年世界選手権の失敗が精神力を強くした

全日本合宿でリフト技の練習に取り組む角

 2013年世界ジュニア選手権(ブルガリア)出場を経て、2014年にはシニアのアジア選手権(カザフスタン)へ出場。そのあと、世界選手権のマットに立った。段階を追ってステージを上げてきたが、それでも初めて経験する世界選手権の舞台は「緊張で何が何だか分からなかった」。

 相手はアフリカ選手権2位のチュニジア選手で、アジアとアフリカの平均的な実力差からすれば、勝たなければならない試合だった。その選手にテクニカルフォール負け。その時に思ったのが、「緊張で何もできず負けるのなら、思い切ってやって、それで負ける方がいい」という思い。それ以降、極度の緊張に襲われることはなくなったという。

 2016年全日本選手権では、グレコローマンに転向したばかりの松本篤史(現警視庁)に敗れてベスト8どまり。海外遠征にお呼びがかからず、寂しい冬をおくった。「あの悔しさが今につながっています」。浮き沈みを経て飛躍した角が、2度目の世界選手権に挑む。

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