『魔女・怪物・天変地異』黒川正剛著 好奇心の行き着くところ

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 怖いもの見たさで手に取った。好奇心。それこそが本書のテーマだ。

 ヨーロッパで魔女狩りが激化した中世末期、怪物や奇怪な生物、天変地異といった怪異現象が世にあふれた。人々の「見たい、知りたい」という欲望は、万物を分類し秩序づけようとする近代的精神を形成していく。本書はこうした驚異、好奇心、近代的精神の関わりを検証した論考である。

 「驚異増殖」の背景には宗教改革によるキリスト教世界の混乱があるが、何よりも15世紀半ばからの大航海時代に世界各地の事物が次々報告されたことによる。今から見ると、これがとても面白い。

 例えば種子で繁殖するヒツジとか、貝殻から孵化するガチョウといった実在しない動物が挿し絵入りで大まじめに紹介される。あるいは「驚くべきもの」として披露される動植物が、実は今のバナナやナマケモノだったりする。

 考えてみれば、現代の驚異たるネッシーやイエティも、正体がわかれば単なる動物の一種に分類されてしまうのかもしれない。

 一方で好奇心はキリスト教世界では長く攻撃の対象だった。アダムとイヴは好奇心から禁断の知恵の実を食べたのだから。好奇心の発露は情欲や魔術への接近も意味したという。

 近代に入って好奇心を原動力に爆発的に発達した科学技術は、今や人工知能や生命科学、地球温暖化による天変地異など魔術のごとき驚異を次々に生み出している。その混沌の渦に私たちは巻き込まれている。本書のテーマは極めて現代的なのだ。

(筑摩選書 1600円+税)=片岡義博