【呉地区秋祭りの独自民俗文化〝やぶ〟】堀口海運・堀口社長、来月8日まで写真展 ライフワークで撮りだめ

 広島県呉地区の秋祭りに欠かせない鬼に似た存在を当地では「やぶ」と呼ぶ。これをカメラに収めることをライフワークとしているのが、鋼材荷役保管業の堀口海運社長を務める堀口悟史氏。呉の祭りシーズンである、秋分の日から文化の日までの40日余りの間、毎年、約20カ所の神社の祭りを巡って「やぶ」を撮影。今回、撮りためた写真を「呉のやぶ」展として、呉市中心部のギャラリーで公開している。

 「やぶ」は神様の警護と道案内を担うとされる呉独自の民俗文化で、顔つきや髪、衣装の柄は個々の神社や各々の奉賛会、地区などによって異なり個性豊か。祭礼における役割やふるまいも地域差がある。口伝が中心で文献はなく、発祥・由来は不明だが、その語源は「藪の中から突然出てきたから」との一説もある。

 その魅力について堀口社長は「神社を中心とした半径数キロ圏内の究極のローカリズムと、それと表裏一体となったやぶの多様性」と語る。呉の「やぶ好き」が集まれば、皆が「うちのやぶが一番」と口をそろえる。幼少の頃から地元の神社の「やぶ」に惹かれ、2012年からは呉市内全域を対象に本格的に「やぶ」の撮影を開始。以降、精力的に市内各所の祭りに足を運んできた。

 ギャラリーでは、足掛け6年に亘って撮影した膨大な写真群の中から厳選74点が展示されている。また、堀口社長には、戦前から昭和30年代頃にかけてのやぶの写真を収集し、当時の歴史を記録に残すという「もう一つのライフワーク」がある。その成果物としての「文献」は呉市立図書館や呉市文化振興課市史編さんグループに寄贈されており、今回の写真展でも、61点に及ぶ白黒写真が「呉のやぶ」史の資料として展示されている。さらにギャラリーの3階では、戦前・戦後の祭りをにぎわしてきた古面15枚を展示。歴史の厚みに裏打ちされた古面からにじみ出る迫力は、呉地域に息づく伝統を感じさせるのに十分だ。

 「呉のやぶ」は神社ごとのローカル性が極めて強いことから、呉市民でも近隣の神社以外のやぶとなると、ほとんど見たことがないというのが実態である。今回の展示会では、呉地区全体のやぶを網羅的に紹介した貴重な場で、訪れた市民の多くはその多様な様に驚きを隠さない一方、「うちのやぶ」の前で長く足を止める。堀口社長は「〝やはりうちのやぶが一番〟と納得・再認識してもらえるような写真をこれからも撮っていきたい」と熱を込める。

 西日本豪雨災害で呉地域は甚大な被害が生じ、観光面も打撃を受けた。堀口社長は「地元の方が様々な復興の催しを開いている。今回の写真展もその一助となれば」と。折しも、9月23日秋分の日から、やぶが登場する秋祭りが呉市内各地で始まる。このタイミングに、造船や鉄鋼以外にも見るべきものがある呉地区に足を延ばす機会としたい。

 展示会は10月8日まで。場所は、街かど市民ギャラリー90(広島県呉市中通3―3―17)で午前10時から午後5時半まで。入場無料。火曜日休廊。

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