スズキ ジムニー新旧比較|20年経っても変わらないジムニーらしさと大きく変わった点

スズキ ジムニー新旧比較

軽自動車最強の4WD性能を誇る、スズキ ジムニーの新型と旧型を徹底比較

初代ジムニーの凄さとは

スズキ 初代ジムニー
歴代ジムニー スズキ 初代ジムニー(バンモデル)

スズキ ジムニーは軽自動車サイズのSUVだが、悪路向けに開発された。初代モデルの発売は1970年だから、SUVという言葉のない時代で、単純に「4輪駆動」と表現された。

今は乗用車にも4輪駆動、つまり4WDが数多く用意されるが、当時はトヨタ ランドクルーザー、日産 パトロール、三菱 ジープ程度しかない。ユーザーも建設会社や自治体で、悪路や積雪地における業務に使われていた。1982年に三菱初代パジェロが発売されるまで、SUVをパーソナルカーとして楽しむユーザーは、一部のマニアに限られていた。

初代ジムニーが凄かったのは、最初から軽自動車の規格で悪路向けのSUVを成立させたことだ。当時の軽自動車はエンジンの排気量が360ccと小さく、全長は3m以内、全幅も1.3m以内だ。このサイズで、駆動力を高める副変速機付きの4WDを搭載する本格的な悪路向けのSUVとしていた。

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ジムニーは車両の性格を変えずに進化してきた

スズキ 3代目ジムニー
スズキ 2代目ジムニー

この後、50年近くにわたり、ジムニーは車両の性格を変えずに進化してきた。フルモデルチェンジの回数は非常に少なく、初代は1970年、2代目は1981年、3代目は1998年、そして先ごろ2018年7月に新型の4代目に切り替わった。

初代から50年近くを経過しながら4代目というのに驚かされるが、不都合はなかった。3代目の旧型がモデル末期の先ごろでも、ジムニーが重視する悪路走破力は、日本で買えるSUVの1位であったからだ。

それでも2018年にフルモデルチェンジを受けたのは、20年の歳月を経ると進化の余地が生じたことにある。

まず安全装備が大幅に進化した。歩行者や車両を検知して、衝突の危険が生じると緊急自動ブレーキを作動させる機能は、2000年以降に生まれた。横滑り防止装置も採用され、この応用技術として、空転を生じたホイールにブレーキを作動させて駆動力の伝達を保つことも可能にする。この電子制御機能は、低コストで悪路の走破力を効果的に高めるものだ。このほか衝突安全性や燃費性能も進化した。

ラダーフレームを使うボディ構造は従来と同じだが、フレーム、足まわり、エンジンといった各種のメカニズムはすべて刷新されている。

スズキ ジムニー│ボディスタイル/サイズ/視界/取りまわし性比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

ボディスタイルの印象は大きく変わった。旧型は直線を基調にしながらフェンダーなどに丸みを加えたが、新型は見るからに直線的だ。初代モデルに回帰した印象も受ける。

このデザインの発展には、SUVを取り巻く環境の変化が影響した。旧型が発売された20年前は、前輪駆動をベースにしたシティ派SUVが徐々に増え始めた時期に当たる。これに伴ってパジェロのような後輪駆動がベースのオフロードSUVは、売れ行きが下がり始めた。そこでジムニーもオフロードSUVの性格は変えずに、外観にはシティ派SUVの特徴を取り込んだ。ただし「ジムニーらしくない」という批判も多かった。

この後の20年間で、シティ派SUVは急速に普及した。そこで新型は、直線基調を強めて初代モデルを連想させる外観に仕上げ、ジムニーらしさを際立たせた。

軽自動車だから、全長が3395mm、全幅が1475mmのボディサイズに変更はない。フレームを刷新しながら、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2250mmで等しい。最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)も、旧型が200mm、新型は205mmでほぼ同じだ。

最小回転半径は新旧ともに4.8mで同じだが、サイドウインドウの下端は、旧型が少し低かった。従って側方の視界は新型になって少し悪化した。

また新型はコスト低減のために、リアのナンバープレートをジムニーシエラと同じく車体の中央に設置する(先代ジムニーはシエラと異なり左端)。この違いで新型は旧型に比べてスペアタイヤの取付位置が持ち上がり、後方視界も少し悪化した。

●進化度数:1点

スズキ ジムニー│内装のデザイン/質感/操作性/視認性比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

インパネ周辺の基本レイアウトは、新旧モデルであまり変わらない。視認性も同等だ。それでも4WDと2WDの切り換えは、新型になってスイッチ式から旧来のレバー式に戻された。「昔ながらのレバー式の方が、手応えが伴うため、駆動を切り換えたことが分かりやすい」とするユーザーの希望に応えている。

新旧モデルで質感に差はないが、新型は光沢を抑えたデザイン処理を施した。ジムニーのオフロードSUVらしさを表現している。

●進化度数:3点

スズキ ジムニー│前後席の居住性比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

基本設計に20年の差があると、シートの座り心地は大きく変わる。旧型の前席はサイズが十分とはいえず頼りない座り心地だったが、新型は大幅に向上した。座面が適度な硬さで腰の近辺をしっかり支え、肩まわりのサポート性も良い。前席は大幅に進歩した。

後席も足元空間を旧型に比べて40mm広げるなど居住性を向上させた。ただし床と座面の間隔が不足しており、座ると膝が持ち上がる。身長170cmの大人4名が乗車すると、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ半分程度だ。実用的には3ドアクーペで、乗降性も良くないが、旧型に比べると少し快適になった。片道30分程度の距離であれば、大人4名の移動も可能だ。

●進化度数:7点

スズキ ジムニー│荷室の広さと使い勝手比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

軽自動車サイズのオフロードSUVだから荷室は狭い。同社のほかの軽自動車でいえば、アルトなどに近い。しかも荷室の床面地上高は760mmで、スペーシアに比べると210mm高く、積む時には荷物を高い位置まで持ち上げる。

旧型に比べると荷室の開口幅を50mmほど拡大したが、実用性に大差はない。

●進化度数:2点

スズキ ジムニー│動力性能比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

新型に搭載される660ccのターボエンジンは、クセがなく回転感覚が滑らかで扱いやすいが、旧型の活発な吹き上がりと粗削りな力強さは薄れた。

最大トルクの数値も旧型は10.5kg-mだったが、新型は9.8kg-mに下がった(発生回転は新旧ともに3500回転)。車両重量もXCの4速AT同士で比べると、旧型は1000kgで新型は1040kgだから、新型は加速性能で少し不利になる。

●進化度数:1点

スズキ ジムニー│舗装路における走行安定性比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

ジムニーは新旧モデルともに、軽自動車の狭い全幅で、全高は高い。しかもサスペンションは悪路を走ることに重点を置くから、舗装路では高速時を中心に安定性の確保が難しい。

そこで一般的な軽乗用車やハスラーのようなシティ派SUVに比べると、ジムニーは操舵に対する反応を鈍く抑えている。悪路の走破力を高め、なおかつ舗装路で危険な状態に陥りにくくするためだ。

旧型はこの傾向が顕著で、操舵して少し時間を置いた後で車両が曲がり始めた。昔風にいえば「アソビの多いハンドリング」に近い感覚で、ステアリングのメカニズムもボール・ナット式だ。

従って旧型は、峠道を普通の軽自動車の感覚で運転すると、かなり曲がりにくかった。まずステアリングの反応が鈍いために旋回軌跡が外側へ膨らみやすく、車両の特性もこの傾向が強いから、違和感が一層強まった。そこでカーブを曲がる時は、少し早めにハンドルを切り込むと、ちょうどバランスが取れる。悪路の走破力は抜群に高いが、少しコツが必要だった。

新型もボール・ナット式のステアリングを採用して、基本的な性格は同じだ。ハスラーなどに比べると運転感覚は鈍く、峠道を走れば違和感が生じる。それでも新型は旧型に比べると操舵感が正確になり、旋回軌跡を拡大させる印象も弱まった。

背景にあるのはフレームの刷新だ。新型ではボディ底面のクロスメンバー(左右方向に配置された骨格)を増やし、X状のメンバーも加えた。ねじり剛性を1.5倍に高めるなどの改善が利いている。

●進化度数:5点

スズキ ジムニー│悪路の走破性比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:ミディアムグレー

ボディ中央の底と、路面との干渉を抑えるランプブレークオーバーアングルは、旧型の32度に比べて新型は28度に減った(それでも十分な角度がある)。前側のバンパーの干渉を抑えるアプローチアングルも、49度から41度に減った。後ろ側の干渉を抑えるデパーチャーアングルは51度で同等だ。サスペンションの動きは現行型になって柔軟になり、走破力を高めた。

さらに大きく異なるのが、横滑り防止装置を応用したブレーキLSDトラクションコントロールだ。空転するホイールだけにブレーキを作動させ、4輪の駆動力伝達を維持するから、悪路を滑らかに走破できる。4輪のうち、1輪だけにブレーキを作動させるのは、ドライバーの運転技量を超えた制御だ。新型だからこそ可能になった走破力といえるだろう。

新型ジムニーは、今の日本で購入の可能なSUVの中では、最も高い悪路走破性能を備えている。

●進化度数:8点

スズキ ジムニー│乗り心地とノイズ比較

悪路走破力を重視したから、新型も乗り心地は硬めだ。それでもオフロードSUV特有の伸縮性がある。旧型に比べると、前後方向に揺すられる不快感が薄れた。ノイズも気にならない。

●進化度数:5点

スズキ ジムニー│安全&快適装備比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー

旧型の安全装備は、4輪ABSと運転席&助手席エアバッグ程度だった。それが新型車では、義務化もあって横滑り防止装置が加わり、サイド&カーテンエアバッグも全車に標準装着される(スズキの軽自動車でサイド&カーテンエアバッグの全車標準装着は珍しい)。

さらに単眼カメラと赤外線レーザーを併用するデュアルセンサーブレーキサポート装着車が用意され、歩行者も検知して、衝突の危険が生じると警報を発したり緊急自動ブレーキを作動させる。衝突安全性能も向上して、安全性は超絶的に進化した。

●進化度数:10点

スズキ ジムニー│燃費性能&エコカー減税比較

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:キネティックイエロー
スズキ 先代ジムニー ランドベンチャー

旧型の燃費性能はJC08モード、新型はWLTCモードで表記され、一概には比較できない。

それでもXCの4速ATで数値を見ると、旧型は13.6km/L、新型は13.2km/Lだ。数値は少し悪化したが、実用燃費は向上している。エコカー減税は新旧モデルともに対象外だ。

●進化度数:2点

スズキ ジムニー│グレード構成と価格の割安感比較

スズキ 新型ジムニー/新型ジムニーシエラ

旧型はベーシックなXCと上級のXGのみだったが、新型では中間のXLを加えた。

XGの4速ATは、旧型が140万7240円、新型は155万5200円だ。新型は約15万円値上げされたが、横滑り防止装置、ブレーキLSDトラクションコントロール、サイド&カーテンエアバッグなどが標準装着され、実質的には価格がほぼ据え置きか、少し値下げされた。

新型のXCは4速ATが184万1400円で、旧型に比べると21万6000円の値上げだが、デュアルセンサーブレーキサポートなどが標準装着される。同じように価格据え置きか、多少の値下げになった。

●進化度数:3点

スズキ ジムニー│旧型と比べて分かった総合評価

スズキ 新型ジムニー XC(5MT) ボディカラー:ミディアムグレー

新旧のジムニーを比べると、基本的な考え方やクルマ造りに変化はない。今でも20年前と同じ価値を提供するが、安全装備を中心に技術が大きく進化した。応用技術のブレーキLSDトラクションコントロールも採用され、安全装備が走破力の向上にも役立っている。これは順当な進化だ。

ただし新型も悪路を走るオフロードSUVだから、舗装路で使うと操舵感が鈍かったり、乗り心地が硬く感じる。後席と荷室も狭い。4WDは悪路向けのパートタイム式だから、舗装路は後輪駆動の2WDで走り、悪路を走らないと4輪駆動も生かせない。

一般的な選択肢ではないから、ご自身の使い方を良く考えて選んでいただきたい。

●進化度数:5点

[Text:渡辺陽一郎/Photo:島村英二・和田清志]

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