弁護士への懲戒請求、激増の謎(1)

 例年の数十倍 「根底にヘイト」の指摘も

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 弁護士の懲戒処分を、所属する弁護士会に求める「懲戒請求」が2017年、計約13万件に上った。日弁連の集計で判明した。例年は多くても4千件未満にとどまるため、数十倍の懲戒請求は異例。なぜ、こんなことが起きたのか。

弁護士に届いた懲戒請求(一部加工してあります )

 実は、13万件の大半は、ほぼ同じ内容だ。各地の弁護士会が朝鮮学校について出した声明を批判し、文面も似通っている。この声明に反発するブログが懲戒請求を呼び掛けており、それに応じた人々が出したとみられている。

 届いた請求は13万件だけではない。他に800人以上から、各地の弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求を求める書類も届いており、全部で数千万件に上るともみられている。正確な数が不明なのは、日弁連が「懲戒制度の趣旨と異なる」として、この種の請求を取り扱わない方針を示し、集計しなかったためだ。

 懲戒制度は弁護士個人の行為の是非が想定されている。今回は、弁護士会の声明を巡って弁護士個人の懲戒を求めているため、日弁連は取り扱わないことを決めた。

 【弁護士の懲戒請求】

 弁護士は、品位を失う行為などがあると、除名や戒告などの懲戒を受ける。請求は誰でも可能。弁護士会が調査するため、請求されただけで弁護士にも弁護士会にも負担となる。

 ただ、今回の問題の本質は、懲戒対象となるかどうかではない。ある弁護士は、こう指摘している。「根底に朝鮮学校への差別、ヘイトがあることが問題だ」。どういうことか。

 問題の発端は、朝鮮学校への補助金停止に反対する声明を、日弁連や東京、大阪両弁護士会などが16年に出したことだ。これに対し、「余命三年時事日記」と題するブログが17年6月ごろから21の弁護士会の弁護士名を掲載し、懲戒請求するよう呼び掛けた。

 趣旨は「違法な朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同する行為は、確信的犯罪行為」のため、懲戒を請求するとの内容。「国連が(北朝鮮に)制裁決議をしている現状で、補助金支給を要求する団体はまさにテロリスト支援組織」との記述もあった。

 一方で、懲戒請求を受けた弁護士の中には「業務妨害だ」として、請求者に対して損害賠償請求する動きも出ている。

 東京の佐々木亮弁護士もその一人。今年5月、記者会見し「業務上の負担や精神的苦痛を受けた」として請求者を提訴すると表明した。佐々木氏は、実は弁護士会の声明にかかわっていない。さらに、朝鮮学校の訴訟や活動にも参加していない。にもかかわらず、懲戒請求を受けていた。

 横浜市の嶋崎量弁護士は、ツイッターで佐々木氏への請求がおかしいと言及した。すると、今度は嶋崎弁護士に対して500件超もの懲戒請求が届いた。

 嶋崎弁護士は「自分の考えと違う人、それに関わる人を攻撃することで、言論への萎縮効果を意図したものだ。朝鮮学校への差別も根底にある」と話している。(共同通信ヘイト問題取材班、続く)

「不満層」が熱心な読者に 人気ブロガーで情報法制研究所上席研究員の山本一郎氏の話

山本一郎上席研究員

 読者数百人が弁護士に懲戒請求を出した「余命三年時事日記」の動員力には驚いた。カルト的なネトウヨ(ネット右翼)ブログの一つで、熱心な読者層は、懲戒請求することの問題点を知らないまま、乏しい知識で行動したようだ。中高年も多く、職場や家庭で居場所のない人がネットを活動の場としている。そんな人々に「敵」の存在や陰謀論といったフェイクニュースを投下すると、それにすがり、自分の不幸や不満を他人のせいにしてしまう。彼らなりの正義の実現を図ったのかもしれない。

 韓国や中国、野党政治家らをたたくこうしたネトウヨサイトはここ数年、人気を集めている。うそを信じたい読者の熱量をうまく利用した記事がまとめられ、広告収入や寄付、書籍化で収益を生み、商売になっている。読者を集めるため内容が過激になり、どんどん偏っていくのは、もうかるから。一つ一つ反論し、広告主に広告掲載を見送らせたり、場合によっては発信者を特定し訴訟を起こしたりするしかない。