「軽い気持ちで」「今は後悔」 参加者に聞く

 弁護士への懲戒請求、激増の謎(2)

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弁護士が受けた懲戒請求のひな型(画像の一部を加工してあります)

 2017年、弁護士への懲戒請求は例年の数十倍に上った。実際に懲戒請求をした男女2人に話を聞いた。取材に対し、ともにブログ「余命三年時事日記」の呼び掛けに応じた、と答えた。

 男性は「ブログを一種のカルト宗教のように信じてしまった」、女性は「メディアが報じない内容で、日本を良くするための真実がここにあると思った」と話した。ともにブログの熱心な読者で、軽い気持ちで賛同したことを後悔。「制度を理解しておらず、弁護士に迷惑をかけた」と話し、それぞれが懲戒請求した弁護士約170人に謝罪の手紙を送った。

「世の中の役に立ちたい」と

30代の男性公務員

 関東地方の30代の男性公務員は12年、民主党が政権を失った理由をインターネットで調べた際、ブログを見つけた。在日朝鮮人や野党が日本を崩壊させようとしているなどの内容が書かれていた。今ならば荒唐無稽と分かるが、当時は真実と思い込んで徐々にのめり込み、毎日、何度もチェックするようになったという。

 ブログが15年ごろから署名活動や寄付などを呼び掛け始めると、「世の中の役に立ちたい」と思い、応じるようになった。懲戒請求に参加表明すると、自宅に懲戒請求の用紙が送られてきた。請求対象の弁護士名はあらかじめ書かれていた。あとは署名押印し、指定された住所に送り返すだけだった。

 関東地方の50代の無職の女性は17年ごろ、お笑い芸人が「反日」と批判されるニュースをネットで知った。理由を探すうちに、ブログ「余命三年時事日記」に行き着いた。「政治には無関心だったが、ここには裏の情報があると興味を持った。報道されていないからこそ、秘められた真実があるのかと。それが本当なのかどうか調べる技術もなかった」

無職の50代女性

 次第に「実際に北朝鮮からミサイルが飛んでいたし、敵がいるなら日本を守らなきゃ」という気持ちになり、積極的に参加するようになった。「日弁連は悪意を持って日本を乱そうとしている」と思った。

「差別行為だった」と悔やむ

 大量の懲戒請求に加わった2人に、思いも寄らない反撃が待っていた。懲戒請求を送られた弁護士が「法的手段をとる」と発表したのだ。

 驚いた男性は、何か訴訟対策はないかと探るうち、「余命三年時事日記」を批判するブログに行き着いた。読み進めるうちに、「余命ブログ」の内容が間違っていると判断できたという。

 男性は今、「余命ブログに洗脳され、余命信者になっていた。それが解けた今、懲戒請求は結果的に在日朝鮮人への差別行為だったと思う」と悔やんでいる。

 女性も後悔している。ただ、「朝鮮学校に公金を出すのは疑問があり、それを表明するのが差別とは思わない。弁護士会の声明は問題だと今も思う」と話した。その上で「自分の意見に反する考えを全て『反日』と決めつけ、敵視するのは誤り。懲戒請求という手段も間違いだった」と考えている。

謝罪の手紙を受け取った弁護士は…

懲戒請求を受けた池田賢太弁護士

 2人からの謝罪の手紙を受け取った札幌弁護士会の池田賢太弁護士は、書かれた釈明内容を読んであきれた。

 受け取った手紙は別の人からのも合わせ、計6通。それぞれ、ブログ「余命三年時事日記」の影響を受けていたことのほか、「反日弁護士には懲戒請求するしかないとの内容に扇動された」「わが国が侵略されてしまうので、ブログの指示に従わなければならないと思った」「洗脳され、集団ヒステリーになった」と書かれていた。

 池田弁護士は「責任転嫁しようとしている」と感じた。それでも、謝罪の気持ちがあれば問題の深刻さを分かってもらえるかもしれないと思い直し、手紙を送った。

 手紙の要旨はこうだ。「私たちは一人一人が本質において平等です。私が本当に憤っているのは、在日朝鮮人やその子どもたちの権利の平等性を認めていないことです。懲戒請求の根底には差別への無自覚性があると思わざるを得ないのです。なすべきは差別をする心と向き合い、差別を楽しむことと決別することです。どのような思想を持とうと自由です。しかし、自由を行使して、他人の権利を害することは許されません」

 その後、数人から返事が届いた。それぞれ反省を記し、うち1人の男性は「社会で評価されない苦しみから逃れようと、差別をしてしまいました」とつづっていた。

 池田弁護士は「大人がネットで簡単にあおられ、差別に加担する社会は危ない。許容すれば、関東大震災時の朝鮮人虐殺のようなことがいつ起きてもおかしくない」と語った。(共同通信ヘイト問題取材班、続く)