名前で狙われた? 「人種差別」と提訴し対抗

弁護士懲戒請求、激増の謎(3)

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 2017年の大量の懲戒請求で、対象とされた弁護士の内訳をみると、各弁護士会の役員が多い。請求の原因が、朝鮮学校について出した弁護士会の声明への反発であるためだ。例えば、東京弁護士会所属でこの種の懲戒請求を受けたのは18人。うち10人は、会長や副会長といった役員だった。

 では、残る8人の弁護士はどういう基準で狙われたのか。8人は弁護士会の役職についておらず、仕事上のつながりもない。ただ、共通点はあった。在日コリアンであることだ。

 8人の一人、金竜介弁護士は「姓が一文字のため在日コリアンと推測され、懲戒対象となったと思われる。人種差別、民族差別だ」として7月、請求者に損害賠償を求める訴訟を東京簡裁と静岡簡裁に起こし、記者会見を開いた。

記者会見する原告の金竜介弁護士

 「弁護士のした仕事ではなく、属性で狙ってきた。こうした行為がなぜ正当だと思うのか、請求者には法廷できちんと述べてもらいたい」と提訴に踏み切った理由を明かした金弁護士。

 「在日コリアンへの悪意は日頃からネットで見てきたが、今回の懲戒請求では、自宅住所を書き、名前を書き、はんこを押していた。堂々と人種差別できるようになったのかと驚いた。えたいの知れない恐怖感がある」と声を震わせた。

 ヘイトへの危機感を訴えるのは金弁護士だけではない。

 懲戒請求者に損害賠償を求める訴訟を5月に起こした神奈川県弁護士会の神原元弁護士も「大量請求は在日朝鮮人への差別扇動が目的のヘイトクライムで、厳しい対処が必要。提訴は『差別に加担するな』というメッセージだ」と話した。

 沖縄県弁護士会は7月、会長声明を発表。声明は「今回の懲戒請求は、人がみな本質的に平等であり、個人として尊厳が保護されるべきだとの価値観を真っ向から否定するヘイト。他者の権利を不当に侵害する行為は、強い非難の対象となることを請求者らは認識すべきである」と警告した。

 今回の懲戒請求だけでなく、ヘイトはネット上に蔓延していると言える状況だ。

 「火事場泥棒の中国人、韓国人、在日朝鮮人たちが避難所に居る間に狙ってますのでご注意ください」「大阪ナンバー 白 セレナ 空き家とか崩れた家に入って窃盗しています たぶん中国人です 見つけたら殺しましょう」

 今年7月の西日本豪雨の際、ツイッターにはこのような悪質な人種差別のデマが投稿された。

 こうした投稿は大災害のたびに頻出する。11年の東日本大震災、14年の広島土砂災害、16年の熊本地震、今年6月の大阪北部地震でも似たような投稿があった。

 災害時に人種差別、民族差別が過激化するとどうなるのか。戦前の1923年9月に起きた関東大震災では、朝鮮人のほか中国人や社会主義者、朝鮮人と間違えられた日本人らが、住民で組織された自警団や軍警に虐殺された。混乱の中で「朝鮮人が暴動を起こした」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマが拡散したことが引き金になった。

関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑

 虐殺を「歴史上の出来事」と片付けることはできない。内閣府の中央防災会議が2008年にまとめた報告書「1923関東大震災(第2編)」は、デマによる殺傷の教訓として「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要なのは改めて確認しておく。その上で、流言の発生、そして自然災害とテロの混同が現在も生じ得ると認識する必要がある」と警告している。(共同通信ヘイト問題取材班、終わり)