「衝撃の就任。リージョの凄さを物語る3つのこと」

2018年9月17日。世界的な選手であるイニエスタ、ポドルスキを擁しながらもJリーグで8位に低迷しているヴィッセル神戸に、新監督の就任が発表された。

彼の名はフアン・マヌエル・リージョ。

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世界でも有数の監督、戦術家、そして哲学者として知られ、あのグアルディオラが「最も影響を受けた指導者の内の1人」として恩師と仰ぐ人物である。

思えばヴィッセル神戸には、去年の3月にポドルスキ、今年の5月にはイニエスタと、海を渡って続々と大物がやって来た。

これらの3人が同じチームに所属することの凄さがいまいち分からない人のために他の何かで例えると、地方の劇団に綾瀬はるかさんと米倉涼子さんが入団し、その監督を黒澤明さんが務めることになった、といったところだろうか。

今回のコラムでは、そんな神戸の新監督であるリージョの凄さを紹介しよう。

① 異例の若さでプロチームの監督に就任

監督として名を馳せているリージョだがプロサッカー選手としての実績は全くなく、17歳にして指導者の道を歩み始める。

4年後の21歳の時、地元のチームである4部トロサCFの監督に就任し、1992年、当時1部のUDサラマンカの監督に任命される。その時彼は29歳。リーガ・エスパニョーラの最年少監督記録を更新したのであった。

長い監督人生でビッククラブを指揮した経験はなく、率いてきたいずれのチームも中堅またはそれ以下のチームである。

しかしながら、選手の特性や能力を見定めた上で合理的な配置を敢行するリージョの手腕はスペインで話題を呼んだ。

② 鬼才・グアルディオラの恩師

いま世界で最も優秀な監督であり戦術家でもあるジョゼップ・グアルディオラ。

彼はバルセロナで選手としてプレーしていた時にリージョが率いるチームと対戦し、彼のフットボール哲学に感銘を受けたそう。

そして2005年、リージョが監督を務めていたメキシコのドラドス・シナロアに加入。ペップ(グアルディオラの愛称)は練習場にノートを持ってきてリージョからのヒントや指揮を書き留めていたという。

さらにはピッチ外でも2人で戦術に関しての議論を交わし、お互いに知識を深めていった。

後にペップは、自身の指揮するチームのスタイルや指導法についてリージョから多大な影響を受けていることを認めている。リージョとの出会いがペップ・スタイルに大きく作用しているといっても過言ではない。

③ ポジショナルプレーの生みの親

リージョ自身にとってはフォーメーションは単なる数字であり、「電話番号じゃないんだから」と言うほど無意味なものと捉えている。

だが、矛盾するようだが、多くのチームが採用している4-2-3-1というフォーメーションは他の誰でもないリージョが作り出したものだ。

そして、それほど偉大な戦術家だと世界中から称賛を集める最も大きな理由は、彼が“ポジショナルプレー”の教祖的な存在であることだ。

そもそもポジショナルプレーとは何なのか。

それは現代サッカーにおいての最重要単語と言っても差し支えないキーワードであり、いまだに研究が進められている概念である。

もしもポジショナルプレーに関して全てを語ろうとすれば、間違いなく日が暮れるだろう。なにせ生み出した本人もインタビューで「この場で説明するのは難しい」と答えたほどだ。

そのくらい広い範囲で活用される言葉なので、今回、簡潔にではあるが説明しておこう。

ポジショナルプレーとは

まずポジショナルプレーの概要だが、「それぞれの選手が適切なポジショニングを取り、得点しやすく失点しづらい陣形に最適化することで優位性を得ること」という原則に基づいて運用されている。

「優位性を得る」と書いたが、ポジショナルプレーを解釈する上で重要な優位性が3種類存在する。

⑴ 数的優位性
これは単純に、局面で数的有利を作り出せるようなポジションを取ることだ。メッシやメルテンスが得意とする“ゼロトップ“は、FWが下りてきて中盤に数的優位を作り出すものである。

⑵ 質的優位性
選手の特徴に合わせたポジショニングのことである。例えば足の遅いDFの近くにスピードのある選手を配置したり、身長の高い選手に小柄な選手と競り合える位置取りをさせたりすることだ。

⑶ 位置的優位性
相手よりも良いポジションを取ること。相手選手の間や死角となる場所でボールを受けたりすることが次のプレーの選択肢を増やしてくれる。 これらの優位性を保ちつつプレーすることがポジショナルプレーに繋がる。

以上がポジショナルプレーの説明となる。

このような高いクオリティの概念を編み出し、現代のフットボール界に大きな、計り知れない戦術的衝撃を与えたのがフアン・マヌエル・リージョなのである。

まとめ

異様な経歴や戦術眼を持ち、我が道を突き進んできたリージョ。筆者は、彼の次のステージが日本であるということに驚きつつも非常に嬉しい。

彼のような魅力を持った監督は世界にも数えるほどしかおらず、その指導方法や戦い方をヴィッセル神戸の選手たちに存分に味わってほしい。 リージョ流のサッカーを展開するためのマスターピースになるであろうアンドレス・イニエスタも、彼の手にかかればさらに輝くはずだ。

ついに世界レベルの指導者がJリーグで指揮を執ろうとしている。日本サッカー界の夜明けは間違いなく近付いている。

筆者名:森琢朗

中学2年生の時に見たCLでフットボールの真の面白さに気付いた。98年生まれで、小学生の頃から現在までサッカーをプレーしている。1人暮らしを始めて2年が経とうとしているが、未だに本格的な自炊に踏み込めていない。野菜は嫌い。

Twitter:@super_kotatsu

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