地震と訪日客

 東京で地震学者が集まる国際学会が開かれた際、夜中にちょっとした地震があった。日本人なら「ああ、地震か」と思う程度の揺れ。だが世界の地震学者たちは飛び起きて「あれは何だ」と廊下で騒いだ▲地震学者の島村英紀さんが著書の中で紹介しているエピソードだ。地震のない国の人は、たとえ専門家であっても実際の地震に動揺する▲北海道で震度7を記録した先日の地震で、多くの外国人観光客が揺れにおびえる姿が報じられた。言葉の通じない国にいて、交通機関が止まったり情報源のスマホの充電が切れたりすれば、不安はさらに募るだろう▲日本を訪れる外国人は増加する一方だ。2017年度は前年比約2割増で3千万人近い。政府は東京五輪が開かれる20年に訪日旅行者4千万人という目標を掲げている▲だが、日本は世界有数の地震大国であることを忘れてはいけない。東京が今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は48%という高さだ▲もし、東京五輪の最中に大きな地震が起こったら、北海道の地震の時よりはるかに多くの外国人旅行者が混乱に陥るだろう。想定しておかなければならない可能性だ。平常心と安心感を取り戻してもらうためにはどうすればよいか、対応を考えておくことも「おもてなし」の一つかもしれない。(泉)

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