「“試合から試合へ” 大躍進の町田ゼルビアにブレはない」

町田ゼルビアが快進撃を見せている。

開幕から8戦無敗(4勝4分)とスタートダッシュに成功した今季は、安定して上位をキープ。30節のFC岐阜戦後に首位に浮上し、33試合を終えて2位と優勝争いに絡んでいる。

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昨季に16位と苦しんだチームが、なぜ旋風を巻き起こしているのか。

今回の当コラムでは、群雄割拠のJ2を堂々と戦い抜く町田を取り上げ、徹底されているチームのルールや選手たちの奮闘にスポットライトを当てたい。

▼基本形は王道の4-4-2

基本システムはオーソドックスな4-4-2。最後尾を守るのは大卒ルーキーの福井光輝で、最終ラインは右からCBもこなす大谷尚輝、スピードのある酒井隆介、ディフェンスリーダーの深津康太、両サイドに対応する奥山政幸の4人だ。

ダブルボランチは万能戦士の土岐田洸平とレフティーの森村昂太で、サイドハーフは右に平戸太貴、左に土居柊太。最前線はオールラウンダーの鈴木孝司と中島裕希が2トップを形成する。

▼キーワードは「ワンサイドアタック」

王道の4-4-2が基本布陣であることからも分かるように、戦術的には非常にシンプルで、例えば“可変システム”や“偽SB”といったギミックが取り入れられている訳ではない。ただ、同じ4-4-2を採用するチームと異なる点がある。それは、「ワンサイドアタック」の徹底である。

攻撃の際に決まり事となっているのが、必ず同じサイドのみで崩し切るということ。右サイドで攻撃が始まった場合は平戸とサイドに流れた鈴木が起点となり、オーバーラップした大谷が厚みをもたらす。

右サイドでの攻撃が上手く行かない場合は、一度最終ラインにボールを戻すなどして左サイドに展開し、攻め直すのが一般的だ。だが町田では、サイドチェンジをせずに攻め切ることが徹底されているのである。

「ワンサイドアタック」が導入されている背景には、ディフェンスと密接な関係がある。町田の守備はDF4人とMF4人が4-4のブロックを組むスタイル。最終ラインを高く、コンパクトに保ち、ボールホルダーへタイトなプレッシャーを掛けていくのが基本だ。

コンパクトな守備を実現するには、素早い攻守の切り替えが肝要だ。同サイドで攻撃を完結するイコール同サイドに味方が密集している形となる。よって、ボールロスト後のプレスが掛けやすくなり、ボール奪取の可能性が高まるのだ。

例えばサイドを変えながら攻める場合、相手の守備ブロックを揺さぶることができる反面、サイドチェンジのボールが精度を欠き相手に渡ってしまったり、陣形が間延びしカウンターを食らいやすくなってしまうリスクも生じる。町田の場合、守備の仕掛けやすさを第一に考えた上でワンサイドアタックを採用しているのではないだろうか。

▼変わらぬスタンスを胸に

33試合を終えて、17勝10分6敗の勝点61で2位につける町田。首位・松本山雅との勝点差は3で、1試合消化が少ないだけにリーグ制覇は極めて現実的な目標だと言えるだろう。

各ポジションで健全な定位置争いが展開されている現チームは、非常に良い状態にある。見逃せないのが、若手の成長とベテランの奮闘だ。

ここまでチーム2位の8ゴールをゲットしている平戸は、正確なプレースキックでも絶大な存在感を発揮。29節の松本戦では試合終了間際に直接FKを突き刺し、勝利へ導いた。

また、日本体育大から加入した福井、明治大から加入した土居といったルーキーがシーズン途中から定位置を掴み、チームに勢いをもたらした。若手を抜擢し、成功体験を積ませることで能力を引き出している相馬直樹監督の手腕は称賛されて然るべきだ。

そして、チームトップの9得点を挙げ、サイド起用にも難なく対応する中島、守備の要として最終ラインを統率する深津、29節の松本戦で負傷離脱したキャプテン・井上裕大の穴をそつなく埋めた土岐田、福井が出場停止だった32節の水戸戦で安定感を見せた髙原らベテランたちが貫録を示している。頼れる彼らの奮闘は大変心強く、チームが大崩れしない要因となっているのだ。

惜しむらくは、J1クラブライセンスを所有しておらず、たとえ優勝したとしても昇格できない点だ。

とはいえ、昇格できないことがモチベーションの低下を招いていることは一切なく、目の前の試合に集中し、全力を出し切る姿勢に変わりはない。優勝争いに絡んでいる今季の戦いぶりは必ず来季以降にもつながるはずで、クラブの貴重な財産にもなるだろう。どんな困難に直面しても、「試合から試合へ」というスタンスを貫く町田は今後もブレずに戦い抜くに違いない。

2018/09/24 written by ロッシ

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