「シティの進化過程」を体現!4連覇近づく日テレ・ベレーザは何がすごいのか

『プレナスなでしこリーグ』は1部も2部も佳境に入った。

今季のなでしこ1部は、前半戦終了時こそリーグ3連覇中の日テレ・ベレーザが首位に立ったものの、4位までの勝点が2ポイント差という大混戦。女子サッカーリーグ創設30年目という節目に相応しく、激しい順位変動の起こる様相だった。

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しかし、7月に開催された『プレナスなでしこリーグカップ1部』の決勝には、お馴染みの“2強”ベレーザとINAC神戸レオネッサが進出。1-0でベレーザが勝利し、今季1冠目を手にしたのだが、9月から再開されたリーグ後半戦も2強がその他のチームとの差を拡げている。

特に第6節までに2分1敗を喫していた「女王」ベレーザは、第7節から現在までリーグ6連勝中。3年連続でリーグMVPに選出されている現なでしこジャパンの司令塔MF阪口夢穂が怪我での長期離脱を強いられながらも、リーグカップを制し、リーグではINAC神戸と勝点3差で4連覇に向けて走り始めている。

そんな今季のベレーザが序盤戦に躓いていたのは、リーグ3連覇を達成した森栄次監督が退任した影響があったのだろう。永田雅人新監督が持ち込んだ新システム<4-3-3>により、従来のポゼッションサッカーに両サイドのウイングを活かしたサイド攻撃をミックスさせることに戸惑っていた印象だった。

近年のベレーザは、先制点を奪ってからはラインを引いて相手チームを自陣に招き、前掛かりになる相手の裏を突いたカウンターで追加点を奪う狡猾な戦いぶりに特徴があった。

Jリーグで言えば鹿島アントラーズのようなサッカーを見せていたのだが、今季は相手陣内に押し込み続けることを目指しているようだ。

Jリーグでも未完の「ポゼッション」と「サイド攻撃」の両立

この「ポゼッション+サイド攻撃」は男子スペインリーグのFCバルセロナに代表されるように、ポゼッション志向のチームが目指す究極の完成形である。攻撃には「深さ」と「幅」が必要で、それによってコンパクトになる相手陣形を引き延ばすことが可能になる。

近年の『歴史に残る世界最強チーム』と称されたジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナは、両ウイングが最も高いポジションをとってオフサイドラインをコントロールし、中盤に下がってくる“偽センターフォワード”のリオネル・メッシが自由にプレーできるスペースを創出していた。

日本にもそのようなチームはあった。

名波浩を中心にした通称「N-BOX」を完成させた2000年前後のジュビロ磐田の黄金時代。遠藤保仁や二川孝広、橋本英郎に明神智和から構成される「黄金の中盤」による超攻撃的なサッカーでアジアも制した西野朗監督時代のガンバ大阪。チーム生え抜きの中村憲剛を軸に、風間八宏監督就任から現在に至るまでの川崎フロンターレなどなど。

Jリーグにも歴史に残るポゼッションサッカーを完成させたチームはいくつも存在した。そして、2011年に『FIFA女子W杯ドイツ大会』を制した、なでしこジャパンもこの系列に入るチームだろう。

しかし、これらのチームには両サイドにウイングを配置するようなサイド攻撃のイメージは薄い。逆に2列目に入る攻撃的なMFやアタッカー陣は、もともとのポジションとは違う逆サイドにまで移動して数的有利となる密集を作りながら攻撃を組み立て、サイド攻撃はもっぱら攻撃参加したサイドバックの仕事になる。

唯一『ポゼッション+サイド攻撃』が両立していたのは、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督と森保一監督時代のサンフレッチェ広島と、その“ミシャ”監督が指揮を執っていた時期の浦和レッズくらいだろう。

ただ、“ミシャ・システム”と言われる<3-4-2-1>は、攻撃時に<4-3-3>や<4-1-5>になるものの、守備時には<5-4-1>となる可変システム。サイドを担当するのはウイングバックのみである。もともとボールを支配する位置も自陣側が多いことや、ウイングバックが高い位置をとるのに時間を要する。よって、緻密に練り上げられたシステムではあるが、“王道”というよりは制限がある中で作られた最適解である。

そんな中、近年になってポゼッションとサイド攻撃を両立させ、完璧なシーズンを送ったのが、イングランドのマンチェスター・シティと言えるだろう。

グアルディオラに繋ぐバトンリレーが的確だったマンチェスター・シティ

「最強のバルサ」を作り上げたグアルディオラ監督を迎えた2年目となった昨季、マンチェスター・シティはイングランドのトップリーグ史上初の3ケタ越えとなる勝点100を獲得し、プレミアリーグを制覇した。

全38試合で32勝4分2敗、106得点27失点の得失点差+79。勝点、勝利数、得点、得失点差でリーグ史上最多の数字を記録する。まさに「相手はボールにすら触れない」プレースタイルそのものを象徴するような記録尽くめのシーズンだった。

そんなマンチェスター・シティが現在の強さを手にしたのは、グアルディオラ監督の手腕によるものだけではない。もちろん、現在も所有権を持つUAEの投資グループ=アブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメントによる買収(2008年夏)からクラブの様相が一転したのは確かだが、だからといって「湯水のごとく大金を注ぎ込んで大型補強を繰り返したから強くなった」と言うつもりもない。そこにはしっかりとした“進化過程”があったからだ。

ロビーニョから始まった大型補強は当初、あまり成功をもたらさなかった。しかし2009年12月、インテルでは現役時代からは想像できない手堅いチームを作って実績を積み上げた「イタリアの伊達男」ロベルト・マンチーニ監督が就任した時からチームの土台が作られ始めた。

マンチーニが緻密な守備組織を構築したことで、マンチェスター・シティは2011-2012年シーズンにプレミアリーグ初優勝を遂げた。

次に、2013-14シーズンからはスペインの中堅クラブであるビジャレアルやマラガに流動的なポゼッションサッカーを根付かせたマヌエル・ペジェグリーニ監督が就任。テクニカルな2列目の攻撃的MFダビド・シルバやサミル・ナスリに加えて、当時はセカンドトップだった主砲アグエロまでもが同サイドに寄ってプレーする場面もあった。個人の能力やアイデアを活かしたポゼッションサッカーにより、ペジェグリー二体制は1年目でプレミアリーグとリーグカップの2冠、3年目にもリーグカップを制した。

そして2016年の夏には、満を持してグアルディオラが就任した。1年目から両サイドにウイングを配置して攻撃に「深さ」と「幅」をもたらす理想を追い、初年度こそ無冠に終わったものの、2年目で完璧な独走優勝。同じポゼッションサッカーでも自由が売りだったペジェグリーニ体制とは違い、パスワーク時の「5レーン理論」や守備への切り替え時にボールの即時奪回を目指す「6秒ルール」などで、個々のポジショニングや守備意識、攻守の切り替えが組織的にも完成された。

グアルディオラの手腕はもちろん見事だが、守備組織が安定しなければチーム力を押し上げることはできず、ポゼッション志向に切り替えてスタイルに合ったタレントを集める期間も必要だった。

つまり、マンチーニとペジェグリーニによる段階的な進化過程がなければ成立しなかったバトンリレーの妙が今日の成功を築いているのだ。

日本の女子サッカーが進む道は「ポゼッション+サイド攻撃」

現在はベレーザだけでなく、INAC神戸も「ポゼッション+サイド攻撃」にトライしている節がある。日本の女子サッカーが進む道は、ここにあるのかもしれない。

なでしこジャパンがリオ五輪の出場権を逃しただけで競技力の低下が叫ばれた日本の女子サッカーだが、今年に入ってそのなでしこジャパンはアジアカップとアジア大会の2冠を達成した。ヤングなでしこ(U-20)に至っては、「FIFA-U20女子W杯」で優勝し、世界制覇を遂げた。

ただ、この一連の低迷ぶりや復活ぶりに際して、その内容面のことにはあまり触れられていない。今年のアジア2冠は劣勢の時間を耐え抜いて得られたものだったし、そもそもあのドイツW杯も相手を寄せ付けないような強さを披露し続けていたわけではなく、決勝のアメリカ戦は10回やったら9回は負けていたはずの試合内容だった。

ドイツW杯優勝時、日本のようなポゼッションサッカーをするチームがなかったために時代を先取りしていたが、現在はそれが世界中に広まり、また対策も進んだ。バルセロナも自分たちのサッカーが世界中に真似され、研究されたことにより、現在は少し形をマイナーチェンジしながら「近未来のパスサッカー」を構築中だ。

そんな中、日本の女子サッカーの近未来に「ポゼッションとサイド攻撃の両立」が必要とされているのではないか?現在はなでしこリーグ2部で入替戦圏内の9位ではあるが、バニーズ京都SCというチームは就任5年目の千本哲也監督の下、3部相当のチャレンジリーグ時代からこのサッカーをブレずに継続している。しかもバニーズには時代のトレンドをいく“偽サイドバック”の要素まで落とし込まれているほどだ。

トップリーグよりも2部や3部に志の高いサッカーをするチームがある以上、日本の女子サッカーは進化し続けられる。

また、一時低迷したとしても、プレースタイルを一新することなく、タレントを入れ替えながら時代の新たなエッセンスを取り入れるだけで、「日本サッカーの日本化」は言葉にしなくも自然と根付くだろう。男子サッカーよりも女子サッカーの方がこの点に関しては進んでいるはずだ!

ベレーザでも代表でも、最注目選手は21歳のMF三浦成美!

そして、今最も注目すべきタレントは、ワンボランチとなるアンカー役を担うMF三浦成美である。

下部組織出身で21歳の三浦は、大黒柱・阪口の負傷によりレギュラーに抜擢。そのまま6月にはなでしこジャパンに初招集され、すでにデビューまで果たしている。

男女問わずダブルボランチが根付く日本サッカー界にあって、中盤の底でアンカーとして1人で的確なポジショニングを取り続けられる選手は貴重な存在だ。パスワークを円滑にし、セカンドボールを回収し、攻撃時は縦パスを、守備時はインターセプトを狙う。この役目は代表クラスが揃うMF陣の中でも、それまで控えMFに過ぎなかった三浦が最も適している。

それを見逃さずに一気に代表に招集したなでしこジャパンの高倉麻子監督の判断にも恐れ入ったが、すでに下部年代の代表チームを指揮している際に指導した愛弟子でもある。

ベレーザの進化はなでしこジャパンの進化にも直結しそうなだけに、まだ経験の浅い三浦の成長と進化を楽しみにしつつ、日本の女子サッカーの未来=「ポゼッション」と「サイド攻撃」の融合に注視しつつ、佳境に入ったなでしこリーグを楽しみに観戦しよう!

そして、マンチェスター・シティファンの方々にも日本の女子サッカー界に似たようなスタイルを披露するチームがあることを是非とも観ていただきたい!

筆者名:hirobrown

各種媒体に寄稿するサッカーライター。創設当初からのJリーグファンで、好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味は音楽で、演奏を好むほかCD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

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