言葉は変わる

 民俗学者の柳田国男は1901年、信州を訪ねた。土地の人が「とても寒い」と言うので飛び上がるほど驚いたと、随筆「毎日の言葉」に書いている。「とても私にはできない」というように、後ろに「~ない」の付かない「とても」を初めて聞いたという▲「とても寒い」がけしからん、とは言っていない。「以前はそうは言わなかった、ということは牽制(けんせい)の力にはならない」と文は続く。言葉は変容するものだ、と▲文化庁の「国語に関する世論調査」の結果が発表された。例えば、借金の「なし崩し」は少しずつ返すことで、「なかったことにする」と取るのは誤りなのに、6割超は正しい意味を知らなかったらしい▲という結果を見ても、さほど驚きはしない。借金をなし崩しに返す、と昔ならば言ったとしても、今はまず使わない。意味が知られていないのも当然では-と、つい考える▲それでも今回の調査では、言葉を「正しく使うべき」と考える人が5割近くいて、前より大幅に増えた。使うならば正しい意味で使いたい。そんな傾向が強まっている▲柳田の例にあるように言葉は変容してきたし、今はあまり使わない慣用句もある。それでも正しく用いたい、言葉をなし崩しにできない、という気持ちの表れだろう。と、いけない、つい「なし崩し」の誤用をしてしまう。(徹)

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