金属行人(9月28日付)

 従業員数が事務所、工場を含めても10人前後の小さな町工場の話▼現場にはシャー、レーザ、ベンダーなどの加工設備が7台ほど。1人が多台持ちしながら客先の細かい小口の注文に即納対応しているが、ぎりぎりの人数で切り盛りするため繁忙時はてんやわんやとなる▼そんな折、中堅どころが1人辞めた。慣れが過信と傲慢に傾き、日ごろの行動や言動に表れる〝てんぐぶり〟が現場の雰囲気や士気を乱す元凶となった。幾度も改善を促したが更生せず。ある一線を越えたとき、見るに見かねてトップ自ら「退場」を勧告した▼需要期での人手不足、新規採用難だけに苦渋の決断だったが、先を見据えた会社全体の「利」と取引先との「信用継続」を熟慮すれば、自身の軸がぶれることはなかった▼一過性の外部環境や時節柄に流されない企業経営者としての「軸」を持ち、毅然とした態度を示したことが奏功したのか、現場は混乱もなく、むしろ使命感に基づく和と一体感が再生しつつあると感じている▼もちろん減員影響は大きい。眼鏡にかなった人材採用を急ぐとともに、注文が重なったときには率先して現場に入りシャーを踏む。こうしたけなげで愚直な後ろ姿にこそ、人はついていくのかもしれない。

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