“松坂世代”が作った新球団「堺シュライクス」来春独立リーグ参戦目指す

「株式会社つくろう堺市民球団」の夏凪一仁代表取締役社長

運営会社の夏凪一仁代表取締役社長に聞く

 今、大阪府堺市で市民球団が、設立準備を進めている。9月に入って、チーム名も「堺シュライクス」と決定した。来春のBFL(ベースボール・ファースト・リーグ)への参戦を目指す。運営会社である「株式会社つくろう堺市民球団」の夏凪一仁代表取締役社長に話を聞いた。

 1981年3月生まれの「松坂世代」である夏凪社長は、異色の経歴を持つ。もともと野球経験者。堺ビッグボーイズから浪速高校を経て桃山学院大に進んだが、2年の時にヘルニアで野球を断念した。卒業後は人材広告企業のマイナビに就職し、11年間のサラリーマン生活を経て、2014年には大阪に飲食店を開業。店は順調だったが、マイナビ時代の後輩で、コンサルタント会社経営の松本祥太郎氏から、「堺市に野球チームを作らないか」と誘われた。

 松本氏が、BFLから引退した選手の就職のあっせんを依頼されたことが縁だったが、東京在住の松本氏が、大阪在住で旧知の仲の夏凪社長に相談。「『やろか!』と二つ返事で決めました」と夏凪社長は笑う。店もたたみ、2人の共同出資で運営会社を設立した。

監督・指導者ら、スタッフ集めにも生きた“松坂世代”の絆

 監督に就任した大西宏明氏は、堺ビッグボーイズのチームメイトで、PL学園では松坂の横浜と延長17回の死闘を演じたひとり。近鉄、オリックス、横浜、ソフトバンクでプレーし、左投手に強い右打ちの外野手として活躍した大西氏は今も堺市で焼肉屋を経営。「堺で球団を立ち上げるのに、彼に声をかけないわけにはいかないだろうと思いました」(夏凪社長)松坂世代の絆が、新球団設立に生きた。投手コーチは、横浜DeNAや楽天で活躍した藤江均氏。スタッフも徐々にそろいつつある。

 もちろん、問題は山積み。堺市には有料の試合ができるような硬式の野球場がなく、2020年4月に向けて内野2000席、外野芝生3000席の球場を建設しているが、来年は大阪府下の近隣の球場を転戦することになる。BFLの登録選手数は25人。BFLの他の3球団も選手の分配を考えているというが、来季はぎりぎりの人数になりそうで、NPBのドラフトが終了した11月にトライアウトをする予定だ。

 そしてもちろん、最大の課題は安定した経営基盤。現在、スポンサー探しに奔走中だが、やはり地元球団だからといって簡単には見つからない。「何かしらの利益をスポンサーに残せるような仕組みを考えたいですね。私も松本君も、マイナビ時代にWebを活用したマーケティングをしていました。Webの構築を通して、スポンサーにメリットを提示していきたいですね。堺市内のIT企業ともパートナー企業契約を結びました」と、インターネットを活用して、パートナーに何らかの還元ができるビジネスモデルを模索中だ。

 選手の生活の保障も大きな課題。「BFLは現在のところ、野球をする経費や住居などは球団持ちですが、選手には給料を払っていません。でもWebを活用してファンクラブを作るなど、収入が入る仕組みを作って選手に少しでもお金を渡したいと思っています。住居は原則として堺市に用意しようと思っています」と夏凪社長は話した。

選手のセカンドキャリアについても明確なプログラム化目指す

 もうひとつ、夏凪社長が考えているのは、選手のセカンドキャリアの問題だ。独立リーグの選手からNPBのドラフトで指名され、プロ入りできるのはほんのひと握り。実際には独立リーグが野球の最後のキャリアになる。

 だからこそ、選手には現役の期間中から、ビジネス系の研修もしたいという。「どうすれば社会に通用する人間になるかを、野球をやめてから考えるのではなく、野球をやっている間に考えるということです。多かれ少なかれ独立リーグの球団はセカンドキャリアも考えていますが、プログラム化するところまでやっている球団はないと思います」と、野球を通じた人材育成まで手掛けたいという構想を持っている。

 地元・堺市や古巣のマイナビにも協力を依頼しており、ユニフォーム、選手募集、トレーナーやスタッフの雇用など、やらなければならないことはたくさんある。来春の本格参入を目指す夏凪社長は「BFLで一番若いメンバーで運営しているので、元気にやっていきたいですね。 堺市の人がみんなで作っていく、文字通り『市民球団』として来春に向けて頑張ります!」と、力強く語った。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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