学生アナリスト、アトムに聞け!サッカーにおける「リアルタイム分析」のトレンド

みなさんはじめまして!

筑波大学蹴球部3年スコット・アトムと言います!

海外の日本代表最新情報、Jリーグ超ゴールはこちら

スコット・アトム

筑波大学蹴球部3年 パフォーマンス局 データ班

1997年イギリス生まれ。イギリス人の父と日本人の母を持ち、小学校4年生のときに来日。地元の少年サッカー団に入り、本格的にサッカーを始める。その後は、中高一貫の東京学芸大学附属国際中等教育学校に入学し、サッカー部で活動。高校時代にプログラミングと出会ったのを機に、サッカーにおけるキックの分析ツールを開発。現在のポジションはフォワード。選手として活動するかたわら、パフォーマンス局のデータ班で積極的にチームのデータ解析に努める。好きなチームはNewcastle United、好きな現役選手はクリスティアーノ・ロナウド。ヒーローはいつまでアラン・シアラー。

筑波大学蹴球部と言えば、昨年の天皇杯においてJクラブ相手に起こしたジャイアントキリングを覚えて頂いている方も多いと思います。(今年は苦戦していますが応援よろしくおねがいします!)

その際にメディアに取り上げて頂いたのが、僕が所属しているパフォーマンス局の活動でした。

これが筑波大の強さの秘訣!戦略集団「パフォーマンス局」とは
https://qoly.jp/2017/08/16/tsu...

蹴球部の活動の中でもトレーニング、試合、対戦相手の研究などデータ収集から分析を行うなどデータ解析の重要性は増してきています。

また、ファンとしてもデータ解析による戦術分析など、様々な角度からより深くサッカーを楽しむことができるツールとして関心が高くなってきています。

サッカーにおけるデータ分析、解析などのトレンドや注目ゲームの分析結果などをお伝えすることでみなさんにサッカーのデータについても楽しんで頂ければと思います。

初回はリアルタイム分析のトレンドです。それでは…アトムに聞け!(笑)

ロシアW杯でついに解禁されたリアルタイム分析

昨年のコンフェデレーションズカップ決勝(ドイツvsチリ)ではすでに試行運転がされていた、試合中のタブレット端末!

FIFA、コンフェデ決勝で「タブレット」を初テストしていた
https://qoly.jp/2017/07/03/fif...

それが今年のワールドカップでは完全に解禁されました。4年前にデータ分析を駆使して優勝したドイツがどのようにタブレットを扱うのか楽しみな大会でしたが、まさかのグループステージ敗退…。大会前にタブレット解禁!と盛り上がっていたスポーツメディアは新しく導入されたVARやNHKの戦術カメラに興味を向けてしまいました。

しかし、目を凝らしてみればベンチにタブレットを持ったスタッフの姿は確かにありました。メディアに取り上げられていないだけでしっかり使われていたのです。

以下の写真にはスペインのベンチでタブレットを使用するスタッフが写っていました(左端)。試合中にデータ分析を使用した戦術的な変更ではなく、重要なシーンを見直すために使われている感じです。

本大会において、タブレット端末を用いたリアルタイム分析が派手に活躍したシーンは見受けられませんでしたが、大会全体を見れば情報技術の進歩は確実に進んでいます。

同時にいくらIT化が進んでも解決しない問題も浮き彫りになったと思います。

決勝でペリシッチの手は明らかにボールに触れていましたが、そこに意図はあったのでしょうか。

ESPNによるTwitter投票の結果(YES が53%, NO が47%)では、スローモーションで映像を見た人でも意見が真っ二つに割れていました。

また、西野監督による他力本願作戦も議論を呼びました。

しかし、体力面で考えれば、過酷なスケジュールの中で選手の負荷を和らげてベルギー戦に挑めたことは非常に良いことだと思います。以下の走行距離のグラフにもそれが表れており、日本は最も重要なベルギー戦で一番走れていたことを示しています。

多くの現場でのリアルタイム分析とは

ワールドカップが終わり、世界各国のリーグや他のスポーツの現場に目を向けると、リアルタイムでの分析がすでに始まっていました。サッカーにおけるリアルタイム分析の多くは練習中の負荷調整に役立っています。

練習中のリアルタイムデータ分析における最も顕著な例はブンデスリーガのTSG1899ホッフェンハイムです。

ホッフェンハイムは若者を重視しているチームで、指揮官のユリアン・ナーゲルスマン監督もわずか31歳です。ホッフェンハイムは2017-18シーズン、ブンデスリーガで過去最高の3位に入り、今シーズンはUEFAチャンピオンズリーグに出場しています。

21世紀初めにはドイツの4部リーグに所属していたホッフェンハイム。その急成長の裏には練習中のリアルタイムデータ解析があるとされています。

実はドイツの有名な研究機関であるフラウンホーファー研究所と世界最大級のデータ分析会社が手を組み、ホッフェンハイムのトレーニンググラウンドに最先端のトラッキングシステムと分析プラットフォームを作ったことがきっかけとなり、ホッフェンハイムはデータを練習に活用し始めました。

いまではさらに、巨大なスクリーンも設置され増々近未来的なピッチになってきているようです。よく見ると右の写真では大画面を利用してゲームをしていますね(笑)。

また、サッカー以外でも様々なスポーツでデータ分析が活躍しています。

NFL(米ナショナルフットボールリーグ)ではマイクロソフト社のSurface端末が支給されています。その数はなんとスタジアムに24台!

さらに充電ステーション4台もついてるみたいです。これは2013年にNFLとマイクロソフト社の間で締結した約50億円の契約の産物です。さすがはアメリカ、桁が違います。

ちなみに、女子バレー日本代表の監督だった眞鍋政義氏がいつも片手に持っていたタブレットを覚えているでしょうか。当時は「IDバレー」と呼ばれ、話題になっていたタブレットにはリアルタイムで記録した試合の細かいスタッツが表示されていたのです。

他にもフェンシングや女子テニスでも試合の分析が行われ、フィードバックが選手のパフォーマンス向上に役立てられています!

リアルタイム分析がもたらす未来

今回のワールドカップにおけるタブレット端末の解禁はサッカーに変革をもたらす、ゲームチェンジャーではないという印象を持った人が多かったかもしれません。

しかし、ワールドカップを終えてみると、今シーズンからUEFAもチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでタブレット端末の持ち込みを許可し始めたのです。

さらに日本でもEPTSシステム(トラッキングシステムとそれらのコミュニケーション技術の総称)の導入が許可され、スポーツは徐々に情報技術を取り入れ始めていました。

EPTS?なにそれって思った方はFIFAの説明画像を日本語訳したので参考にしてください!

では、これからリアルタイム分析がもたらすサッカーの未来はどうなっていくのでしょうか。

一つ確実に言えるのは、すぐに分析結果が戦術に活用されるわけではないということです。

現存している技術ではリアルタイムでのサッカーの戦術的な評価はまだ難しく、経験のある監督やスカウトには敵いません。どうしてもデータの取得、整理、分析に時間がかかってしまうため、試合中でのフィードバックが間に合わないのです。ちなみに僕が所属する筑波大学蹴球部では、試合後の振り返りのためにスタッツを取って分析しています。

少々残念に感じる人がいるとも思いますが、リアルタイム分析が真価を発揮するのは選手の身体負荷の調整です。ずばり、ケガの予防で大活躍します。

海外でプレーする年俸数億円の有名選手は1週間プレーしないだけでチームにとって大きな損失になりかねません。

コストであるケガを削減するところからスタートして、そのあとに選手の適切なパフォーマンス評価や選手交代・戦術変更の合図となる指標が開発され普及していくという流れが僕の予想です。

ただし、いくらデータ分析やIT化等々がサッカーに進出してきても、サッカーの本質である「人間と人間の戦い」は失われません。データによって得られる新しい知見や楽しみ方はサッカーをより面白く、エキサイティングにするものだと考えています。

これからサッカー×データに関する記事を書いていきたいと思っていますので、ぜひよろしくお願いいたします!

© 株式会社ファッションニュース通信社