原城跡の観光対策 VR開発やツアー売り込み ガイド確保や関連施設整備も課題

 長崎県と熊本県にまたがる「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は7月、悲願の世界遺産登録を果たした。12ある構成資産の一つ、島原・天草一揆(島原の乱)の舞台となった原城跡を抱える南島原市。他の近隣資産との距離が遠く、アクセス面などで不利な地理的条件の中で、官民一体となった観光対策が求められている。

 原城跡の来訪者は6月が約1300人(土日祝9日間)だったが、7月は約2600人(同10日間)と倍増した。8月は平日も含めた丸1カ月間で約7100人で、県内からの客が多いという。それ以前の集計はないが、市は「登録の迫った6月以降、格段に増えた」と手応えを感じている。
 3連休初日の今月22日の午後。原城跡に訪れた観光客を、住民による観光ガイド団体「南島原ガイドの会 有馬の郷(さと)」が出迎えた。福岡県から来た会社員、杉本健一さん(58)夫妻は「乱は小学校で習い知っていたが初めて来た。ガイドの説明は分かりやすい」と高評価。しかし、「来るまでに時間がかかる。他の構成資産まで一度に回るのは難しい」とも口にした。

 市内は鉄道もない上、幹線道路は片側1車線しかないなど交通事情は恵まれていない。原城跡から最も近い他の資産は、天草の崎津集落(熊本県天草市)と大浦天主堂(長崎市)で、ともに約2時間。大浦天主堂-外海の出津集落(同)間の約1時間など約2倍と距離的ハンディは明らかだ。
 そうした中、南島原市は昨年8月、天草市と連携協定を締結。今年2月には両市間の周遊モニターツアーをしたほか、11~12月にも2回目を開くなど、有明海を挟んだ連携を模索する。
 「長い移動距離や時間を踏まえてでも訪れてもらえるよう、魅力を伝えたい」と、南島原市は誘客対策を練る。市と観光協会などは観光ツアーを関東や関西などの旅行会社に売り込み、特に人口が多い福岡県内に力を入れている。
 魅力アップのために最新技術も導入した。
 市は今夏、一揆後に破壊される前の城郭を再現した仮想現実(VR)アプリを開発。案内所でタブレット端末百数十件以上の貸し出しがあったほか、アプリを自分のスマートフォンにダウンロードする客も多く「城の姿をイメージしやすい」と好評。外国人観光客から要望が多い周辺の公衆無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」環境も整えている。
 市は物産館やガイダンス施設などを含めた「世界遺産関連施設」を2020年2月、原城跡近くに整備予定だが「その頃は観光客は減っている」との声も多い。市は「完成は登録から1年7カ月後で、まだ観光客は多いはず。強く周知し、客を途切れさせない仕掛けを続けたい」とする。
 ほとんどの観光客がマイカーかツアーバスなどで訪れているが、駐車場には課題が残る。現在は暫定的に本丸近くの空き地を使っているが本来、史跡内の駐車は障害者車両などに限られる。市は、史跡外に設けた新駐車場2カ所を利用してもらうよう「早急に移行を進めたい方針」だ。ただ本丸から約900メートル離れているため、市はシャトルバスなど何らかの対策ができないか検討している。
 ガイドの確保も課題となりそう。城跡の理解を深めるにはガイドの役割が大きいが、会員約60人の大半が60代以上。「有馬の郷」の佐藤光典会長は「はるばる来たお客さんが納得、感心してくれる表情などが見られて、やりがいは大きい。若い人にも興味を持ってもらえるよう各方面に呼び掛けたい。人類の宝を未来にわたって守り、国内外の人に魅力を伝える上で重要な課題」と話す。

9月下旬の3連休に多くの観光客が訪れた原城跡=南島原市南有馬町

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