《闘論》経団連の就活ルール指針廃止 学生主体で/政府が主導

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まつい・よしはる 1943年生まれ。中央大卒。70年に県経営者協会入局。調査、教育訓練、労務管理を担当し専務理事を経て2008年に現職。県労働委員会使用者委員。前橋市
さいとう・だいじろう 1951年生まれ。関東学院大卒。現サンデンホールディングスで総務などを担当し定年退職。2011年に関東学園大教授。18年から現職。玉村町

 経団連の中西宏明会長が、新卒学生の面接解禁日などを設けた就職活動ルールを規定する経団連の指針を廃止する考えを示し、群馬県内でも議論を呼んでいる。形骸化が指摘される一方、学生側にとっては就活全体の流れをつかむ目安になってきたのも事実。政府は大学側や経済界とともに、今後のルールづくりを協議していく考えだ。

 指針は紳士協定で拘束力はない。人材獲得競争が激化する中、経団連に加盟していない外資系やベンチャー企業は独自の日程で採用活動を行っているほか、水面下の青田買いも多く、不公平だとの指摘がある。

 群馬県経営者協会の松井義治副会長は何らかの就活ルールは必要だとした上で、「経団連の紳士協定では限界がある。政府がルールを示し、順守を徹底させる仕組みが望ましい」と指針廃止を容認する立場だ。

 一方、学生側には就活スケジュールの目安がなくなることへの不安や、就活の前倒しが進めば学業との両立が難しくなるとして、指針に基づくルール存続を求める声が上がる。

 関東学園大の斎藤大二郎学長は「企業の理屈で採用日程が早まるのが不安。学生や大学が主体となるスケジュールにしてほしい」と廃止に反対する。

 見方の異なる2人の主張から、現状の課題や望ましいルールの在り方を探る。

《賛成》採用の多様化に目を…県経営者協会副会長 松井義治さん

―経団連の中西宏明会長は、就職活動ルールを規定した経団連の指針を廃止する方針を示している。

 少子高齢化で人手不足が深刻になっており、企業は優秀な人材を確保しようと、水面下では相当激しい争奪戦を繰り広げている。即戦力となる中堅やベテランの引き抜き合いだけでなく、新卒採用でも激しさを増しており、解禁日前に学生と接触する抜け駆けや早期内定による囲い込みはかなり多いのではないか。

 ルールを完全撤廃してしまえば、学生と企業を含む労働市場全体が混乱に陥る。したがってルールは必要だが、それを決めるのは経団連ではなく、政府の役割。利害関係が絡み合う経済界でいくら話し合っても、意見集約は困難だからだ。

―ルール形骸化の背景は。

 経団連に加わっていない外資系企業や、IT関連の新興企業などがルールにとらわれない独自の採用日程で優秀な学生を囲い込んでしまっている。経団連に加盟していながら、隠れて青田買いを続けている企業も少なくない。

 ルールを順守する企業には現状への焦りが強く、大企業に人材を吸い上げられてしまう中小企業は強烈な危機感を抱いている。

―今後は政府と大学側、経済界が新たなルールづくりを話し合うことになりそうだ。

 採用日程の前倒しは、内定者の囲い込み期間が延び、内定辞退のリスクをずっと抱えることになる。特に中小企業の負担が増すため慎重に検討するべきだろう。

 ルールづくりは政府主導が望ましい。違反すればペナルティーとして企業名を公表したり、中小企業に配慮して大企業の採用期間を限定したりして公平感を担保する仕組みにしてはどうか。経団連では不可能だが、政府なら強い対応ができるはずだ。外資系やベンチャーも適用対象に加えることができる。

―経済のグローバル化が進む中、新卒一括採用に偏重した日本企業の採用方針が転換期にあるのではないか。

 確かに日本企業は年功を重視してきた。国内の学生は優等生型で安定志向が年々強まっている印象で、「突破力や創造力が物足りない」という経営者の声をよく耳にする。企業の成長を考えれば外国人材や海外に留学した学生らを取り込むことが必要だ。ダイバーシティー(多様性)の重要性を認識し、そうした若者が就職活動で不利にならないような仕組みが求められる。

 一方、年功型の経営は社内での教育を大切にしてきた。社員は時間をかけて知識や技術、経験を積み上げる中で愛社精神を培い、切磋琢磨(せっさたくま)しながら経営者へと育った。ところが近年、即戦力のヘッドハンティングが増えると、この積み上げが崩れ、社内教育が徹底されない例が目立つようになってきた。

 人材の多様性の確保と、社内教育の再徹底の両立が急務となっている。

《反対》一斉入社の文化守れ…関東学園大学長 斎藤大二郎さん

―就職活動ルールに関する経団連の指針廃止を巡って議論になっている。

 就職活動の主人公となる学生の視点が抜けている。経団連(の指針廃止の方針)は企業の理屈であって、学生にこうあってほしいという話ではない。今でもルールよりも早くから採用活動をする企業がある。ルールを規定する指針がなくなれば、企業は他社より先に良い人材を取ろうと採用をどんどん前倒しにするだろう。教育の現場としては不安だ。

―就活ルールがなくなると、学生側にはどのような影響が考えられるか。

 大学1~3年生で社会、企業、職種を見る目を養った上で、自ら考えて就職した会社でなければ、ミスマッチによる離職が増えると思う。極端に言えば1年生で内々定を得る学生も出かねない。あまりに早く就職先が決まった学生は、残りの学生生活をどう過ごすのだろうか。企業の採用が通年となれば就活が長期化し、(メリハリのない就活の結果として)就職浪人も増えてしまうだろう。

 入社時期がばらばらになることも考えられる。4月に一斉に入社する文化は大事だ。同期と入社し、絆が生まれ、一緒に頑張る。仕事は人との協業でやるものだ。

―就活する学生に、大学はどんな支援をしているか。

 学生は自ら企業を選択することが必要で、その力を4年生までに身に付け、就職活動に走り出せるように教育をしている。それぞれの学年でやるべきことがある。

 例えば本学は、1年生は将来を見据えて幅広い教養や表現力、協業の資質、主体性を身に付ける期間。2年生は職業観、社会への関心、論理的思考など社会で必要となる考え方や能力を磨く。3年生はインターンシップを経験し、企業研究を進め、身に付けた力を表現できるように面接対策をする。そして4年生が最終仕上げだ。

―企業で採用担当をした経験を持つ。就活にルールは必要か。

 適性がある学生を早く採りたい企業の理屈も分かるが、極端に言えば、ルール撤廃後は企業側が1年生や2年生を面接することになるかもしれない。内定を出す基準や、学生の伸びしろを見極めるのは難しく、企業側は学年に合わせた選考方法が必要になるだろう。ルールに沿って学生を面接で見て判断する方が企業側にとってもやりやすいと思う。

―面接解禁などの日程のルールはこれまでも何度も見直されてきている。

 (変更の影響が)どうなるか分からないし、うわさが先行して学生が不安を持っている。企業の効率追求は学生や大学にとって良いことばかりではない。政府がある程度の指針を出して学生が混乱しないようにしてほしい。大学や学生が主体となって採用活動日程を決められるようになってほしい。

 《就職活動ルール》 経団連が会員企業の採用活動に関して規定するルール。企業説明会や採用面接の解禁日、内定日を定める。現在は説明会を大学3年生の3月、面接を4年生の6月、内定は10月を解禁日としている。2020年春入社までが対象。