金属行人(10月1日付)

 ビッグデータや人工知能(AI)といったデジタルイノベーションを活用する動きが材料開発の世界にも広がっている。神戸製鋼所がきょう1日付で立ち上げる「AI推進プロジェクト部」も一例だろう。AIを活用し製品開発効率を高めるのが大きな狙いだ▼企業の材料開発はスピードが求められる一方、地道な作業が欠かせない。理論や経験則に基づき組成や製造プロセス条件を考案し、実際に材料を試作しては結果を確かめるという繰り返しだ。例えば10種類の材料組成と三つのプロセス条件を組み合わせるなら試作回数は30回に及ぶ。溶解や圧延を伴うと考えれば手間暇のかかりようがよく分かる▼こうした作業負担を減らせる期待がAIにはある。コンピューター上で「試作」できれば製品開発のスピードを速くできる。さらに最近では「逆問題」を解けるという期待も強い。求める材料特性を入力すると、製造に必要な条件を割り出せるという▼鉄鋼は社会を支える基礎素材。さらなる高機能化の余地も大きい。だからこそだろう。AIなどの情報工学の融合で材料開発を効率化する取り組みは世界的に開発競争が激化している。材料開発に押し寄せるデータの波を乗りこなす力が求められている。

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