NPOが小学校教員にLGBT教材を無償提供

認定NPO法人ReBit(リビット、東京・新宿)はこのほど、小学校教員向けにLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)に関する教材キットの無料提供を始めた。同キットでは、「先生が知る」から「生徒に教える」までのプロセスを体系化した。専門家の調査では、性同一性障害の人の約8割が小学生のうちに「性別違和感を自覚し始めた」と答えており、小学校教員の対応が求められている。(オルタナS編集長=池田 真隆)

教材キットの「アライ先生」

同キットは20代の性的マイノリティーの大学生・若者と小学校教員の協働により作成された。性的マイノリティーを理解・応援する人のことを「アライ(Ally)」と呼ぶため、名称を「アライ先生キット」と名付けた。

同キットの概要は下記の3ステップからなる。

■ステップ1「先生が知る」
性的マイノリティーに関する基礎知識と当事者の子どもの困りごとを理解し、適切な対応を行うために、性的マイノリティーの若者が小学生時代を振り返り、当事者の声を多数掲載した。

■ステップ2「相談していいよ、を伝える」
図書館・保健室・相談室・学級文庫などに置いたり、授業に使ったりできる本やマンガなどを紹介するブックリストと、名札・教材・教具などに貼付できるレインボーのシールを封入。6色のレインボー(赤・橙・黄・緑・青・紫)は性的マイノリティーの国際的なシンボル。

■ステップ3「生徒に授業をする」
道徳などの授業で、すぐに多様な性について教えられるよう、必要な教材を揃えた。15分の映像教材には、性的マイノリティーに関する基礎知識や若者の声が多く収録されている。児童が理解を深め、自ら考えるためのワークシートや配付資料も用意した。授業実施の際には指導案と指導の手引きを参考にすることで、スムーズな学習プランへの組み込みをサポートしている。

84%が小学生から高校までに「いじめ」

なぜ小学校から取り組む必要があるのか。『封じ込められた子ども、その心を聴く―性同一性障害の生徒に向き合う』(ふくろう出版)では、性同一性障害の人が「性別違和感を自覚し始めた時期」について、小学校入学前までが56.6%、小学校低学年が13.5%、小学校高学年が9.9%と答え、80%が小学生のうちに自覚すると答えたことが分かった。

自殺念慮を持ったことがある性同一性障害の人は58.6%で、そのうち小学生の時期に自殺念慮が強かったという人は13.9%だった。この背景から、「性別違和感を持つ子どもに対しては、二次性徴が始まる小学校高学年までに性同一性障害について説明するのが望ましい」とされている。

さらに、小学生から高校生の間に「LGBTをネタとした冗談やからかいを見聞きした経験」のある性的マイノリティーは84%、自身が「いじめや暴力を受けた経験」がある性的マイノリティーは68%だった(参考:LGBT の学校生活に関する実態調査(2013)結果報告書)。

教育現場での性的マイノリティーへの取り組みの現状

文部科学省は2015年4月、性的マイノリティーの子どもへ配慮を求める通知を全国の小中高校などに出した。2017年4月から、一部の高校教科書に、2019年度から採用される中学校道徳教科書には8社中4社の教科書に、性的マイノリティーについての記述が含まれるなど、教育現場での認知が深まりつつはある。

一方で、2017年2月に公表された小中学校の学習指導要領の改定案においては、小学校の指導要領案に、「思春期になると異性への関心が芽生える」と記載されるなど、性的マイノリティーが教室にいることを想定した記述がなかった。

日高庸晴・宝塚大学教授が教員5,979人を対象に実施した性的マイノリティーに関する意識調査の結果によれば、教育の現場で同性愛について教える必要があると答えた先生は62.8%、性同一性障害について教える必要があると答えた先生は73%に及んだが、HIV/AIDSについて教える必要がある94.3%に比して20-30ポイントダウンとなった。

実際にLGBTについて授業に取り入れた経験がある先生は13.7%で、授業で取り上げない理由としては、同性愛や性同一性障害についてよく知らない(26.1%)、教科書に書かれていない(19.1%)、教えたいと思うが教えにくい(19.1%)などの回答だった。

リビット代表理事の藥師実芳(やくしみか)さんは、「この教材キットの活用により、学校現場においてアライ先生が増え、子どもたちに多様な性に関する正しい情報が伝わることにより、性的マイノリティーの子どもにとって過ごしやすい学校づくりに寄与したい」と話した。

「アライ先生キット」

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