LOFT HEAVEN Presents 森若香織×マリアンヌ東雲×浜崎容子 座談会

節目のロフト

──お三方ともLOFT HEAVENには既に出演していますが、今日はみなさんからロフトについて忌憚ない意見をお聞かせいただければと思います。まずはそれぞれのロフトとの関わりについて。森若さんは新宿ロフトが西新宿にあった頃からですよね。

森若:デビュー前の札幌に住んでいた頃からロフトには行ってましたが、東京に出てきてからも当然よく見に行っていて、東京でゴーバンズが最初に出たライブハウスもロフトでした。当時はカセットテープをライブハウスに持っていって審査があったんですが、いきなり夜の部に出させてもらって、後で聞いたらそれって結構珍しい事みたいですね。いま思うと、自分の人生の重要なポイントにロフトがあったんだなと思います。当時は、ツバキハウスと新宿ロフトは絶対行かなきゃいけない場所だったんで、東京ロッカーズのバンドがたくさん出るオールナイトライブとかよく観に行ってました。青春の場所ですね。

──キノコホテルは「DRIVE TO 2010」に出たのが最初ですか?

東雲:記憶が曖昧なんですが、たぶん初めて出演させていただいたのは2008年の「HALLOWEEN BALL」でした。とにかく出演者が多くて、楽屋のカオスっぷりが衝撃で。その日、本番後に突然サポートメンバーをクビにしたのは憶えています。既に入社(加入)が決まっていたケメさん(イザベル=ケメ鴨川)が初めて観に来ていたんですが、自分の将来を案じて本気で不安になったって後から聞いた(笑)。当時はまだキノコも二年目で、この辺りから次第に私の魂が汚れていったわけですね(笑)。その日はバーステージへの出演だったんですが、次はメインステージに立ってやる、という気持ちが芽生えたことも憶えています。いま思うと懐かしいですね。

──では、その後に「DRIVET TO 2010」(2009年11月5日)に出たのですね。

東雲:その日はメインステージで、しかも戸川純さんとの2マンライブだったので、自分でも驚きというか、バンドを始めてから初めて手応えというか高揚感を味わった日でもありました。森若さんも仰ってたように、その時々の節目をロフトで迎えるという表現が私にも当てはまるんです。しばらく出ていない時期があっても、何かの節目にまた戻ってくるような場所。

──アーバンギャルドも「DRIVE TO 2010」(2009年10月7日)に出てますよね。

浜崎:私も記憶がかなり曖昧で、たぶん初ロフトは「DRIVE TO 2010」の時だったと思うんですが、全然憶えてないんです。系列店での阿佐ヶ谷LOFTでのトークイベント後にたまたまあるホテルでジェーン・バーキンさんの打ち上げがあって、何故かそこに連れて行ってもらったんですが、まさかご本人に会えるとは思ってなくてもう号泣したんです。その時の記憶が強烈で、それ以外の事がごっそり抜け落ちてしまった。だからロフトの最初の記憶は、メジャーデビューした2011年に新宿ロフトで戸川純さんと2マンさせてもらった時ですね。衣装は何を着たのかとか、その日のことは鮮明に憶えています。

東雲:ロフトで戸川さんと2マンをやらせて頂けるかどうかが、インディーズ・バンドの一つの分水嶺のようになっていた気がします。

浜崎:確かにロフトによく出るようになったのは戸川さんとのライブがきっかけですね。

──他のバンドを見に来たりはしなかったんですか?

浜崎:出身が神戸なので、ライブハウスに通っていた時期はほとんど関西でした。

──マリアンヌさんはライブハウスにはよく行きました?

東雲:そう見られることも多いのですが、実は全然ライブハウスに行くタイプではなかったんです。ロフトにお客として行ったのは、町田康さんのライブだったと思いますね。自分でチケットを買って。私はもともとうるさい場所が苦手だったし、そもそもロックなんか何が格好良いんだか、って半分馬鹿にしているようなタイプで(笑)ライブハウスには全く無縁でした。でも、まさかその後、自分がバンドをやることになるとは。だからいま日常的にライブハウスに出ているのが不思議なんですが、ロフトはいろいろな意味でバンドの悲喜こもごもを教えてくれた場所でもあるんですね。

ライブハウスは特別な場所

森若:私が10代の頃はまだネットがない時代だったから、気になるバンドはライブハウスに行って確かめるしかなかった。「わー、町田町蔵って本当にいるんだ!」みたいな、生存確認?(笑)。

東雲:その方がシンプルでいいですよね。当時の西新宿のロフトとかツバキハウスとかの話を人づてに聞くと、それはもう刺激に溢れていて、何故自分は経験できなかったのだろうという歯痒さでいっぱいになったものでした。インターネットなんかなくてもみんな楽しかったんだと思う。私はそんな時代の方がうらやましいですね。恩恵を受けていないとは言いませんけど、ネットで知る事って楽しいことばかりではないので、私は今だに苦手です。

森若:そうかー、じゃあ私はラッキーだったのかな(笑)。確かに、私はいわゆるパンクバンドのファーストアルバムをリアルタイムに聴くことができたのは超ラッキーだったと思います。初めてラジオで聴いて「ヤベー、超カッコいい。どんな人がやってるんだ?」って思って、後で雑誌とかで見たら「ええー、こんな人だったのか。ショック!」とか、1つの情報を得るためにすごく時間がかかったりして、とにかくすべてが初めての体験だった。

東雲:たぶん森若さんはいわゆる初版の時代ですよね。羨ましい!ずるい!(笑)。私達の世代だと、復刻とか何回目かのリバイバルブームで知る事ばかりで、それはもはや原液ではなくてどこか薄まってしまっているものなので。

森若:そうやって薄まってきた頃に、また何か新しいものが生まれて来るんでしょうね。浜崎さんみたいにロフトを知らなかった人が何かの縁で繋がってしまうみたいな。私、急に変なこと言いますけど、それってロフトの持っているエネルギーだと思うんです。ロフトには何か他のライブ会場にはないものを感じるんですが、そう思いませんか?

東雲:そうですね。ロフトは歴史がありながらもあくまで現在進行形という印象で、時代に合わせて変化しながらもあくまでロフトであり続けているように感じます。今はロックバンドがアイドル・シーンに押されている感じもありますが、アマチュアのバンドがまずロフトのワンマンを目指す、という感覚は変わって欲しくないですね。

浜崎:ロフトにはここから何か発信して行くぞっていう意思を感じます。私も連載させてもらってますが、ROOFOTPのようなフリーペーパーを作っているのもそうだし、ミュージックシーンを引っ張りたいという熱量がある。

森若:それって音楽に対する絶対的な愛情なんじゃないかな。だからなんでも受け入れることができるし、それも自分でしゃしゃり出るんじゃなくて、やりたい人達に「はい、どうぞ」って場所を与えていくのがロフトの役割だと。

浜崎:出演するミュージシャンにすごく情熱を持っていろいろ提案してくれるのもそうですよね。根本に音楽を大事にしているという所があるから、ミュージシャンにもお客さんにも支持されてるんだと思います。

東雲:あと私から見ても、従業員の人達は礼儀正しいですし、店員教育もちゃんとしてると思います。ダメなライブハウスはそういう所からしてダメですから。ロフトを基準に比べてしまうのがいいのか悪いのかわからないんですが、ただでさえロックバンドが斜陽な時代に「おまえらそれで大丈夫なのか?」って思ってしまうようなライブハウスはたくさんあるから。

浜崎:スタッフの人が明るいのって大事です! ライブハウスが全部ロフトみたいであって欲しいですね。みんな音楽が好きでライブハウスをやってるはずだと思うし、そう思えないようなハコに当たるとがっかりします。イベントをよくしようという気持ちがお店のスタッフさんにもなかったらライブは成功しないと思うし、そういう意味で、ロフトに呼んでいただくイベントは、ちゃんと考えて呼んでくれてると思うので、こちらも気合いが入りますよね。最近、その日のライブが、あるお客さんにとっては人生で初めてのライブかもしれないという事をよく考えるんです。それってすごく特別なことだし、初めてではないとしても、ライブというもの自体がお客さんにとっても出演する側にとっても特別な日なんです。ロフトはそういうことを大事にしているんだろうなって。

東雲:全力感っていうとちょっと気恥ずかしいですが、やっぱり出るバンドもそこで働いているスタッフもみんなが一切手を抜かずに挑まないと、いいものはできない。ロフトには自然とそういう力が働く地場があると思うし、だからこそ、慣れないイベントにお呼ばれしても、ロフトだからまあ大丈夫じゃないの?という感じでついお受けしてみたり。

森若:間違いないっていう安心感があるんですね。

浜崎:安定感と攻めてる感じの両方がありますよね。だから自分達もがんばって攻めないといけないなって。

東雲:優しいんだけど、甘やかしてくれるのとも違うから、こちらも全力で応えなければと思わせてくれる場所ですね。

LOFT HEAVENの可能性

浜崎:LOFT HEAVENは森若さんが名付けたとお伺いしたのですが、それはどういういきさつだったんですか?

森若:私が去年からLOFT9で「KaolyriX」というマンスリーライブをやっているんですけど、最初は2000年に新宿ロフトのバースペースで始めたものなんです。その後、新大久保のNaked Loftでやったり、LOFT9でやったり、ロフトが新しいライブハウスを出すたびにやらせてもらっていて、今年、渋谷にまた新しいライブハウスを出すからってことで4月のプレオープンの日に呼ばれたんです。

東雲:それ、森若さんのために店が増えて行ったっていう事ですよね?

森若:そうなんです! いや、私はいつも自分中心に物事を考えているんですが(笑)、それにしても何かスピリッチュアリズムとも言えるような因果を感じるなと。それで、まだロフトがラストワルツを別の会社から受け継いだばかりの時に、新しい店名が決まってないというので、なんとなく思いついて「LOFT HEAVENはどう?」って(ロフトの)梅造さんに提案したんです。私のソロの曲に「HEAVEN」という曲があって、ファンの間でも人気がある曲なんですが、LOFT HEAVENって語呂もいいかなと。だから、その名前が正式に決まったと聞いた時は鳥肌が立ちました。

東雲:ロフトは毎月の売上の何%かロイヤリティを森若さんに差し上げないと。

浜崎:LOFT HEAVENという名前はお店の内装イメージにもすごく合ってると思いました。当初、噂で「LOFT WALTZ」になるかもって聞いた時は、「えー、それは・・・あんまり出たくないな」って思ってたんです。だから名前がLOFT HEAVENになってよかったーって胸をなで下ろしました(笑)。

東雲:ダサい名前のライブハウスは、恥ずかしい(笑)。

森若:そう言ってもらえると私も嬉しい。私は全国のいろいろなライブハウスを回っていつも思っていたのは、ライブハウスって基本男性仕様だなと。着替える場所がなかったり、楽屋の猥雑な落書きだったり。

東雲:ああ、チ○コとかマ○コとか、私は構わないんですけどね、森若さんとよこたんはダメ絶対。

森若:あと化粧台とかも基本ないから、新しい店には絶対作った方がいいってアドバイスしたんです。とにかく女性にやさしいライブハウスにして欲しかった。

浜崎:私も楽屋に入って感動しました。鏡が女優ミラーなんです!あとお客さんが椅子に座って見れるのがいいです。女の子の場合、ライブハウス靴問題というのがあって、ヒール履いてオシャレして行きたいんだけど、スタンディングだからどうしようっていつも迷うんです。でも椅子があればそういう心配もないから。実際、グランドオープンの時にやらせてもらったワンマンではお客さんがいつもよりオシャレして来てくださってて。だから出演者のことだけでなくお客さんのこともすごくよく考えているんだなって。個人的には、ここ最近行ったライブハウスでは一番テンションあがりました。まじで天国だって(笑)。

東雲:よこたんベタ誉め(笑)。でも、ロフトがこういったタイプのライブハウスを作ったのは正直驚きでした。LOFT HEAVENはアコースティックにもバンドにも対応できるし、きれいだし、女性が抵抗なく来れるし、駅からは遠いけど、渋谷でも静かなエリアだから人混みを避けるにはよくて、非常に可能性を感じますね。ハードは一見ロフトっぽくないけど、ソフトは昔ながらのロフトというのも面白い。いろいろなことができそうな予感がします。

浜崎:まずは10月11日に、みんなオシャレして来て欲しいですね!

© 有限会社ルーフトップ