くんちの運動量 サッカーの2倍超 医師の柴田さん分析 鯱太鼓の担ぎ手経験、自ら被験者に 「若返り」効果も確認

 長崎県長崎市の秋を彩る諏訪神社の大祭「長崎くんち」をスポーツ医学分野から研究する人がいる。長崎市の開業医、柴田茂守さん(47)。長崎市銀屋町の演(だ)し物「鯱(しゃち)太鼓」の担ぎ手として参加し、自らを被験者として運動量を分析。これまで祭りを医科学的な視点から捉える研究は進んでいなかったが、柴田さんは「くんちはサッカーよりも激しい運動のため、研究をけがの予防対策に役立てたい。くんちは体力向上、若返り効果もある」と語る。

 柴田さんは長崎市晴海台町出身で、くんちには縁がなかった。だが2000年ごろ、銀屋町の病院に勤務していたことがきっかけで、鯱太鼓の担ぎ手として2007年、2014年に2度参加。「くんちが体に良いことを証明し、みんなで祭りを盛り上げたい」。そう考えた柴田さんは、自身を含めた担ぎ手を被験者として運動量や血管年齢、血圧などの計測を始めた。

 鯱太鼓は、今年の踊町の一つ、椛島町の太皷山と同様の担ぎ物で、38人が約750キロの演しを担ぎながら約20分間、前後左右に動き、回り、放り上げる演技をする。そこで柴田さんは稽古中、運動量を測る「呼気ガス代謝モニター」を装着して演技。すると、運動量は16メッツと計測され、サッカーの運動量7メッツの2倍超に相当する激しい運動ということが判明。さらに、声を出して演技する方が、無声より力が発揮されるという。

 この激しい演技を3日間完遂させるには、持久力や筋力などを鍛えることが必須。そのため銀屋町では1月から体幹や筋力を鍛えるトレーニングを開始し、本番までに心身を整える。担ぎ手28人の本番直前の身体状態を調べると、トレーニング開始時と比べ、体力向上や生活習慣病のリスク要因が低減する「若返り」効果があった。

 だが急激に本格的な運動を始めると、手足の関節をねんざしたり、あばら骨を折ったりするけがが後を絶たず、本番ではベストコンディションで力が発揮できない人もいる。実際に、柴田さんも肉離れを経験した。

 今年4月に発刊された、演劇・音楽・舞踏など、舞台芸術の医学的対応をまとめた「舞台医学入門」(新興医学出版社刊)に、この分析結果を寄稿。まだ研究は始まったばかりだが今後は予防対策に役立てられるよう、多人数の計測を続ける方針だ。柴田さんは「長崎くんちの伝統を守り続けるため、くんちの医科学的評価を国内外に発信したい」としている。

柴田さんが参加した銀屋町の鯱太鼓の演技=2014年10月7日、諏訪神社
運動量を測る「呼気ガス代謝モニター」を装着して、稽古をする柴田さん(柴田さん提供)

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