ニュースサイトでこんな説明が相応しいかは、担当編集氏に判断を任せるとして。
お父さん!(ドドン)突然ですが問題です。本書のタイトルにある、「邦キチ」とは何ぞや?
ヒント:
トラキチ=虎○○○○の略。タイガースの熱狂的ファンのこと。
はい時間切れ~! 正解は「邦画○○○○」、つまり邦画を愛してやまない人のことでした!難しかったですか?って、難易度よりも伏せ字の多さよ。
本書は、ちょっとニヒルな17歳、小谷先輩が立ち上げた部活「映画について語る若人の部」にやって来た若きあすなろ、邦吉映子が織り成す、掟破りの邦画プレゼン漫画だ。
作者は「日ペンの美子ちゃん」の6代目作者である服部昇大。70年代80年代の少女漫画の古典的表現や技法を踏襲し、それをパロディ的に展開させている。その圧力が、濃度が、平たく言うと「ヤバい」のだ。
「○○○○だ!今の出版コードでは口に出せぬ○○○○としか言い様がない!」……そう先輩をして言わしめる映子。その邦画プレゼンは、独特でパワフルで、突っ込みどころが満載だ。例えば、
・紀里谷和明監督『CASSHERN』では、「実はこの映画…主人公が一度も『キャシャーン』と呼ばれないのです!!
最初から最後まで…ず~~~っとみんなから『てつや』と!! つまり今作は言うほど『キャシャーン』ではなく…!『てつや』なのです!!」。
・2011年にリメイク映画化された『電人ザボーガー』について、「父である博士(竹中直人)が母乳で2人を育てていたのですが、おそらくその母乳が原因で弟は死に…」
・『劇場版 仮面ライダー OOO WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』では、「この映画は、部長もご存じのあのヒーローと共闘するので、絶対入りやすいのですっ!
この映画は…ライダーと暴れん坊将軍が共闘する映画でありまする!!」
・そして『哭声/コクソン』、「あの映画、特に山の中でふんどし一丁の國村隼が、鹿にかぶりつくシーンが最高で…」
と、映子という名の暴走列車は止まることを知らないのだ。
本来、映画を観る方ではなかったという作者。漫画を描いている際、映画を流す習慣を作ったところ、名作だと仕事がはかどらないことに気付き、「なんか、そこそこ絶妙な、そこまで有名でも無名でもない作品」ばかり流すようになったのだとか。その中から見つけた「あんまり知られてないけどヤバい」作品を題材に作品を描きあげたのだとか。……消極的……!!
そんな作品誕生秘話までもひとクセありの本作。映子のプレゼンはどれもヒネた視点ばかりだが、それでも観てみたくなるのは、漫画で描かれてるシーンやエピソードを見てみたいという気持ちもある。でも実はそれだけじゃなくて、その穿った見方が、世界で遊ぶ一番手っ取り早いツールのように思えて、それを持ってる服部昇大がなんだか羨ましくもあるのだ。くっそー、面白すぎて嫉妬が止まらん!
(ホーム社 750円+税)=アリー・マントワネット