『スイーツメモリー ガトーショコラ ダァ』ToshI著 スイーツへの感謝状

「これからー、X JAPAN のー、『Rusty Nail』を流します」

数ヵ月の間、毎日X JAPANを聴いていた時期がある。小学校6年の頃だった。給食の時間、音楽係という排他的権利を得た男子数名が、世論を無視して毎日「Rusty Nail」をエンドレスで流し続けたのだ。ハイトーンボイスで「涙で明日が見えない」と叫ばれながら八宝菜や鮭のホイル焼き、クリームシチューを飲み込む日々。次第に給食の時間は重苦しい空気になり、大抵のことでは動じないベテランのおばちゃん担任までもが「そろそろドリカムとか聴きたい」と溜め息混じりに呟いた。

そんなわけでX JAPANには何の罪もないが、まぁいい印象は抱いておらず、だから自発的に触れたことはなかった。これまでも歩み寄ることはないであろう……とか思っていたのになんだこの状況。私の手にはToshIの新刊。その表紙写真のインパクトと、それ松田聖子もしくは彼女に縁のある人物のスイーツ本じゃなければ成り立たなくない?と問い詰めたくなる「スイーツメモリー」という大胆不敵な書名、そして「ガトーショコラダァ」という謎すぎる、しかしなんだか可愛いキャッチコピーに惹かれ、つい購入してしまった。

 唯一無二の歌唱力で日本を代表するロックシンガーであるToshI。彼が無類のスイーツ好きであることは、ファンの間では有名な話なのだろう。本書は、彼のスイーツへの思いの丈がぎゅうぎゅうに詰め込まれた一冊だ。

 子供の頃の定番おやつ、あれが欲しいと駄々をこね、お父さんを困らせた不二家の千歳飴、中学生の時、帰り道に買い食いした菓子パンとチェリオ、ロサンゼルスでの苦しいレコーディングを支えてくれた思い出のパンケーキ……。タイトル通り、スイーツとそれにまつわる思い出が写真とエッセーで紹介されている。

 また、本書にはフランス料理界の重鎮、「世界のミクニ」こと三國清三との対談や、ToshIのアイデアを三國が形にした、12ヵ月のガトーショコラのレシピも載っている。

 二人の出会いは8年前、ToshIとYOSHIKIによるディナーショーを企画した際、料理のプロデュースを三國に依頼したのが始まりだったそう。その当時のことを振り返る二人。そこでToshIは自身のこれまでを「壮絶だった」と語っている。

 そこで思い出した。ToshIって、洗脳騒動があったんだ。X JAPANから離れてサングラス外して、ヒーリング感、スピリチュアル感満載の歌うたってっていう、怪しい時期があったんだ。当時の妻とプロデューサーに騙されて、お金取られて、これまで築いてきた人間関係や信頼を失って……。12年にわたる「洗脳」を経て、そこから決別をして、彼は復活を遂げたんだ。

 その時期をよく知る三國との対談は、感謝と敬意、優しさに溢れている。よかったなぁ。彼に帰る場所があって、支えてくれる人がいて、そして優しくて甘い、スイーツがあって。本当によかった。

「僕はさまざまな経験をし、すべてを失った過去があります。

 それでも、手を差し伸べてくださった心ある方々に奇跡的に出会い、人生をもう一度やり直そうと誓いました。そして『人は必ずやり直せる』との想いを実践しています。その象徴が、スイーツであり、ガトーショコラだといえのかもしれません」。

 子供の頃からスイーツを愛し、人生の岐路に立たされた時、スイーツに支えられてきたToshI。本書はまさにスイーツへの感謝状だ。そのまっすぐさや純粋さは、まさにキラキラと輝く繊細なお菓子のよう。どうかこれから彼が傷つくことがないように、誰かの誘いに乗った結果、利用されたりしないようにと、願わずにはいられない。

 そして最後にこれだけは言わせて。本書にはToshIによるイラストが散りばめられているのだけれど、「画集出しませんか?」という誘いにだけは、乗らない方がいいと思う。それ、多分裏がありますよ!(言いたかないけどのりピー以下)

(講談社 1600円+税)=アリー・マントワネット

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