車いす全国旅 寺田さん 目の前の世界 少しずつ変えたい

障害関係なく 声掛け合って

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 「大きな世界ではなく、目の前の世界を少しずつ変えていければいい」。出会った人に車いすを押してもらいながら全国を旅する東京都の寺田湧将さん(28)が1日から長崎市を訪れている。障害に関係なく、気軽に声を掛け、助け合える社会に。そんな願いを込め、道行く人に明るく声を掛ける。「車いす、押してくれませんか?」-。
 3日午前9時すぎ、JR長崎駅かもめ広場に寺田さんと、ビデオカメラを手にした妻、真弓さん(27)の姿があった。2人の前をスーツ姿の男性や大きな荷物を抱えた観光客が足早に通り過ぎる中、1人の女子大生(19)が立ち止まった。
 快く引き受け、押しながら会話を楽しんだ。50メートルほど進み、最後は一緒に「はい、チーズ」。「何で押してくれたんですか」。寺田さんの問いに「えっ、理由はないですよ」。これまでの活動の話を聞いた学生は、別れ際に「なんか勇気をもらいました」と笑った。
 別の女性(40)も快諾。「あんなに明るく声を掛けてくれたら、なんだかこっちがうれしくなる」と顔をほころばせた。
 夫婦の小さな活動で、目の前の世界は少しだけ、でも確実に変わっている。
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 寺田さんは脳性まひで生まれつき脚に障害がある。それでも幼少期からさまざまなことに挑み、小学4年で野球を始めた。夢中になったが、走ることができず、高校時代に挫折。大学1年でパチンコやスロットにはまり、ふさぎ込んだ。見かねた両親が車いすを勧めた。「まだ歩ける」と拒否し続けたが試しに乗った。世界が一気に広がった。
 学生時代のある日、飲み会後に友人にからかわれた。「それって飲酒運転?」。障害が笑いに変わる空気が心地よかった。そして、思った。「こんな社会にしたい」
 大学在学中にお笑い養成所へ入所。「でも僕、面白くなかったんで」。3年で芸人の道をあきらめ、次に選んだのは東京・歌舞伎町のホスト。そこでの2年間に生きる上で大切なことを学んだ。「女性をだまして金を巻き上げる世界」。偏見を持たれることを嫌う自分が無意識にホストを色眼鏡で見ていた。「知ることから差別はなくなるよ」。経営者に掛けられた言葉が道しるべとなった。
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 昨春に旅を始め、断続的にこれまで24道県を訪問。今年初めに結婚した真弓さんも途中から加わった。鹿児島から長崎入りするまでに365組の人たちに車いすを押してもらったり、車に乗せてもらったりした。全国を旅して、思う。世の中には困っている人を手助けしてくれる人は意外と多い、ただ、どう声を掛けていいのか分からない人も、また多い。
 社会に“心のバリアフリー”を広げるには-。寺田さんは少し首をひねり、答えた。「ディズニーランドでは知らない人にカメラを渡して記念写真を撮ってもらうでしょ。それと同じような感覚で気軽に声を掛け合えればいいですよね」
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 夫婦は長崎からヒッチハイクで佐賀へ向かい、その後は九州各地を回る予定。「同じ境遇の人や一歩踏み出せない人の背中を押したい」との思いで、旅の様子をユーチューブ「寺田家TV」で配信している。

車いすを押してもらい笑顔で会話する寺田さん(左)=長崎市、JR長崎駅前周辺