【特集】「際どかった」関空の早期再開

責任の所在あいまいさの危惧

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左はタンカー衝突事故の影響で橋桁の一部が撤去されたままになっている関西空港連絡橋=2018年10月3日午後(共同通信社ヘリから)、右は台風21号に伴う高潮で滑走路や施設が浸水した関西空港=9月4日

【特集】

 台風21号による関西空港(大阪府泉佐野市)の浸水被害から1カ月。関空の2期島工事の地盤調査に関する委員会にもかかわった神戸大の飯塚敦教授(地盤工学)にインタビューした。空港の早期再開ついて、飯塚教授は際どかったのではないかと疑問を呈し、一連の課題、今後の教訓について指摘した。(共同通信=大阪社会部・真下周)。

 「現場に混乱」

 ―被災から半月あまり後の9月21日に全面復旧した。異例の早さだった。

 「(早期再開も安全面の不備が露見せず)今回はうまく行ったようだが、『際どいことをしているのではないか』と見ていた。(拙速な再開で)何かトラブルが起きたらどうするつもりだったのか。被災2日後には首相が『一部再開する』と復旧宣言を出した。官邸や国土交通省からの要請で、現場には相当の混乱があったと聞き及んでいる」

 ―具体的に何が問題か。

 「福島第1原発の事故はトップマネジメントの失敗の最たるものだったが、それと同じ構図に陥ってしまう危惧を持った。官邸主導のトップダウン型で、国としては『早期再開は素晴らしい』と国民の期待に応えた形だが、何か起きてしまった時、首相の責任とあげつらったところで筋が通らない」

 「空港の運営に責任を持っているのは関西エアポートなのに、空港の再開に事実上、決定権を持っていなかった。プレゼンスの出し方と実際のマネジメントとの間に隔たりがあったのではないか」

 「今後に禍根」

 ―関西エアポートは新関西国際空港株式会社から空港の運営を引き継いだ民間会社だ。

神戸大の飯塚敦教授

 「あそこの組織をよく見なければいけない。空港自体の所有権は持っておらず、借りているだけ。考えてみれば、ビルの店子に『建物が傾いているからなんとかしろ』と言っても仕方ない話だ。責任の所在と指示の不明確さが、今後に禍根を残さないか不安だ」

 ―空港の所有と運営が別組織という上下分離方式が用いられている。

 「全国の高速道路と運営するNEXCOの関係も同じだ。一方、2005年に起きた尼崎JR脱線事故では、JR西日本が事故の全責任を取り、自ら解決をはからなければならなかった。なぜなら線路も自社所有だからだ。責任と意思決定がつながっているから、問題がつまびらかになり、何をなすべきかも具体化していく」

 「今回、関空が機能停止したことについて『自然災害だから』と原因究明に向かわない恐れを懸念する。これから先、台風や地震、特に南海トラフ地震が来た時に、あいまいな責任体制のもとで人々の命を脅かす事態が起きぬよう、今から課題を整理し、次の災害に備えておくべきだ」

 地盤沈下の問題点

 ―関空は開港当初から地盤沈下の問題がずっと指摘され続けている。

 「(泉州沖5キロの海上を大規模に埋め立てて作った空港は)土木工学の業界からすれば、前人未到のチャレンジングな工事だった。そして空港としてきちんと機能している。米国土木学会から『20世紀を代表する事業』と表彰を受けたほどだ。エジプトのピラミッドにも比肩されるべき日本の先端技術なのに、アプリシエイトされていない(真価が認められていない)のは不満だ」

 ―浸水したA滑走路は低いところでは、海面から約1・4メートルしかない。

 「大阪湾はすり鉢状で、沖に行くほど地盤が軟弱。当時、これほどまで沈下が続くことは予見できなかった。今も年数センチで沈み続ける。(滑走路をかさ上げする)『増盛り』がすぐに必要な状況ではないが、いずれやらなければならない。1~2年間、A滑走路を閉鎖して、その間に盛り土してしまえ、という提案もできたかもしれない」

 「ただそのために関空と神戸、大阪(伊丹)の3空港が有機的に運用できることが前提だ。関空はA滑走路を止めてもB滑走路が使用できる。2期島の土地はまだ余っており、第2ターミナルビルをきちんと整備すれば本格的に使える。さらに同じ海上空港である神戸空港も活用すれば、国際空港としての機能をまかなえる」

 「ロンドンのヒースロー空港もそうだが、滑走路が複数ある国際空港は、全ての滑走路が常にフルで使えている状況は実はそう多くはないだろう。少しずつメンテナンスしながら、回していくものだ」

大阪・関西空港など3空港

 連絡橋寸断とアクセスの課題

 ―関空の減便を補うため、神戸、伊丹両空港による増便受け入れの表明があったが。

 「本当の意味で三位一体の運用はできていない。そもそも関西エアポートは3空港の運営権を持ちながら、自社による主体的な判断に限界がある。常に国や神戸市などに伺いを立てねばならないからだ」

 ―タンカーが連絡橋に衝突し、空港アクセスの課題も浮かび上がった。

 「連絡橋が寸断したことをきっかけに、アクセスの問題は改めて議論してもいい。技術面だけで言うと、千葉の房総半島と川崎市を結ぶ東京湾アクアラインのように、穴の開いたチューブを海底に敷設していく沈埋トンネルで神戸と関空を結ぶような計画の提案があってもよい。そうすれば両空港は15分で行き来できるようになる」

 「海上空港にはアクセスのルートが制限されたり、地盤沈下したりといった悪い面もあるが、周辺の騒音被害の問題から遠く、24時間運用が可能などのいい面もある。これからも、ポジティブな側面を最大限に活用していける方向に進んでほしい」