【特集】女優ファン・ビンビンさん摘発 業界に波紋

背景に米中貿易摩擦も

2018年5月11日撮影 カンヌ国際映画祭で会場入りするファン・ビンビンさん=フランス・カンヌ(ロイター=共同)

 今年6月以降、公の場からこつぜんと姿を消した中国を代表する人気女優、ファン・ビンビンさん(37)について、中国当局は今月、巨額の脱税で摘発したと公表した。政府は国内の映画業界で横行する不正に切り込む姿勢も示し、波紋が拡大。貿易摩擦をきっかけに関係が悪化する米国との〝持久戦〟も見据え、日米欧に対抗するソフトパワーの育成を急ぐ。(共同通信=大熊雄一郎)

 国を裏切った

 「ファン・ビンビンを脱税問題で取り調べた」

 国慶節(建国記念日)を祝う大型連休期間中の3日午前、中国国営中央テレビは、税務当局がファンさんと関連企業による映画出演料を巡る巨額の脱税を認定し、罰金など計約8億8千万元(約146億円)の支払いを命じたと報じた。

 ファンさんは同日、4カ月ぶりにブログを更新し「私を育ててくれた国家や社会の信頼を裏切ってしまった」と国民に謝罪した。

 中国の会員制交流サイト(SNS)ではトランプ米大統領の対中強硬発言や日本人のノーベル医学生理学賞受賞決定に注目が集まっていたが、世論の関心は一気にファンさんの脱税に向けられた。

 中国メディア関係者は「ファンさんは影響力が大きく、宣伝当局は効果的な公表のタイミングを慎重に見計らっていた」と話した。

 無法地帯

 当局はファンさんの摘発に合わせて、ほかの映画俳優らに、年内に脱税を認めて追加納税すれば行政処罰や罰金は免除するとして〝自首〟を呼び掛けた。

 600億元規模に急成長した中国の映画業界では、スポンサーを集めるため、広告塔としての人気俳優の獲得競争が激化。その結果、出演料は全体の予算の3分の2以上にまで急騰しているとされる。出演料の高騰に伴い、表と裏の契約書を作成して脱税を図ることが慣例となっている。

 さらに有望市場を当て込んだ投資マネーが業界に流入。中国メディアによると、映画の制作や撮影、宣伝の資金が金融商品となり、投資対象としての魅力を高めるため興行成績やインターネットの閲覧数を捏造する事態も横行し「無法地帯」(業界関係者)になっているという。

ファン・ビンビンさん=2017年5月、フランス・カンヌ(AP=共同)

 中国政府は不正の象徴としてファンさんの摘発を大々的に宣伝、俳優の出演料を映画制作費全体の4割に抑えるよう促し、業界の健全化を図る。

 香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト電子版によると、今回の騒動を受け、映画やドラマの製作を見合わせる企業や投資家が増え、映画産業は1~2年の停滞が見込まれるという。

 トラ退治

 多くの中国人にとって、ファンさんの摘発劇には既視感があった。

 習近平指導部は2012年に発足以降、「トラもハエも全てたたく」とのスローガンの下で反腐敗運動を展開、大物政治家を見せしめとして次々と摘発し、共産党・政府の綱紀粛正を図った。

 ハリウッド作品にも出演し、芸能界トップに君臨するファンさんに狙いを定め、劇的に腐敗に切り込む手法は習国家主席の常とう手段だ。ファンさんの摘発は、党が映画業界でも管理を強化し、「トラ退治」を進めると宣言したに等しい。

 政財界での反腐敗運動は汚職是正に一定の効果を上げたが、党が監視の目を強めた結果、政策議論の余地は狭まり、公務員の間に閉塞感が生まれた。

 高騰する出演料の規制は、映画作品の質を高める効果が期待できる。反面、党が管理を強化すれば政権の意向に沿った作品のみが量産されることも予想され、ファンさんの摘発が、ハリウッドの地位を揺るがすほどの中国映画の繁栄をもたらすかは見通せない。

「烈士記念日」の式典に出席した中国の習近平国家主席=2018年9月30日、北京の天安門広場(共同)

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