スピニング中心に金属の複合加工 湯川王冠 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・1

 高速で回転する厚さ2ミリのステンレスの板が、「へら」と呼ばれる金属棒が当たった部分から少しずつ曲がっていく。摩擦で立ち上る煙。直径20センチの円盤は、ほんの数分で高さ25センチ、直径20センチの円筒に姿を変えた。産業用ロボットのアームの一部になるという。
 スピニング(へら絞り)加工と呼ばれ、型を押しつけて変形させる「塑性(そせい)加工」の一つだ。切ったり削ったりする「切削加工」と違い、切りくずが出ないため材料を有効活用できる。同じ形状や寸法の品物の大量生産に向いている。

スピニング加工の現場。ステンレスの円盤は手前左にある金属製の「へら」に当たった部分から次第に形を変え、円筒になっていく=佐世保市広田4丁目、湯川王冠

 取引先ではかつて、円筒の部品は円柱と板の二つの部品を「溶接加工」していた。アーム内部に通した電線は、0・5ミリほどの溶接痕の突起で次第に擦り切れ、駆動回数は千回ほど。これを改良するため、スピニング加工を利用した部品を提案。溶接痕がないため駆動回数は5倍に伸びた。品質は上がり、取引先のコストダウンにつながった。
 1951年4月に清涼飲料水や日本酒、焼酎のキャップの製造で創業した。しかし次第に日本酒の消費は低迷。現在代表取締役会長を務める湯川栄一郎氏(72)は、85年ごろから急成長していた半導体に着目した。板金やプレス加工の技術を活用して半導体製造装置の分野に参入。少しずつ「会社のかたち」を変えていった。
 「なんでも作る」をモットーに、取引先の要望に応え、創意工夫で技術力を磨いてきた。ベルトコンベヤーの一部、モーターの部品、自動車のマフラー…。スピニング加工は九州でも屈指の技術を誇り、金属の複合加工も可能に。半導体製造装置で世界有数のシェアを持つ東京エレクトロンと取引するなど、製品は海外にも展開されている。「少々のものは作ることができるんじゃないか」。湯川会長の控えめな言葉に自負がにじむ。
 創業以来の王冠部門は、2004年8月に廃止。その名残は社名に残るのみとなった。それでも60年以上にわたって培った複合加工の技術と、時代の先を読む感性は、堅調な業績を支えている。

スピニング加工と機械加工の複合加工で製造した、ベルトコンベヤーの部品

◎湯川王冠
 佐世保市広田4丁目。湯川清十郎氏が1951年4月に創業した。代表取締役会長は湯川栄一郎氏。代表取締役社長は、栄一郎氏の長男の湯川紘充氏で3代目となる。本社のほか佐賀工場がある。従業員数は53人(3月現在)。主な取引先は東京エレクトロンや安川電機、佐世保重工業、TMEICなど。

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