台風時、雨が降り始めてからの避難情報では遅すぎる 鉄道運休など、過去の教訓を生かす

六甲アイランドを中心に被害が出た神戸港

記録的高潮、暴風、活発な雨雲

8月25日頃にマーシャル諸島近海で発生した低気圧は28日9時、南鳥島の近海で台風となり、チェービー(Jebi)と命名された。8月に発生した台風の数は9個となり、1951年の統計開始以来2番目に多い数である。台風21号は速いペースで発達し31日9時には猛烈な勢力に達した。台風は北西に進み、その後北向きに進路を変え、9月4日正午頃に非常に強い勢力で徳島県南部に上陸した。上陸時の中心気圧は950hPa、最大風速は45m/sで、高知県室戸市室戸岬では最大風速48.2m/s、最大瞬間風速55.3m/s、大阪府田尻町関空島(関西国際空港)では最大風速46.5m/s、 最大瞬間風速58.1m/sとなるなど四国地方や近畿地方では猛烈な風を観測し、観測史上第1位となったところがあった。

5日午前9時に間宮海峡あたりで温帯低気圧に変わった。死者13人、負傷者912人、住家の全半壊55棟、一部破損2万1920棟、死者はいずれも、強風による転落・転倒や、飛来物に当たったことが原因。多くの点で記録的な台風だった。

高潮とコンテナ漂流

台風21号では大きな高潮が発生した。最高潮位が大阪市では329cm、兵庫県神戸市では233cmなど、過去の最高潮位を超えた。関西国際空港は、高潮による滑走路やターミナルビルの浸水、停電などで閉鎖、さらに空港連絡橋にタンカーが衝突し橋が破壊、不通となった。

関西空港は大阪湾の泉州沖約5kmの海上に造成された人工島である。そのため空港施設が地盤沈下することを見越して設計されていた。建設以来地盤沈下は現在もまだ続いており、1994年の開港以来、約3~4mも沈んでいる。2004年には台風による高潮と高波で護岸が崩れ、浸水被害が出たこともあった。そこで、地盤沈下により護岸が高潮や津波を下回らないよう、これまで護岸のかさ上げ工事を実施してきた。大阪湾の過去最高の潮位は1961年の第2室戸台風で293cm、今回の潮位は4日午後2時18分に329cmとなり、過去最高を更新してしまった。

兵庫県西宮市甲子園浜2丁目では、高潮による浸水の後、約100台の中古車が炎上した。神戸市の六甲アイランドでもコンテナが炎上し、40個以上のコンテナが波にさらわれて湾を漂流した。そもそもコンテナヤードは船との荷役のため防潮堤を作ることができない。今回のように大量の大型コンテナが湾岸部にある発電所や石油コンビナートにぶつかれば、大惨事は免れない。この問題は東京や横浜など全国の港湾共通の危機であり、今後の対策が必要である。西宮市の西宮浜では、潮の流入を防ぐために設けられた鉄製の防潮門扉が3カ所で押し破られたり、開いたりする被害があった。

JR西日本は台風21号で早々の運休を決めた

安全のため鉄道を止め、集客施設は休業

近畿地方の鉄道は始発より運転したが、大阪環状線、阪和線、おおさか東線、大和路線他、JR西日本全線およびほぼすべての私鉄が4日午前中までに運転を中止した。地下鉄についても地上区間のある路線などが運転見合わせとなった。本数を減らして運行していた東海道新幹線は、4日午後2時ごろから東京駅~新大阪駅間の全線で運転を見合わせた。映画館などの施設、百貨店では、終日休業とした。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、4日の終日休業に続き、園内整備のため5日についても終日休業を発表した。

これらの判断は素晴らしかったと思う。これまで日本の交通機関はどのようなことがあっても運行を止めず、列車を走らせ続けることが称賛を浴びてきた。まさに職員の犠牲的精神で交通機関の運行を確保することこそが目標となってしまっていたのだ。しかし、2012年アメリカに来襲したハリケーン・サンディの際に、ニューヨーク都市交通公社(MTA)は上陸の前日夕方までに地域内すべての地下鉄とバスの運行を停止した。このため1日540万人の利用に影響し、地下鉄トンネル(8本)、地下鉄駅(8駅)、道路トンネル(2本)に海水が流入したが、地下鉄構内で犠牲者は出ていない。

このことから学ぶべきことは、鉄道が動き続け店が開いていれば、市民は活動し続けるということである。鉄道が運行し続ければ、命を失う危険性が格段に増大するということを考えると、今回の近畿の鉄道各社が運転を止め、USJや百貨店が休業したことは、勇気ある正しい判断で、このことをもって称賛されるべきである。

写真を拡大 川の水位変化と危険性(提供:土屋氏)

雨が降り始めてからの避難情報は遅すぎる

現在の避難に関する各情報は雨が降り始めてから一定時間が経過し、河川に雨水が集まり始めてから、避難判断を始めるという手順になっている。逆に考えると雨が降らない限り、台風が近づいてきても、ゲリラ豪雨が迫っていても、避難に関する情報は発令されない基準になっているのである。雨が降り始めない限り避難情報が発令されないと言うことは、情報を受け取る住民のサイドからどのような時にどのような段階でどのような指示が出れば「命を犠牲」にすることなく、逃げきれるかという視点が欠けているのではないだろうか。雨が降り始めてからの避難情報では遅すぎるのだ。

(了)

© 株式会社新建新聞社