「露の世」と言うけれど

 空は秋晴れ。本踊は(ほんおどり)麗しく、獅子踊は勇壮に、唐子は愛らしく、船回しは雄々しく。この心地よい季節に、豪華な長崎くんちの演(だ)し物が続々と…。といっても、実は紙面やテレビで見てばかりで、さあ、今日こそは見に行こう▲「コッコデショ」と気合の入った掛け声を響かせる椛島町の太皷(たいこ)山は、担ぎ棒を新調したらしい。原発事故で被災した福島県川内村のヒノキを用いた、と紙面にある▲福島の復興を長崎から願う。演し物にそんな思いが込められているのを知る。この話に限るまい。演じる人、支える人、それぞれの胸に思いが詰まっていることだろう▲きょうは熱気も心意気も感じさせる長崎くんちの中日(なかび)であり、多くの人がスポーツに爽やかな汗を流す「体育の日」でもある。二十四節気の一つ「寒露」でもあり、秋の深まる季節になった▲日差しとともに消えることから、露とは古来、はかないものに例えられ、「露の世」などと言う-と歳時記にはあるのだが、ヒノキの担ぎ棒に込められた願いに触れては、凜(りん)とした祭りの演技を見ては、「露の世」ともいえない気がする▲物思いに誘われたり、秋の空の高みに願いや志を送ったり、寒露の時節の行いも人それぞれに違いない。今月23日は「霜降(そうこう)」で、暦の上では露が霜となり、秋はますます深まっていく。(徹)

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