金正恩氏が「人体をミンチ」にした有力な状況証拠

脱北した韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使は8日、韓国の野党・自由韓国党のキム・ジェギョン議員が主催した討論会で、北朝鮮当局は今後、国際社会から追及されている国内での人権蹂躙を巡り、金正恩党委員長の責任回避に全力を挙げるだろうとの見通しを示した。

「今後、北朝鮮の人権外交の方向性は、人権蹂躙の糾明が金正恩の名前と直接つなげられるのを防ぐ方向に傾くでしょう。(国連での)北朝鮮人権決議案の上程阻止から、金正恩の責任糾明阻止に移っていくのです」

国連総会は昨年末まで13年連続で、北朝鮮の人権侵害を非難する決議を採択している。昨年は、組織的で深刻な人権侵害を非難し、外国人に対する拷問や拘束、拉致、法的手続きを経ない死刑などに深刻な懸念を示した。

前年の決議では北朝鮮に対する「極めて深刻な懸念を強調」としていたが、「強調」が「非難」に強められた。

現在、北朝鮮との対話を進めている韓国の文在寅政権と米国のトランプ政権は、人権侵害への言及を避けている。そこに触れた途端、北朝鮮がまたもや貝を閉ざし、非核化がふっとんでしまうリスクが大きいためだ。

しかし北朝鮮とて、国際社会との交流を拡大してゆけば、いずれ人権侵害に対する追及と向き合うのは避けられないと考えているはずだ。そこで北朝鮮は、「人権侵害がひどかったのは過去のことで、現在は改善の途上だ。元帥様(金正恩氏)に責任はない」といった主張にシフトしていくのではないか、というのが太永浩氏の読みである。

しかし北朝鮮がそのように出てきたとしても、金正恩氏が逃げ切るのは簡単ではなかろう。なぜなら、北朝鮮は金正恩政権になってからも残忍な公開処刑を行っており、一部の様子は衛星写真で捉えられている。

これは、有力な状況証拠と言えるだろう。

人間を文字通り「ミンチ」にしてしまう大型の高射銃を使用したために、その動きが察知されてしまったのだ。

処刑に高射銃を用いるのは、金日成・金正日時代にも前例がない。またそのほかにも、各種の人権侵害に関する様々な証言がある。

韓国では今のところ文在寅氏の支持率が高く、任期満了後も彼と同じ系統の政治家が後継政権を率いる可能性が高い。そうなれば、南北対話では人権問題が先送りされる状況が続くだろう。

しかし、米国ではそうは行くまい。次期大統領選でトランプ氏が再選せず民主党の候補者が当選したり、その次の大統領選で共和党が政権維持に失敗したりすれば、民主党は北朝鮮の人権侵害を本格的に追及するかもしれない。仮に、それまでに非核化が完了していたとして、金正恩氏は再び核武装に走るだろうか。

これはなかなか難しい問題だが、北朝鮮を巡っては「核」の次は「人権」が最大のテーマになるであろうことは確かだと言えるだろう。

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