稲刈り 復興の始まりに【上】

立ち上がる被災地 厚真

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 胆振東部地震の発生で甚大な被害を受けた厚真、安平、むかわの3町では、依然として避難所生活を送る大勢の人々がいる。そんな中、仮設住宅建設、インフラ復旧、各種産業の再開など、復興へ向けた動きが本格化している。苦闘しながらも前を見据えて立ち上がる被災者たちの姿を追った。
(3回連載)

亡き親友に「見ていて」

米収穫期

自宅前の大量の土砂を背に、稲刈りに励む伊部さん=3日午前10時、厚真町富里地区

 36人が犠牲となった厚真町では3日、町内の全建物4450棟を対象とした被害認定調査を完了。全壊・一部損壊が3168棟に上ることが明らかになるなど、全容把握に向けた関係機関の対応が続く。主要産業である農業は、米の収穫期を迎えた。

 「正直、ほっとした。復興の始まりにしたい」。3日午前9時、自宅前の大量の土砂を背に、JAとまこまい広域農協から借りたコンバインが力強く動き出す。土砂崩れで水田の一部や自家用車が埋まり、納屋が全壊するなど、大きな被害を受けた伊部義之さん(50)=富里地区。

 9月27日に収穫予定だった「ゆめぴりか」と「ななつぼし」。町内6カ所の水田(10・6ヘクタール)の稲を、3日間かけて収穫する。曽祖父の代から守り続けている水田。農業に対する姿勢は、昨年12月に亡くなった父・英二さん=享年(85)=から学んだ。「お前も今までにないことをやってみろ」。研究熱心だった父に負けじと、文献を読みあさった。

 父が現役を退き、本格的に農業に従事すると、不適格で捨てられるジャガイモの量に落胆した。「ロスをなくしたい」。年間50トン出荷するジャガイモ(1・5ヘクタール)に関して勉強した。

 ジャガイモにカルシウムを与える―。米国では主流だが、町内で試みた人はいなかった。3年前から挑戦した。貯蔵性が向上し、皮はむけづらく傷みにも強くなる。

切磋琢磨

 この方法に賛同した人がいる。土砂崩れに巻き込まれて亡くなった佐藤正芳さん=享年(65)=だ。2軒隣に住み、20代のころからともに農業を勉強し、切磋琢磨(せっさたくま)してきた親友だ。

 最後となったメール(8月12日)には、品種改良に打ち込む佐藤さんの努力が見える。「今、(カルシウムを与えた)ジャガイモを切ってみた。確かに硬いかな。ただ年越しのイモと比較するのは難しい。改めて(気候条件や生育期間が同じでカルシウムを与えていないイモと)比較したいので、その時にまたお願いします」

 9月1日、2人は水と消石灰を流し込んだ田んぼの前にいた。倒伏を減らし、病気に強くするため、今年から導入した。「新しいやり方。どうなるか楽しみだね」「そうですね」。これが最後の会話だった。6日午前11時19分、電話をかけたが反応はなかった。

 「米とジャガイモの研究を続けて、独自性を求めて邁進(まいしん)するよ。見ていてほしい」
(鈴木直人)

(2018年10月6日掲載)