公約破りで支持率急落、プーチン氏が次に打つ手は

By 太田清

モスクワ郊外で会談したプーチン大統領(左)と沿海地方知事代行に任命されたコジェミャコ氏=9月26日(タス=共同)

 ロシアのプーチン大統領の支持率が急落している。独立系世論調査機関「レバダ・センター」が9月に行った調査結果によると、最も信頼できる政治家としてプーチン氏を挙げた回答者は39%と、昨年11月と比べ20ポイントも減った。政府に近いとされる「世論基金」の9月の調査でも、もし今大統領選挙が行われれば誰に投票するかとの問いに、プーチン氏と答えたのは45%と、今年1月から22ポイントも下がった。与党統一ロシアの支持率も31%と20ポイントを失った。 

 ちなみに、この45%という大統領支持率は2013年と並び、ここ10年では最低水準。最大の原因は年金改革法への反発だ。同法は年金受給開始を2023年までに、男性が現在の60歳から65歳に、女性は55歳から60歳にそれぞれ段階的に引き上げるもので、議会可決後に、プーチン大統領が署名し施行が決まった。 

 法案段階から国民の間で反対が強く、プーチン氏が審議の過程で、女性の受給年齢を引き下げるなど政府案を緩和したものの、これまで「大統領在任中は引き上げしない」と公約してきただけに、国民の失望は大きかった。9月に全土で実施された知事選では複数の与党候補が敗北。与党候補が勝った極東の要衝、沿海地方知事選では不正疑惑の末に年内再選挙という事態に追い込まれた。 

 とはいえ、共産党など野党の支持率はプーチン氏の足元にも及ばず、なお同氏の独走状況だが、支持率の高さをバネに権力基盤を固め強権的な政策を断行してきたプーチン氏にとり、支持率低下は見過ごせない問題だろう。クレムリンでは毎週、世論動向に関する報告が行われ、プーチン氏はその動きに極めて敏感であるとされる。 

 プーチン氏の支持率を巡っては、2011年、統一ロシアの下院選不正疑惑から大規模な反政権デモが行われ、12年の大統領職再登板後も支持率は60%台と伸び悩んだ。しかし、ウクライナでの親ロシア政権の崩壊と、その後のロシアによるウクライナ領クリミアの併合で支持率は80%台に駆け上り、15年10月には90%近くを記録。その後も勢いを維持していたものの、ここに来て一気にその人気が凋落、「クリミア危機」前の水準に戻った形だ。 

 クリミア併合はロシア国民の民族意識を高揚させ、事実上の武力による併合という危険な賭けに勝ったプーチン氏は国民の拍手喝采を受けた。頭痛の種だった支持率問題は雲散霧消し、同氏は再びロシアの「国父」となった。引き換えにロシアは西側諸国の批判にさらされ、厳しい経済制裁を受けたほか、主要8カ国(G8)から除外されるなど国際的孤立に追い込まれた。何より、同じ東スラブ民族として最大の「兄弟国家」であるウクライナとの関係は修復不能なほどに悪化した。 

 古今東西「小さな勝てる戦争」に勝利することが、指導者の人気を劇的に引き上げる最も簡便な方策であることは間違いない。特にロシアでは戦争に勝利したピョートル1世、エカテリーナ2世は「大帝」としてたたえられ、戦争に負けたニコライ2世は帝位を失い、その後、家族とともに処刑された。クリミア、ウクライナ東部、シリアと、既に十分に冒険的な対外政策をとってきたプーチン大統領が、次にどのような方策に出るのか注目している。 (共同通信=太田清)

© 一般社団法人共同通信社