第9回 地ビールメーカー動向調査

 大手メーカーのビール系飲料の需要が伸び悩むなか、2018年1-8月累計の全国主要地ビールメーカー出荷量は前年同期を1.0%上回った。主要地ビールメーカーの出荷量は、2017年に前年同期より0.7%減少したが、2018年は地ビールブームを背景に再び増加に転じた。
 ビール大手5社の2018年1-6月のビール系飲料課税済み出荷量は、前年同期比3.6%減と上期では6年連続で過去最低を更新した。消費者の嗜好の多様化や2017年6月施行の酒類安売り規制で苦戦し、ビール系飲料の小売価格の大幅上昇も出荷減につながった。
 一方、地ビールメーカー各社はイベントでの自社販売を軸に、スーパー、コンビニへの拡販に加え、都市部でビアパブなどの開拓が進み、出荷量を増やしている。だが、出荷量が落ち込む地ビールメーカーも増えており、地ビールブームに沸く業界だが、いつまでブームが続くのか危機感を抱く地ビールメーカーも出始めている。
 大手から地域限定まで、地ビール・クラフトビール市場は活況をみせている。しかし、ブーム持続には次の一手となる販売企画・商品開発など、新たな経営戦略が求められている。

  • ※本調査は、2018年9月1日~25日に全国の主な地ビールメーカー217社を対象にアンケート調査を実施、分析した。出荷量は2018年1-8月の出荷量が判明した75社(有効回答率34.5%)を有効回答とした。その他の項目は、回答が得られた77社(有効回答率35.4%)を有効回答とした。本調査は2010年9月に開始し、今回で9回目。

出荷量トップ 7年連続でエチゴビール(新潟県)

 2018年1-8月の出荷量ランキングは、全国第1号の地ビール醸造所のエチゴビール(株)(新潟県)が7年連続でトップを守った。出荷量は生産設備も増強し1,958kℓ(前年同期比0.9%増)と2位以下を大きく引き離した。
 エチゴビールの阿部社長は「今後、輸出に力を入れる。価格面や商品の方向性でクラフトビールブームがどう変わるか注目している」と、業界の先行きを模索し始めている。
 2位は「常陸野ネストビール」の木内酒造(資)(茨城県)で、1,425kℓで出荷量は前年より0.4%増。以下、3位は「ベアードビール」の(資)ベアードブルーイング(静岡県)の380kℓ(同10.5%減)、4位は「べアレン・クラッシック」の(株)ベアレン醸造所(岩手県)の331kℓ(同6.4%増)、5位は「伊勢角屋麦酒」の(有)二軒茶屋餅角屋本店(三重県)の322kℓ(同4.2%増)だった。
 なお、昨年、出荷量1,135.3kℓで3位だった「銀河高原ビール」の(株)銀河高原ビール(岩手県)は、当年の出荷量が非公開のためランク外とした。

地ビールメーカー2018年出荷量ランキング

2018年1-8月の総出荷量 夏場の天候不順で1.0%増と微増にとどまる

 出荷量が判明した77社の2018年1-8月の総出荷量は、8,655.3kℓ(前年同期比1.0%増)だった。このうち月別の出荷量が判明した75社では、月別で増加率の最高は4月(前年同月比6.4%増)で、次いで7月(同5.7%増)、5月(同2.8%増)の順だった。
 だが、出荷量の伸びが期待された夏場の8月(同6.0%減)は西日本など一部地域での天候不順の影響を受け、全体の出荷量が伸び悩んだ。
 2018年1-8月の総出荷量が100kℓを超えた企業は、前年の19社から1社増えて20社だった。このうち、13社(構成比65.0%)が前年出荷量を上回った。また、出荷量が累計100kℓ超の20社の2018年1-8月出荷量合計は6,735.1kℓで、前年同期(6,648.1kℓ)より1.3%増えた。
 出荷量上位メーカー20社で、75社の出荷量全体の77.8%を占めた。出荷量上位メーカーは、「飲食店、レストラン向けが好調」、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」、「生産設備の増強」など、販売力の拡充や設備強化で着実に出荷量を伸ばしている。
 地ビール業界は、攻勢を強める大手地ビールメーカーの寡占化が進み、守りの中小メーカーは天候などに左右される体質から脱却が遅れているようだ。

地ビールメーカー出荷量月次推移

出荷量 増加と減少が拮抗

 2018年1月-8月の出荷量が判明した76社のうち、「増加」は41社(構成比53.9%)と6割を割り込み、「減少」は35社(同46.1%)だった。2017年1月-8月では7割のメーカーが出荷量を増やしたが、2018年は増加と減少の社数が拮抗した。
 増加の理由(有効回答41社)は、「飲食店、レストラン向けが好調」が11社(構成比26.8%)と最も多く、次いで、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」が9社(同22.0%)だった。
 「その他」(11社)では、「輸出を増やした」、「PB、コラボ品の増加」など、積極的に新たな受注機会の獲得を目指す動きがみられた。
 全体では、既存の販売ルートでの売上増を柱に、着実に伸びているクラフトビールレストランなどの新規ルート開拓が出荷増の要因になっている。
 一方、減少した34社の減少理由は、天候不順のほか、「ふるさと納税の返礼品が減少」、「生産能力が限界」、「観光客の減少」、「飲食店、レストラン向けが不調」など、競争力の格差によるものが多かった。
 店舗内でクラフトビールを製造し、新鮮さをアピールして売上を伸ばすメーカーも登場するなど、ブームのなかで新規参入も増え、新たな企業間競争が激烈になっている。

地ビールメーカー出荷量増減

出荷量伸び率ランキング トップは網走ビール(株)

 出荷量が判明した75社のうち、2018年1-8月累計の出荷量伸び率トップは「網走ビール」の網走ビール(株)(北海道)で、前年同期比45.6%増だった。オホーツク海の流氷を使用した「流氷ドラフト」が大ヒットし、生産設備の増強でアジア圏への輸出も開始した。
 2位は「ひぜん地ビール」の宗政酒造(株)(佐賀県)の41.7%増、3位は「川場ビール」の(株)田園プラザ川場(群馬県)の31.4%増と続いた。
 ワインや焼酎、日本酒を主力とするメーカーが、従来の商品ルートを生かして地ビール業界に新規参入し、地ビール・クラフトビール市場で健闘している。

地区別出荷量 最多は関東、増加率トップは北海道

 75社の2018年1-8月の地区別出荷量は、9地区のうち7地区で増加、2地区で減少した。出荷量の最多は関東の4,558.4kℓで、次いで、中部の1,438.0kℓ、東北の803.8kℓだった。
 増加率トップは、北海道の18.7%増(71.4kℓ増)。次いで北陸の9.7%増(11.4kℓ増)、中部の9.2%増(121.2kℓ増)と続く。
 減少率ワーストは、中国の10.1%減(50.2kℓ減)。次いで、関東が2.1%減(99.5kℓ減)だった。中国は、前年の出荷量を上回ったメーカーは増えたが、出荷規模の小さいメーカーが多く全体の出荷量は低迷した。
 9地区のうち、出荷量が増えたメーカー数が減少メーカー数より多かったのは7地区で、業界全体では堅調な出荷状況だった。
 地ビール、クラフトビールのブームは全国に広がっているが、大消費地で出荷量の多い東京など関東圏のメーカーが出荷量を減らしたため、全体の出荷量は1.0%増と微増にとどまった。
 また、販路基盤が弱く固定客が少なかったり、観光客など変動する顧客に依存した地域は天候が大きな要素になっている。

地ビールメーカー地区別出荷量増減

販売先 「自社販売」を軸に「飲食店、レストラン」にも拡販(有効回答77社)

 販売先については、「自社販売(イベント販売含む)」が34社(構成比44.2%)で、2017年(同39.1%)に続き最多だった。次いで、「飲食店、レストラン」が19社(同24.7%)、「スーパー、コンビニ、酒店」が15社(同19.5%)だった。
 直営レストラン・飲食店など自社販売に力を注ぐほか、地元の酒販店、コンビニエンスストアなどの卸売にも力を入れていることがわかった。
 今後、伸びが見込まれる販売先(有効回答78社)は、「飲食店、レストラン」が24社(構成比30.8%)、「自社販売(イベント販売含む)」が21社(同26.9%)とこれまでとさほど変化ない回答となったが、海外市場向けに輸出出荷量を増やすメーカーも4社あった。

地ビールメーカー動向アンケート

今後の事業展開 地元中心に東京進出も視野、大手を意識せず

 今後の事業展開(有効回答78社)では、「自社地元」の販売に力を入れるとする回答が42社(構成比53.8%)と半数を占めた。次いで、出荷量の増加が期待できる「東京都市部」への進出に意欲を燃やすメーカーも28社(同35.9%)あった。
 都市部を中心に高まっているビアパブ人気にあやかり、東京都市圏で知名度を上げたいメーカーは多く、自社単独でアンテナショップを出店するメーカーも増えている。だが、地ビールメーカーとして地元にこだわるメーカーも少なくない。
 そこに大手5大メーカーが地ビール、クラフトビールの製造販売に乗り出す動きも本格化している。だが、中小の地ビールメーカーは、大手メーカーとの差別化に強気な姿勢を見せ、「大手を意識せず従来通りの営業を進める」との回答が35社(構成比47.2%)と5割近くを占めている。地元に密着した地ビールメーカーの意地で、大手に対抗する強気の姿勢を見せている。
 一方、「独自の味」は27社(同36.4%)と約3割あった。また、「大手メーカーの地ビール業界への参入が地ビール市場への関心を高める」と大手参入を歓迎する回答もあった。
 「大手を意識せず従来通りの営業を続ける」、「独自の味」など全体の83.6%が大手メーカーの市場参入を前向きに受けとめ、地ビールメーカーは独自の路線に意欲をみせている。

地ビールメーカー動向アンケート

重点を置く経営課題は国内販路拡大・維持

 今後、重点を置く経営課題として最も多かった回答は、「国内販路の拡大・維持」が39社(構成比50.6%)だった。以下、「人手不足・後継者問題」(同15.5%)、「商品開発」(同14.2%)と続く。「地元の特産物を使った商品開発に注力し、地元栽培の大麦で精麦しビールを作っている」と、地元密着を強調するメーカーは多い。一方、「設備の老朽化が大きな課題」と資金的な制約に苦慮しているメーカーもあった。
 出荷量ランキング第5位で、「伊勢角屋麦酒」の(有)二軒茶屋餅角屋本店(三重県伊勢市)は2018年9月、生産拡大のため新工場を建設している。新工場の製造能力は旧工場と比べ2倍以上になる。同社は2010年頃から需要に供給が追いつかない状況が続いており、今後は米国やカナダなどビール本場の海外にも進出を視野に入れている。
 2018年の酒税法改正で、ビール税率の引下げが予定されていることの影響や、今後の地ビール(クラフトビール)市場や業界動向について、「酒税引下げもあるが、原材料費がどれも値上がりしており、消費増税も予定されるため経営は厳しい」との回答も目立った。
 「同業が増えて業界の底上げが期待できる一方、品質に問題があるメーカーが出てきている話も聞く。以前の地ビールブームのようにブームが一過性で衰退しないか心配」と、地ビールブームの底の浅さを懸念する回答もあった。

地ビールメーカー動向アンケート

輸出拡大、酒税法改正の追い風に乗れるか

 2017年4月、日本から輸出する食品などの輸出額を1兆円に引き上げる目標達成に向け、政府は「JFOODO(ジェイフードー)=日本食品海外プロモーションセンター」を立ち上げた。JFOODOは重点的に支援する対象に地ビール(クラフトビール)を選定しており、地ビール業界全体に追い風が吹いている。
 また、2016年12月の税制改正大綱で麦芽比率などで異なるビール類の酒税が2020年10月、2023年10月、2026年10月の3段階で、350mℓ缶あたり54.25円に一本化されることが決まった。
 これでビール酒税は現在の77円から減税される一方で、第3のビールや発泡酒、ビール系飲料が増税され、地ビール業界にはさらに有利な材料となり追い風になりそうだ。
 だが、知名度も高く営業力の強固な大手ビールメーカーが、地ビール業界に風穴を開けようと参入を進めている。中小企業の多い地ビール業界にとって、とてつもない“黒船”の来襲だが、地ビール業界は商品開発と「独自の味」にこだわり市場活性化につなげようと前向きに捉えるメーカーも少なくない。
 政府の輸出拡大への後押し、酒税改正をどう生かして市場を活性化すると同時に、地盤強固を図るか、各メーカーの経営戦略や力量が問われている。

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