何がいけなかったのか ホワイトタイガー襲撃死亡

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佐々木央

47NEWS編集部、共同通信編集委員

佐々木央

47NEWS編集部、共同通信編集委員

 本州の北辺・下北半島で育ちました。子どもや若者のこと、生きもの(動物園・水族館)について長く取材してきました。なので、軽視されたり無視されたりしがちな存在、人権のないものへの共感も少しはあります。 

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男性飼育員を襲ったホワイトタイガー「リク」(鹿児島市平川動物公園提供)

 悲しい事故が、また起きてしまった。

 鹿児島市の平川動物公園で、40歳の男性飼育員がホワイトタイガーに襲われ、死亡した。生きものの素晴らしさ、面白さ、不思議さを伝えるはずの動物園で、飼育担当者が被害者となる事故がなくならない。防ぐことはできないのか。(47NEWS編集部、共同通信編集委員佐々木央)

 この10年、動物園を取材してきた。もちろん現場に居合わせたわけではないが、その間に幾つかの人身事故が起きた。

 最初は2008年6月、京都市動物園の事故だった。40歳の男性飼育員がおりの中を清掃中、アムールトラに襲われて死亡した。本来は閉じて作業するべき寝室の扉が開いていたと報道された。

 翌年、京都市動物園を取材した。京都市動物園の歴史・現在と飼育動物たちを解説しながら案内してくれたのは坂本英房・飼育課企画係長(現副園長)。閉園時刻が近づいたころ、坂本さんに「ちょっと待っていただけますか」と言われた。

 坂本さんはゾウ舎の方に向かう。戻ってくると「うちは不幸な事故がありました。2度と繰り返してはいけないということで、ゾウやトラなどを移動するとき、必ず誰かが立ち会うことにしたんです」と事情を説明してくれた。

 1人が移動に関わる作業をし、もう1人は何もせずに後ろから見て、正しい行動がなされていることを確認する。坂本さんは「どんなに注意しても、ヒューマンエラー(人為ミス)は必ず起きるんです」と自らを戒めるように話した。

 2011年3月には福岡県の大牟田市動物園で25歳の男性飼育員がライオンに襲われた。閉め忘れた扉に鍵をかけようとした瞬間だった。西日本新聞によれば、同園もその後、獣舎の清掃などは必ず2人一組で作業することを徹底しているという。

 長野県小諸市動物園の事故は記憶に新しい。昨年2月、22歳の女性飼育員がメスのライオン「ナナ」に襲われ、重傷を負った。ナナは作家村上春樹さんの文章で、さびしくなると思い出すライオンとして紹介されたこともある。

 東京・上野動物園で女性飼育員がゴリラにかまれたのは今年3月。幸い命には別状はなかったが、関係者によると、けがはかなり重かったという。屋内飼育施設の扉1カ所が施錠されていなかったのが原因だった。

 小諸の事故では識者による検証委員会が組織され、日本動物園水族館協会の安全対策部長でもある坂本さんが委員長を務めた。検証委の報告書によれば、原因は「扉を閉め忘れたままライオンを屋外展示場に出したこと」。女性飼育員はナナの移動を1人で判断し、1人で作業していた。

 今回の平川動物公園の事故でも、現場にいたのは亡くなった飼育員1人だった。報道によれば、園長は「一部を除いて、どの動物も1人で担当する」と説明したという。

 事故の例を積み上げると、坂本さんの言う通り、多くに「ヒューマンエラー」が絡んでいることが分かる。人は仕事に慣れたとき、何かに心を奪われているとき、目の前の仕事への注意がおろそかになりやすい。別の視線によるダブルチェックは必須のように思える。

 だが、坂本さんも「2人体制を取るのは人的コストがすごくかかる」と認める。その方が良いと分かっていても、2人体制が標準にならない大きな理由だろう。

 運営する自治体の多くは財政難だ。関連施設は厳しいコスト削減を求められている。動物園も例外ではない。今まで1人体制で事故がなかったのだから、これからも起きないだろうという危うい期待の上に、経営が続けられている。

 現場から経営母体に「安全のコスト」を説明するためにも、市民の理解を得るためにも、そして犠牲や被害を無駄にしないためにも、事故が起きたときは徹底した検証を行い、それを公表することが求められる。小諸ではそれが行われた。

 最後に今回の“加害者”、ホワイトタイガーの「リク」が殺処分されなかったことに触れたい。

 小諸の事故のライオン、ナナも殺されなかった。検証報告書を出したとき、坂本さんは取材に応え「飼育員が被害者であると同時に、ヒューマンエラーで事故が起きたという点で、ナナも被害者といえる。ナナを殺処分にしなかったのは適切な判断だ」と述べた。

 もともと野生動物を自分たちの都合で連れてきたのは人間だ。その人間の過失や、人間の作った施設・設備の不具合によって、事故は起きる。動物に罪がないのは明白だ。「殺したら殺せ」という野蛮な報復は、動物に対しても許されるべきではない。