負い目 「妻にも明かせない」 出口なき問い カネミ油症次世代の今・2

©株式会社長崎新聞社

 カネミ油症2世で長崎県内在住の認定患者、永井達也(46)は、妻に「負い目」を感じている。20年ほど前、県外で知り合って結婚したが、今まで自分が油症だと伝えていないからだ。「伝えていれば、私とは結婚しなかったかもしれない」
 なぜ結婚前に言ってくれなかったの-。そんな妻の言葉が怖くて、今も明かせないままだ。
 子どもたちの健康への影響が一番の懸念だった。達也自身、出生時の肌の黒さは成長するにつれて消えた。吹き出物は元々なかった。だが、油症との因果関係ははっきりしないものの、倦怠(けんたい)感や鼻血などの症状は長年続く。自分が男とはいえ、症状がわが子に受け継がれないという保証は、どこにもなかった。それはかつて母久代(78)が抱えていた不安と同質のものだ。
 久代は新聞やテレビの取材に応じてきたが、名前や顔は決して明かしてこなかった。成長した子どもたちの夫や妻に知られるのが怖かったからだ。
 「なぜですかね。私たちは何も悪いことをしていないのに」。盆や正月などに家族が集まっても油症について話すことは一切ない。
 達也の心配を少し和らげたのは、先に結婚した兄や姉の子が無事に産まれてきたことだ。「確信とまでは言えないが、自分の子も大丈夫かなと思った」。2人の息子に恵まれ、現在は健康に育っている。
 達也は、10代後半になった長男には既に油症に関する新聞記事を見せ、自分が患者であることを明かした。次男にも、いずれ伝えようと考えている。それでも心は微妙に揺れ動く。「事件から50年たっているのに、あえて伝える意味がどれほどあるのか。自分のきょうだいや母だけ知っていれば十分なのかなという思いもある」
 昨年ごろから、徐々に患者団体の活動に参加し始めた。久代が所属する団体だが、高齢化に伴う会員減少で参加を促す声が掛かった。妻に隠し、国とカネミ倉庫(北九州市)との3者協議にも出席。状況を知りたいという思いもあり引き受けたが、団体は会費が集まらず、患者活動がほぼボランティアのようになっている現状には驚いた。
 「風化は仕方ない」。その思いは拭えない。一方、カネミ倉庫による医療費などの支払いが今後滞らないか、現実的な不安も頭をよぎる。達也らいわゆる「次世代」は、主に40代以下。あと数十年は医療補償を求めることになるが、今でさえ経営難を主張するカネミ倉庫が、果たして存続していけるのか。万一の時に国が被害者救済に動くとも思えない。
 「これからどうなるのか」。達也は出口の見えない問いを繰り返している。
=文中仮名、敬称略=

永井達也(仮名)はカネミ油症患者であることを妻に言えないままだ=長崎県内