【Brain Police Road to 50th Anniversary PANTA(頭脳警察)暴走対談LOFT編】白井良明(ムーンライダーズ)&大久保ノブオ(ポカスカジャン)(Rooftop2018年10月号)

替え歌は青空ボーイズの大きな特色の一つ

──どんな経緯で青空ボーイズを結成することになったんですか。

大久保:「金○で一緒にライブをやらない?」という話を良明さんからいただいたんです。良明さんとはEye Don't Noseというユニットで何度かご一緒させてもらったことがあって、その流れかなと思ったら、良明さんが「僕とパンちゃんとのんちん(大久保のこと)の3人で」と言うわけです。パンちゃんって誰だ!? と思ったら、それがまさかのPANTAさんで。どういう意図でこの顔ぶれになったのか、僕は逆に聞きたいですよ(笑)。

白井:意図はまったくありません。頭脳警察のライブ・ブッキングをしているグレイトフルの高橋(伸一)くんから「PANTAと一緒にライブをやったらいいんじゃない?」と言われたんだよね。パンちゃんが長野のCLUB JUNK BOXでライブをやるから、そこに一緒に出ないかって。

PANTA:ライブの話なんてしたことがなかったよね。良明と会っても互いの持病の話しかしないから(笑)。長野で共演したホブルディーズは良明がプロデュースしたことのあるグループで、それなら良明にも出てもらおうって話になったんだ。

白井:パンちゃんのことはものすごい昔から知ってたのに、意外にも一緒にライブをやったことが一度もなかったんだよね。

PANTA:あいだに(鈴木)慶一がいるから、それを飛び越えるわけにもいかないし(笑)。

白井:なんか悪いんじゃないかって言うか、あの人もわりと気にするタイプだから(笑)。

PANTA:それにしても、俺の「レーザー・ショック」(『唇にスパーク』収録)でギターを弾いていたのが良明だったとは驚いたね。

白井:実は僕もすっかり忘れてたんだけど(笑)。

──初代ビスタと2代目カムリのCMソングにもなったのに(笑)。

白井:伊藤銀次の番組に出た時、「この曲は俺がアレンジしたんだよ」と聴かせてくれたのがパンちゃんの「レーザー・ショック」でね。どうも自分のギターっぽいな…と思ったら、実際にそうだったという(笑)。

─長野と二子玉川でPANTAさんと良明さんが共演して、そこで両者とも手応えがあったのでバンド結成に至ったと。

PANTA:良明とのライブはすごく良かった。「銃をとれ」とかを一緒にやってもらったんだけど、音がちゃんと整理されていて、すごく格好良かった。誰かがツイートしていたけど、思想性が消えて音楽だけが残っている感じでね。純粋に楽曲として残るのが理想だからさ。

白井:楽しかったよね。一緒にライブをやることになって、パンちゃんが突然「『Mr. Tambourine Man』を日本語でやりたい」と言い出したり、「じゃあ『恋のバカンス』はどう?」とかやり取りがあってね。あと、パンちゃんがロシアに行ったから「Back in the U.S.S.R.」の替え歌をやりたいとか。ああ、そういう発想があるかと思ったね。替え歌は青空ボーイズの大きな特色の一つかもしれない。それと、キーワードとしては“青空”ね。ムーンライダーズは青空っぽいところがあるけど、頭脳警察にはそのイメージが一切ないから(笑)。

大久保:同じ青空でも、塀の中から仰ぐ青空みたいな(笑)。

PANTA:格子戸から見える青空ね。青空ボーイズとか言いながら、俺が囚人服を着るのもいいかな? と思ったんだけど(笑)。

白井:この取材の前に近くの公園でアー写撮影をしたんだけど、僕は雨が降ればいいと思ってたんだよ。3人とも傘をさしてさ。青空ボーイズなのに雨空っていう。そういう両方の面を持ってるバンドだと思うから。

──PANTAさんと良明さんの付き合いは、かれこれ40年くらいになりますか。

白井:それくらいになるのかな。昔、アイドルの曲を演奏するスタジオ・ミュージシャンとしてスタジオに行くと、作曲家のクレジットでパンちゃんの名前をよく見かけたんだよね。パンちゃんがアイドルに提供する曲はどれもかわいいメロディで、よく聴くと声もかわいいんだよ。普段は声を張り上げているけど、普通に唄う時の声はかわいい。

PANTA:こう見えてアイドル出身だから(笑)。

白井:そうだったのか(笑)。でも、パンちゃんのそういうポップな側面で一緒にバンドをやれたらなと思ってね。そこに誰が必要かということになれば、ステージ上でも振り幅の大きい、その場の環境に応じた喋りをしてくれるこちらの座長、のんちんしかいないと思ったわけ。

大久保:替え歌が本業みたいなものですからね(笑)。

PANTA:良明がリーダー、のんちんが座長なら、俺は……。

白井:酋長(笑)。オブジェみたいなものだよ。

PANTA:オブジェ? モアイ像じゃないんだから(笑)。

PANTAはロック・スターと言うよりポップ・スター

──PANTAさんと大久保さんの接点は?

PANTA:ポカスカジャンは昔から大好きでね。いつもライブに行かせてもらってた。

大久保:僕はもちろんPANTAさんのことが一方的に好きでしたけど、フジロックで僕らのステージを観てくださったみたいで、その話を聞いた時はすごく嬉しかったですね。ある時、新宿のゴールデン街を歩いていたら、向こうから慶一さんとPANTAさんがやって来たことがあって。慶一さんとは面識があったんですけど、PANTAさんとは初対面で。慶一さんに挨拶した後にPANTAさんにどう挨拶すれば失礼じゃないのかとか、瞬時に考えましたね。ここはやっぱり直立不動かな? とか(笑)。そしたら、PANTAさんのほうから「あ、ポカスカジャンの人だ!」と言ってくださったんです。「フジロックで観て、すごく好きなんだよ」って。僕らは北朝鮮やドラッグとかのネタをやってますし、頭脳警察のポリシーやDNAをお笑い界に注入してるつもりなんです(笑)。

──大久保さんはもともとブルドッグという本格的なロック・バンドをやっていたんですよね。

大久保:そうなんです。新宿ロフトや渋谷のラ・ママにも出させてもらったし、中野サンプラザで行なわれたイーストウエストの決勝大会にも進出したんですよ。その時の審査員の一人が良明さんだったんです。

白井:僕の他に相倉久人さんとかもいてね。

大久保:ライブはけっこう盛り上がったんですけど、結果は落選だったんです。あとで審査員の寸評を読んだら、「日本人がミック・ジャガーの真似をしても格好悪い」と良明さんが僕らにコメントしていて(笑)。

白井:やっぱり思ったことは口にするべきだね。だって今やポカスカジャンは国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞してるんだから。

大久保:そのままバンドを続けていてもこのお2人のようにプロになれる力はなかっただろうし、その後にワハハ本舗の舞台を観てバンドをやめたことを考えると、良明さんは僕をお笑いの道に進ませてくれた恩人でもあるんですよ。寸評を読んだ時は頭にきましたけどね(笑)。

──この鼎談ではPANTAさんのポップな側面にスポットを当てるのがテーマなんですが、良明さんはPANTAさんのポップな資質を早くから見抜いていたとか。

白井:昔、日比谷の野音でムーンライダーズやRCサクセション、エンケン(遠藤賢司)なんかが出るイベントがあって、トリでPANTA & HALが出たんだよ(1979年9月9日に行なわれた『Over The Wave』)。その時のパンちゃんをステージ袖で観て、これはロック・スターと言うよりもむしろポップ・スターだなと思ってね。当時からそう感じていたから、パンちゃんのポップな面をこの青空ボーイズで引き出したい。あと、パンちゃんは「くれない埠頭」というムーンライダーズでも屈指のバラードを唄ってくれてるんだけど、ヘンな話、ムーンライダーズよりもいいんだよね(笑)。

PANTA:それは俺も自負してる(笑)。

白井:「『くれない埠頭』は俺の歌だ」って言ってるもんね(笑)。

大久保:僕らも呼んでもらった、野音でやったムーンライダーズの結成30周年記念ライブでPANTAさんが唄ってましたよね。

白井:そう。2006年の4月だったかな。

PANTA:あの時は俺、千住劇場で半月のあいだ三田佳子が主演の舞台(唐十郎・作の『秘密の花園』)に出てたんだよ。ムーンライダーズの野音はその舞台の千秋楽で、ライブのリハには出られなかったんだけど、芝居の厳しい世界から解放されたのがもうたまらなく嬉しくてさ。野音ではずっとニコニコしてたよ(笑)。

──PANTAさんにとってこの青空ボーイズは、普段やれない音楽をやれる息抜きの場でもあるんですか。

PANTA:純粋に楽しいし、この組み合わせならいろんなことができるよねと3人で話してる。のんちんはローリング・ストーンズやサム・クックが好きだし、それは俺との共通項でもあるし。

白井:頭脳警察、ムーンライダーズ、ポカスカジャンじゃできないことをやる。それがこのバンドのテーマだね。今は自分たちの青春ソングにフォーカスを当ててるんだけど、すごく楽しい。一応、僕たちが若い頃の音楽を次世代に伝えていこうというねらいもある。

大久保:僕の場合、青春ソングと言えば頭脳警察やムーンライダーズだったりするので、お2人のやってきた音楽を次世代に伝えたい気持ちもあります。

白井:青春ソングも今はちょっと洋楽にシフトしてるんだよね。

PANTA:この3人はいろんな方向に話が飛ぶんだよ。のんちんがガリガリ君のCMソングを唄ってるから、懐かしのCMソングもやってみようとかね。ガリガリ君に引っかけてリガニーズの曲はどうだろう? とか(笑)。

実はすごく幅広い頭脳警察の音楽性

──こういうバンドをやれること自体、PANTAさんにポップな資質があることの何よりの証明でもありますよね。

白井:そうだね。パンちゃんは軽妙洒脱だから。

PANTA:昔はパブリックイメージを壊しちゃいけないと思って自粛していたんだけど、今や吉田豪にツイッターでいろんなことを暴露されたりして(笑)、もう素の自分を出してもいいのかなと思ってね。

白井:パンちゃんも僕もイカ天で審査員をやったことがあって、その時にパンちゃんが「俺が笑うとスタッフに怒られるんだよ」なんて言ってて、アイドルみたいでかわいそうだなと思ったな。

大久保:食事をご一緒して、最後にみんなで写真を撮ろうって時のPANTAさんは自然とキリッとした顔になりますよね。

白井:そういうクセがついてるんだろうね。

大久保:PANTAさんにはそうあってほしいのもありますけどね、僕ら的には。

白井:ディランが『Nashville Skyline』で急に明るくなったじゃない? ああいう感じを青空ボーイズでやれたらいいなと思うんだよね。

──今日の撮影も『Nashville Skyline』のジャケット写真がイメージとしてあったそうですね。

白井:そうそう。ローアングルで青空をバックに3人が挨拶しているような感じ。

PANTA:俺の今日のテーマはウィリー・ネルソンでね。カウボーイハットを被って、この撮影のためにわざわざネルシャツを買ってさ。さすがに三つ編みにはしなかったけど(笑)。俺が懸念してるのは、こんなことをやってるといつかポカスカジャンとの境界線がなくなっちゃうんじゃないかってことなんだけどね(笑)。

大久保:本物のボーイズ芸をやるようになっちゃって(笑)。

白井:でもバンド名に“ボーイズ”を入れたのは、のんちんがやってることの一部を取り入れたい思いがあったからなんだよ。

PANTA:そうだよね。良明はバンド名を一生懸命考えてたから。

大久保:良明さんとやらせてもらう時は、ステージ上でも「何を言ってるんですか!」とかいろいろツッコミを入れるんですよ。だけどPANTAさんに対しては、その壁を超える自信が今のところないですね(笑)。だから良明さんには容赦なくツッコミを入れて、「でもPANTAさんは大丈夫です!」みたいな感じで持っていくのが面白いのかもしれない。

白井:なるほど。「なんでパンちゃんばかり立てるんだよ!?」みたいなね。

PANTA:そうなると、また笑っちゃいけないキャラになりそうだな(笑)。

──大久保さんは、リスナーとして頭脳警察のどんな部分にグッときていましたか。

大久保:自分が大学生だった頃は「銃をとれ」みたいに過激な歌を求めてましたよね。ただ今になってみると、たとえばこのあいだ出たライブ盤(『BRAIN POLICE RELAY POINT 2018』)を聴いても、実はすごく幅広い音楽性だったことに気づくんですよ。「いとこの結婚式」はもうちょっと突っ込めばコミックソングに持っていけると思うし(笑)。

PANTA:あの曲はコミックソングにできるよね? ぜひやってよ。

大久保:歌詞を変えて、「いとこの結婚式 2018」みたいなことにして(笑)。

PANTA:「はとこの結婚式」に変えてもいいから(笑)。

──良明さんは当時、頭脳警察というバンドをどう捉えていたんですか。

白井:僕はその当時、フォークの世界にいたわけ。斉藤哲夫、エンケン、加川良、高田渡……その辺と一緒に全国を回ってたから。なので頭脳警察とは流派が違って、ムーンライダーズに入って初めてロックの世界に染まったんだよ。ただその頃のパンちゃんはすでにソロを始めていたんだよね。PANTA & HALのスタジオを見学したことがあるんだけど、ものすごく微妙な空気だったのは覚えてる(笑)。

──慶一さんがプロデュースした『マラッカ』や『1980X』を良明さんがどう聴いていたのか、興味があるのですが。

白井:すごく面白い組み合わせだと思った。ガッツのある唄い手であるパンちゃんと、名うてのプロデューサーと謳われた慶一さんが合体して、すごい化学反応が生まれたんじゃないかな。

PANTA:当時、俺が慶一に会いに行ってた頃、良明はカル・デ・サック(神宮前にあったカフェ&バー)にはいたの?

白井:けっこう入り浸ってたよ。

PANTA:良明は慶一との付き合いが以前からあったものだと思ってたし、ロックの世界にどっぷり浸かっていたと思っていたので、ずっとフォークをやっていたと聞いてすごく意外だったんだよね。

白井:僕は最初にフォークだったけど、その後はジャズだったんだよ。辛島文雄さんや水橋孝さん、渡辺香津美さんといった人たちのまわりでウロウロしてたんだけど、ある日突然、岡田(徹)くんから電話がかかってきて、「椎名(和夫)くんがムーンライダーズをやめるのでやってくれないか?」と言われたんだよ。

大久保:それは知らなかったですね。良明さんはずっとニュー・ウェイブの人だとばかり思ってました。

数値化できない、自分の感性を重視した曲作り

PANTA:頭脳警察に「だからオレは笑ってる」という未発表曲があるんだけど、本当は「暗闇の人生」と同じように4ビートでやりたかったんだよ。良明とライブをやることになって「だからオレは笑ってる」をやろうと思って、「4ビートいける?」と訊いたら難なくやれるわけ。聞けばロックをやる前はジャズをやってたって言うから驚いてさ。

白井:僕の中ではジャズもロックもフォークも全部一緒で、特に区別もしてないし、それらが混ざったような演奏しかできないんだよ。でもエンケンだってフォークだったけど、当時からすごくロックっぽかったしね。

PANTA:カントリーも通ってるんでしょ?

白井:通ってる。高田渡にだいぶ鍛えられたから(笑)。

──GO-BANG'Sの「あいにきてI・NEED・YOU!」が最たる例だと思うのですが、良明さんがプロデュースを手がけると、もともとポップな楽曲がそれまで以上にポップになりますよね。そのポップ・ミュージック請負人みたいな部分がPANTAさんの波長と合うのかなと思うんです。

白井:僕は下町育ちなので、賑やかじゃないとイヤなんだよ。祭りの精神がいつも頭にあるんだね。人が寂しがってるのを見るのがイヤだし、みんなが喜んでるほうがいい。

PANTA:今年の2月に良明が浅草公会堂でやったライブ(『白井良明 40th&45th記念 “良明Wアニヴァーサリー〆升” 〜隅田川・打ち出でて見れば半世紀-5〜』)でも、いきなり木遣り歌で入ってきたもんね。

白井:あれはああいう場所柄ね。自分の地元ということで、法被を着て、浅草木遣りの親方衆と登場してみた。

大久保:カーネーションが野音で結成35周年記念ライブをやった時も、他のゲストの方は普通に唄うだけだったのに、良明さんだけは「御手を拝借!」と手締めをしてましたもんね。あれがすごく良かったんですよ。

白井:三三七拍子ね。ああいうのが自然と出ちゃうんだよ。

PANTA:俺は所沢出身だけど、お婆ちゃんがそのむかし向島で働いていて、関東大震災をきっかけに所沢へ帰ってきたという話を聞いたことがあるんだよ。だけど下町の気質というものが俺はまだよくわかってない。向島出身の良明とは楽しく付き合えているけどね。

白井:のんちんはワハハ本舗の座長として、先輩と後輩のあいだをちゃんとつないでるじゃない? トラブルを収めたり、その場に適応するスポンジ力みたいなものがあるよね。

大久保:僕は長野県民に多い、バランスを取るタイプなんですよ。それが全然苦じゃないし、「俺が俺が」ではないバランサーなんですね。同じ長野出身の峰竜太さんともよくそんな話になるんです。

白井:それはリーダーとして大切な要素の一つだと思うよ。スポンジ力がないと物事を掌握できないからね。

PANTA:それでいくと、埼玉に突出した県民性はないのかもしれないな。所沢はベッドタウンだし、働くのは都内が多いしね。ただ、ベッドタウンだから団地が多いわけ。『万引き家族』の是枝(裕和)監督も清瀬の団地にずっと住んでいて、彼の映画は団地ネタと言うか長屋ネタが多いんだよ。つまり落語の世界なんだ。長屋に住む人たちは実に多彩で、ご隠居がいて、面倒見のいい徳さんや源さんがいて、うっかりものの喜六やしっかりものの清八がいる。そういうご近所同士の交流が笑いを生む。是枝監督の映画はまさにその世界だね。法が介入できない世界を情で絡め取って、それが法によってバラバラにされていくというパターンが是枝監督の映画にはあって、落語の長屋ネタが根底にあるんだよ。それがカンヌに通じたんだからすごいね。

──ところで、杏里さんの「白いヨット」や桑江知子さんの「カヌーボーイ」然り、堀ちえみさんの「幼な馴染み」然り、PANTAさんの提供楽曲はご自身の楽曲以上にポップであることが多いですよね。

白井:とてもわかりやすいメロディなんだよね。石川セリの「ムーンライト・サーファー」もすごく覚えやすいし、ああいう曲を書けるのはすごい才能だと思う。要するにパンちゃんはプロっぽい曲を作るのではなく、自分の感じたことや思ったことを飾らずそのまま曲にする人なんだよ。それはずっと一貫してるよね。

PANTA:そうだね。このあいだ芸人の永野くんと話したんだけど、彼が言うには今やお笑いも形式化してきて、一定のセオリーにのっとらないとウケないらしい。それと同じように、音楽のほうもアレンジャーやプロデューサーがどんどん形式化して作業を進める時代になったね。こういうアレンジにすればヒットするとか、ヒット曲を生み出す仕組みが決まりきってしまって、音楽が数値化されつつある。俺は昔からそういう曲作りをしたくなかったし、自分の感性を最も重視してきたんだよ。

白井:それが何より大事だし、還暦を過ぎたら特にそんな感じでいいんだと思うよ。

PANTA:たとえばミーナの「砂に消えた涙」はサビの部分が間奏になってるよね。それでメロディで終わるというだいぶ変わったアレンジなのに、名曲中の名曲として聴き継がれている。それは数値化されていない曲だからだと俺は思う。ある曲がヒットして、業界の中でそれに倣うように「この曲はサビ出しね」とか「演奏はツーハーフね」みたいな感じで形式化すると、そうじゃねぇだろ! と思うよね。

目指すは新しい時代の音楽と笑いの融合

大久保:僕がリスナーだった時代の音楽って、ボーカルの一本背負い力がすごかったと思うんですよ。アレンジやプロデュースも大事なんだけど、それ以上に唄い手の人間力で音楽が成立する時代だったし、そういう音楽が僕は好きでした。それは決して数値化できないもので、ボーカルの存在感が今よりも際立っていたと思うんです。PANTAさんはその時代の最たるボーカリストですよね。

白井:そのポジションにずっといてほしい人だよね。オブジェとして(笑)。

大久保:このあいだPANTAさんが僕のソロ・ライブに来てくださって、ワハハ本舗の社長の喰始にPANTAさんを紹介したんですよ。「PANTAさんです」と引き合わせた途端、あのクセのある喰始でさえピタッと動きが止まりましたからね(笑)。

白井:怒られると思ったんじゃないなの?(笑) でもパンちゃんにはそうやってドッシリと構えていてほしいな。

PANTA:でも俺、実際のところは軽いんだよなぁ……(笑)。

白井:いいんだよ。軽くないと一緒にバンドをやれないもん。だけどまわりが軽いイメージを望んでないんだろうね。

大久保:PANTAさんの軽さを出すか出さないかで、このバンドの方向性が変わってくるでしょうね。

PANTA:ユーモアのセンスを忘れたくないよね。スネークマンショーという金字塔を筆頭に、『内容の無い音楽会』というパロディの傑作を生んだ生福、KERAと慶一がプロデュースしたヤマアラシとその他の変種といった、笑いと音楽を融合させた名ユニットがこれまでにもいたし、桑田佳祐も『音楽寅さん』という番組で笑いを取り入れて面白いことをやっていたけど、それらに対抗できるものを作りたくてしょうがないんだよ。新しい時代の音楽と笑いをミックスさせた作品を作りたい。

大久保:普段のPANTAさんはよく笑う方だし、笑いやユーモアに貪欲なんですよね。それがポップさにもつながっていると思うんです。誰に対しても壁を作らないし、僕みたいな若造の芸人にも気さくに話しかけてくれるし。

白井:境界が柔らかいんだよね。だからポカスカジャンのやってることを楽しめたり、青空ボーイズみたいなこともできる。

──音楽と笑いを融合させることに面白さを見いだすセンスは、たとえばハナ肇とクレージーキャッツからの影響もありますか。

PANTA:あると思う。あと、『フライングハイ』とかアメリカのコメディ映画も大好きだしね。

白井:クレージーキャッツが影響を受けたスパイク・ジョーンズみたいな冗談音楽は?

PANTA:それは通ってない。でもクレージーキャッツは好きだったし、植木等はすごい人だったね。

白井:僕も植木等命でね。ビートルズ、ストーンズと並んで植木等と加山雄三は青春時代のスターだった。植木等自身に人を笑わせようとする意識はあまりなくて、その存在自体が面白かったね。何なんだろうね、あの隙間みたいな部分が面白かったのかな。

大久保:植木さんの実像は無責任男の対極で、真面目で堅物だったそうですからね。

──もともと僧侶の息子でしたしね。

PANTA:のんちんはクレージーキャッツの笑いをどう捉えているの?

大久保:僕もコミックバンドをやってる人間として大好きですけど、あのセンスは奇跡でしかないと言うか。音楽と笑いのセンスを持った人たちが偶然に集まった奇跡としか思えませんね。それと、ブレーンもすごかったじゃないですか。青島幸男さんや塚田茂さんといった放送作家、プロデューサーの方々がコントを作って、業界全体がバックアップする集大成みたいなところがあった。今の芸人は自分たちでネタを作って、何から何まで自分たちでやらなくちゃいけないけど、昔は周囲のスタッフも一丸となってスターを生み出してましたよね。

白井:大きな船をみんなで作る感じと言うか、才能のあるブレーンが才能のある集団のもとへ一気に集まってきたよね。ビートルズはその最たる例で、マネージャーのブライアン・エプスタインやプロデューサーのジョージ・マーティンとか傑出した才能が集まってきた。

PANTA:クレージーキャッツに関して言うと、演奏の上手いバンドがわざとふざけたことをやるから腹を抱えて笑えたんだよね。その系譜はビジーフォーまで続いたと思うんだけど、音楽ネタは基本的に演奏力がしっかりしていないと笑えないんだよ。

白井:谷啓なんてディキシーランド・ジャズの大家だからね。…じゃあやっぱり、僕らはコミックバンドに向いてるよ(笑)。

PANTA:喋りばかりでちっとも演奏しない可能性もあるけどね(笑)。

由緒正しきボーイズ芸の末裔!?

大久保:ボーイズ芸という楽器を使った形態の笑いは、もともと喋くり専門だった人たちが喋りだけじゃ物足りないから楽器を持ったのが始まりなんです。あきれたぼういずも最初は楽器を持ってなかったんですよ。

PANTA:ああ、そうなんだ?

大久保:ボーイズ芸は一応楽器を持ってるけど、誰かが唄おうとするのを邪魔して突っ込んだりする喋りがメインで、クレージーキャッツみたいにしっかり演奏するコミックバンドとは基本的に違うんですよね。

白井:僕らはどっちなんだろう?

大久保:どっちもやれますね(笑)。ポカスカジャンもボーイズ芸みたいに「今日も元気にポカスカジャン♪」とかやってますけど、中身はコミックバンドの形態なので。

──青空ボーイズはボーイズバラエティ協会に所属するような、由緒正しきボーイズ芸の末裔ということになりますか?(笑)

大久保:リーダーの良明さんが下町出身ですからね。いま東京のボーイズ・グループは、モダンカンカン、玉川カルテット、東京ボーイズ、バラクーダ、アンクルベイビーしかいないので、それに続く期待の新星として注目を浴びたりして(笑)。

PANTA:あと、浪曲漫才の宮川左近ショーを模した柳町はるさめショーっていうバンドが徳島にいたんだけど、これがすごかったんだよ。ファンキーなリズムにのせて「ダッチョ・ファンク」っていうのをやるんだから(笑)。ああいうのもできるんじゃないかな。

──ライブは継続的にやっていく予定なんですか。

白井:今の段階で決まっているのは金○と横○だけなんだけど、金○で第1期の終了にして、次から第2期に突入ってことにしようかなと。

大久保:それじゃ初日がいきなり楽日じゃないですか(笑)。

──まだステージを拝見していないので何とも言えませんが、洋楽のカバーを無邪気にやるという意味では忌野清志郎さんがやっていたタイマーズみたいなニュアンスもありそうですね。

白井:今こういう感じで喋ってるのとあまり変わらないと思うよ。あとは各人が楽器を持つってだけで。

PANTA:ただ、良明とリハに入るたびに曲が増えてるからね。これでのんちんが入ったら……。

白井:R&Bの世界が注入されることになるね。

PANTA:のんちんはモータウンも大好きだし、通ずるものがあるから。

──社会風刺みたいな歌を披露する予定は?

大久保:PANTAさんがメンバーなら、そういう曲の期待感はありますよね。

白井:いま出来てる曲でそういうのもあるし、その匂いの曲もあったほうが自然でいいと思ってる。

PANTA:何でもやれるよね。コントのネタがあるなら喜んで絡ませてもらいたいしさ。俺は最近、役者もやってるから。

──世界のマーティン・スコセッシが認めた役者ですしね(笑)。

白井:役者と座長がいれば何でもできるね。ネタは無尽蔵にあるし、今後はメンバーが増殖することもあるかもしれない。ワハハ本舗の役者さんたちと一緒にやれることもあるだろうし、いろんな人たちを巻き込んで作品にできたらいいね。トラヴェリング・ウィルベリーズがやってたことの3倍はできることがあるんじゃないかな。

PANTA:俺が青空ボーイズの影響を受けすぎて、頭脳警察のライブが喋りメインになったりしてね。まぁ、その時はその時だな(笑)。

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