マツダ CX-5(2018年改良モデル)プロトタイプ試乗|ガソリンターボを追加したほか、走行安定性もアップ

マツダ CX-5 グレード:25T L Package

頻繁な改修で魅力アップするCX-5、さらに進化

今のマツダ車は頻繁に改良を実施する。OEMを除いたすべての車種にスカイアクティブ技術と魂動デザインが採用されるため、ひとつの車種に新しいメカニズムや制御を搭載すると、ほかの車種にも水平展開できるからだ。開発者は「手間が掛かって大変」と口をそろえるが、ユーザーにとっては常に最新版のマツダ車を購入することができる。

マツダが「スカイアクティブ技術+魂動デザイン」の第1弾として、初代(先代)CX-5を発売したのは2012年であった。この前後でマツダの国内販売台数を比べると、2010年が22万3861台、2017年は20万9960台だ。ミニバンや背の高いコンパクトカーを廃止した影響もあり、マツダ車の売れ行きは、未だに旧世代の台数に追い付いていない。販売台数がすべてではないが、マツダ車にはさらなるテコ入れが必要で、新しいメカニズムや制御を積極的に取り込むことが求められる。

この中でも改良を頻繁に行うのがマツダの主力車種であるCX-5だ。2018年10月11日にも改良を施した。この内容を見る前に、現行CX-5の足跡を簡単に紹介したい。

現行CX-5改良の足跡

・2017年2月2日:現行CX-5を発売

・2017年8月3日:各種の安全装備を全車に標準装着

・2018年2月8日:ディーゼル&ガソリンエンジンを改良して内装の質感も向上

・2018年10月11日:2.5リッターのターボエンジン、ディーゼルの6速MT、Gベクタリングコントロールプラスなどを搭載

CX-5は上記のように6~8ヶ月ごとに改良を繰り返している。

改良するのはユーザーにとって良いことだが、販売店からは「納車直後に手を加えられたお客様からは、文句が出ることもある」という声が聞かれる。できれば改良をスケジュール化して「CX-5は毎年10月に何かを変える」という具合にすると親切だ。それが無理なら、販売店には、せめて概要だけでも早めに伝えて欲しい。さすがに改良を1年に2回行うと、顧客や販売店へ従来とは違う対応が必要になる。

新たに直4 2.5リッターガソリンターボを搭載

マツダ CX-5 グレード:XD Excluslve Mode

今回のCX-5の改良で最も注目されるのは、直列4気筒2.5リッターのガソリンターボエンジンを搭載したことだ。従来からターボを装着しない2リッターと2.5リッターのガソリン、2.2リッターのクリーンディーゼルターボを用意したから、エンジンは4種類になった。

そこで2.5リッターガソリンターボを搭載する25T エクスクルーシブモード(4WD)を試乗した。なお今回の取材は、閉鎖されたコースでプロトタイプを使って行われた。

2.5リッターガソリンターボエンジンの特徴は、低回転域と実用回転域の駆動力が高いことだ。6速ATに採用されたトルクコンバーターの作用もあり、発進直後に1400回転くらいでアクセルペダルを軽く踏んでも、速度を着実に高めていく。ターボにありがちな低回転域の落ち込みが小さい。

そうなれば実用回転域の駆動力も高く、アクセル操作に対する反応も正確だから、V型6気筒4リッターエンジンを搭載するような感覚で運転できた。

このエンジンにはダイナミックプレッシャーターボが使われ、排気系統に可変バルブを装着して、低回転域でも排出ガスの流速を保つ。これによりターボを効率良く作動させ、吸気行程で排出ガスを完全に掃気させる効果もある。

ただし運転して面白いエンジンではない。アクセルペダルを深く踏み込んでも、シフトアップは5000~5500回転で行われる。2.5リッターターボエンジンの動力性能は、最高出力が230馬力(4250回転)、最大トルクは42.8kg-m(2000回転)だ。

ちなみに2.2リッターのクリーンディーゼルターボは、190馬力(4500回転)・45.9kg-m(2000回転)だから、数値的にはガソリンとディーゼルが似ている。実際に運転すれば、ガソリンターボは吹け上がりが滑らかで、ディーゼルターボの高いトルクによって押し切る性格とは違うが、ハイパワーで官能的という印象ではない。5000回転を上限に、4リッター並みのトルクが得られる実用型だ。

北米向きの2.5リッターガソリンターボを日本に導入した背景とは

その理由は、2.5リッターガソリンターボが主に北米向けに開発され、CX-8の母体にもなったCX-9やマツダ6(アテンザ)に搭載されるからだ。日本にはクリーンディーゼルターボもあるから、ガソリンターボとなれば、初代アテンザに設定されたマツダスピードアテンザなどを連想する。これは最高出力が272馬力、最大トルクは38.7kg-mの2.3リッターガソリンターボを搭載したが、実際はそうなっていない。

そこで開発者に日本にガソリンターボを導入した理由を尋ねると「ガソリンは好きだけどディーゼルは嫌い」なユーザーが少なからずいるという。確かにディーゼルは実用トルク型の典型で、重量も増えるから好みが分かれる。高出力のガソリンを選びたい気持ちも分かるが、エンジン特性が前述のとおりだから、購入するなら入念に試乗したい。

むしろターボを装着しない2.5リッターのガソリン、2.2リッターのクリーンディーゼルターボが優れたエンジンに育ってきた。特に今回ほかにも試乗したクリーンディーゼルターボと6速MTの組み合わせは印象が良い。6速MTはシフトストローク(シフトレバーを前後左右に動かす範囲)が適度で、操作しやすい。ペダル配置もちょうど良く、シフトダウン時のヒール&トゥも行いやすい。

ヒール&トゥがしやすい背景には、エンジンの吹き上がりもある。ディーゼルなのに5000回転近くまで回るから、ディーゼルらしい実用トルクと回す楽しさを両立できた。

Gベクタリングコントロールプラスを採用、カーブ時の安定性アップ

マツダ CX-5 グレード:25T L Package
マツダ CX-5 グレード:XD L Package(MT車)

2つ目の新技術として「Gベクタリングコントロールプラス」も採用されている。従来から設定のあったGベクタリングコントロールの発展型と考えれば良い。

従来のGベクタリングコントロールは、カーブへの進入などでハンドルを回し始めた時に、エンジン出力を少し絞る機能だ。減速のコントロールは、0.01Gレベル(信号などでの減速が0.1G前後)で微妙かつ迅速に行われ、前輪の荷重を増やすことで滑らかな旋回を行う。

これがGベクタリングコントロールプラスになると、カーブをほぼ曲がり終えてハンドルを戻す時に、カーブの外側に位置する前輪にブレーキを作動させる。前述のGベクタリングコントロールは、エンジン出力の調節だからアクセルペダルを閉じた時には効果を発揮しないが、Gベクタリングコントロールプラスはブレーキ制御だから作動範囲が広い。

このメリットは安定性の向上だ。カーブの内側に位置する前輪を制動すると、車両はさらに内側を向こうとするが、Gベクタリングコントロールプラスは外側だから後輪の接地性を高めて直進性を向上させる。直進に戻る時の若干あおられるような動きが抑えられ、左右方向だけでなく前後方向の揺れも小さくなる。

また車両がハンドルを切り込むタイミングを予知することは無理だが、戻しは予測できる(ハンドルを回した状態で延々と走り続けることはない)。そこで戻す時ならブレーキ増圧のスタンバイも可能で、作動タイミングも素早い。

これは危険回避を目的にした車線変更などにおける横滑り防止装置の効果をさらに高める。横滑り防止装置は、主に後輪の外側への滑りを防ぐアンチスピン効果が高く、車線変更終了時に後輪が外側へ滑り始めた時などにも作動する(旋回外側の前輪を中心に制動する)。

そこがGベクタリングコントロールプラスでは、この前段階から介入するため、車線変更終了時における後輪の横滑り量が予め抑えられ、横滑り防止装置が働いても度合いは弱い。

機敏さと安定感を両立するハンドリングに好感度大

マツダ CX-5 グレード:25T L Package

今回の改良では、スタビライザー(ボディの傾き方を制御する棒状のパーツ)など足まわりの設定も変更され、低い速度域では操舵感が少し機敏になり、高い領域では安定性を向上するように改めた。この変更とGベクタリングコントロールプラスの併用で、走行安定性が際立って良くなった。

特に従来型の場合、2.5リッターガソリンエンジン搭載車を中心に、カーブを曲がる時の後輪の接地不足があった。今のマツダ車らしい前側を少し下げた挙動で車両がしっかり内側を向く曲がりやすさと、柔軟な乗り心地を両立させた結果、安定性に皺寄せがきた。そこを足まわりの変更とGベクタリングコントロールプラスの相乗効果で解消させている。

改良後の仕様を運転すると、従来と同様に比較的良く曲がり(高速域では若干曲がり方がマイルドになったが)、この時はボディが相応に傾くが、後輪は良く踏ん張る。ハンドルを切り込みながらアクセルペダルを戻す操作をしても、以前のように後輪の接地がスルッと抜ける印象はなく、粘りながら滑る感じだ。安定性を確保しつつ、後輪の踏ん張り感だけ確保して曲がりにくい性格でもないから、安全に運転の楽しさを味わえる。

表現を変えると、CX-5の機敏な印象を残しながら、安定性はCX-8に近づけた。その結果、CX-5とCX-8の間に共通性が生まれ、マツダ車の個性が際立っている。

安全装備も充実したが、あと一歩な点も

マツダ CX-5 グレード:XD Excluslve Mode

今回の改良では装備も充実した。単眼カメラを使った緊急自動ブレーキのアドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポートは、夜間でも歩行者の検知が可能になった。自転車は昼間でも検知できないから、機能をさらに高めて欲しい。

マツダコネクトは、アップル・カープレイ、アンドロイド・オートにも対応した。ノーマルスピーカーを4個から6個にするなど上級化も図っている。

試乗した特別仕様車のエクスクルーシブ・モードも用意した。上級のCX-8のような本杢の装飾パネル、ナッパレザーのシート、前席の両側に熱気を排出するベンチレーション機能などを備える。

なお各エンジンのWLTCモード燃費を2WDの6速AT仕様で見ると、ガソリンの2リッターが14.6km/L、2.5リッターが13.8km/L、2.5リッターガソリンターボが12.6km/Lになる。2.2リッタークリーンディーゼルターボは17.4km/Lだ。

2.5リッターターボの最大トルクは、2.5リッター自然吸気の167%に達するが、燃費数値は91%だから、高性能な割に燃費の悪化は小さい。

しかしそれ以上にディーゼルは燃料消費量が少なく、税額の違いから軽油価格はガソリンよりも安い(軽油の本体価格はガソリンよりも高い)。従ってディーゼルは高効率だ。

気になる新型CX-5の価格と各グレードの特徴

マツダ CX-5 グレード:25T L Package

価格は2WDの6速ATの場合、2.5リッターガソリンの25S・Lパッケージが301万8600円、2.5リッターターボの25T・Lパッケージが332万6400円、2.2リッタークリーンディーゼルターボのXD・Lパッケージが333万1800円となる。スマートブレーキサポート&レーダークルーズコントロールの標準装着などを補正すれば、価格は改良前とほぼ同じだ。

2.5リッターのガソリンとガソリンターボは装備が同等で、価格は後者が30万7800円高い。ディーゼルはガソリンターボとほぼ同額だ。動力性能と燃費の違いを考えると、ガソリンターボに比べてディーゼルターボの方が価値が高い。従って価格が同等ならディーゼルが買い得だが、条件をそろえて選びやすくする方法もあるだろう。

ガソリンの2リッターはパワー不足だが、2.5リッターならば、自然な吹き上がりと軽いボディによって運転感覚も軽快だ。前述のように走行安定性の不満も解消され、市街地や峠道を中心に走るユーザーに適する。

クリーンディーゼルターボは実用回転域の駆動力が高く、燃費性能も優れているから、長距離を頻繁に移動して走行距離の伸びるユーザーにピッタリだ。

ガソリンターボは中間的な存在になる。ガソリンエンジンの自然な回転感覚は、峠道から高速道路までさまざまな使用条件に適する。

ただし現状のガソリンターボは、スポーティな印象に欠けて少し中途半端だ。アクセルペダルを素早く踏み込んだ時の反応は良いが、ノイズが耳障りに感じる。ガソリンターボは価格が少し割高で燃費は特に良くないから、エンジン回転と変速の滑らかさ、静かさを徹底的に磨き上げたい。いわばプレミアムなエンジンに仕上げ、今は設定のない18インチタイヤを設けて走行安定性と乗り心地のバランスも入念に図り、エクスクルーシブモードのような上質な内装を与えると良いだろう。

さらにいえば、CX-8のLパッケージに採用される2列目セパレートシートとアームレスト付きコンソールボックスを選べるようにする手もある。4人乗りになるが、快適な高級ミドルサイズSUVに仕上がる。

今のマツダはスポーツ路線を突き進むが、そろそろ別の世界観も表現したい。それは明るい雰囲気を備えた上品なミドルサイズカーが良いだろう。2.5リッターガソリンターボは、そこで生かされるように思う。

[筆者:渡辺陽一郎/Photo: 小林岳夫]

※ディーゼルエンジン搭載グレードには、マニュアルトランスミッション仕様の他に、オートマチックトランスミッション仕様も有り。

新型CX-5 価格(主要グレードのみ抜粋)

■25T L Package[4WD] :3,553,200円(税込)

■25T Exclusive Mode[4WD](特別仕様車):3,877,200円(税込)

■XD[4WD]:3,110,400円(税込)

■XD PROACTIVE[4WD]:3,342,600円(税込)

■XD L Package[4WD]:3,558,600円(税込)

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