胸に宿した記憶を舞台に さいたまゴールド・シアターが横浜公演

 故蜷川幸雄が立ち上げた平均年齢79歳の劇団「さいたまゴールド・シアター」が13、14の両日、県民共済みらいホール(横浜市中区)で「ワレワレのモロモロ2018」を上演する。県の「共生共創事業」の一環で、同劇団の横浜公演は5年ぶり。実体験を基に劇団員が台本づくりから挑んだ本作。戦争や親友との思い出など、それぞれが長きにわたり胸に宿した記憶が舞台上で浮かび上がる。

 「竜一、お国のために命を落としてくるんだよ」。響き渡る母の声に、少年の切実な叫びがこだまする。「戦争が始まったら、食うもんなんか無くなっちまう」

 10月上旬、彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)。出演者の一人、森下竜一(89)原作の「荒鷲(あらわし)」の一場面。劇団員らが真剣な面持ちで稽古に臨んでいた。戦時中、15歳で海軍飛行予科練習生として訓練を受けた森下の実話がベースとなった物語だ。

 「ワレワレのモロモロ」の演出は劇団ハイバイ主宰の岩井秀人。各地で実践してきた、体験を演劇化し自ら演じる「私演劇」のスタイルを取り入れている。「ゴールド・シアター」版は昨年秋のワークショップから創作を開始。メンバーの人生で記憶に残っていることなどを書いてもらい、岩井がそれらを組み合わせ、構成し1本の作品に仕立て上げた。今回は5月に埼玉で初演したものの改訂版を披露。戦中戦後の暮らしから冷蔵庫の買い換え、文学少女たちの青春など、紡がれる個人史の題材は多彩だ。

 「精いっぱい生きていたあの時代。自分が戦時中をどのように過ごしたかを振り返ろうと思った」。森下の記憶に深く刻まれているのは予科練習生時代に襲われた空腹の日々や、国家に身をささげるよう促す母の言葉。でも、と続ける。「母の本心は違った。本当はかわいい息子を死なせたくなかった」。本音を言うことも許されなかったあの時代を繰り返してはならない。そんな思いも胸にかつての自分を演じる。

 「年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法で新しい自分に出会うことは可能か」という蜷川の発案で2006年に発足した劇団。1200人を超える応募者の中から48人が選ばれ、これまでに本公演7回のほか海外公演も成功を収めている。現在のメンバーは67~92歳の36人だ。

 百元夏絵(76)はそれまでの専業主婦生活から一転、63歳で入団した。「新しい世界へと飛び込んで、とても楽しくて」と目を輝かせる。「ワレワレ-」では15年間使い古した冷蔵庫を買い換えるという何げない日常を台本化した。

 「大事にしているものを手放す葛藤、人生が縮小していくさみしさ。そういうものが伝われば」と願う。長い人生を歩んできた劇団員たちだからこそ醸し出せる役者の存在感や芝居の深みがあると、森下と百元は自負している。

 公演の開演時間は13日が午後5時、14日は同1時。入場料は3500円(全席指定)など。問い合わせはチケットかながわTEL(0570)015415。

「ワレワレのモロモロ2018」の稽古風景=さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場

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