【特集】我が子への体罰許せるか 「効果認める」を問う

By 関かおり

 スポーツ界の暴力が立て続けに明るみに出る中、学校の部活動やクラブチームなど子どものスポーツにはびこる体罰も改めて問題視されている。過酷な活動で教師や生徒を追い詰める部活動は「ブラック部活」と批判され、クラブチームの子どもへの体罰に対する姿勢も厳しくなった。全国で改善に向けた取り組みが進む一方で、親世代の一部には「体罰は必要だ」との考えが根強く残っている。

部活中の自分の子どもへの体罰についてのアンケート結果(ホワイトボックス提供)

 ネットメディアを運営するホワイトボックスは、20~50代の男女100人を対象に、部活動の体罰・パワハラについてのアンケートを実施し、結果を公表した。アンケートの中で、全体の約3割が「軽度であれば、自分の子どもが部活中に体罰を受けても必要性を認める」と答えた。年代別だと、20代で15%だったのに対し、50代では半数近くの46%。サンプル数は少ないものの、我が子への体罰を認める親が一定数残っており、年代が上がるにつれて多くなる傾向が浮き彫りとなった。 (共同通信=関かおり)

「愛があれば」

 自営業の染谷勝さん(58)=仮名=は、息子が小学3年生だったころから中学を卒業するまで、道場の支部長として空手を教えていた。稽古で殴るなど手を上げたこともあるといい「体罰はあってもいい」と容認する立場だ。

 道場の他の子どもへの指導にも体罰を伴った。厳しく指導した後には「おまえのことが嫌いでやっているわけではないんだよ」とフォロー。保護者からの評判も良く、教え子の空手の腕も上達した。性別や年齢にもよるが、「愛があれば分かってくれる」という。染谷さんは「嫌々顧問をやっているような教師が感情にまかせて生徒に手を上げることには反対」とした上で「信頼関係があり、志の高い指導者の体罰であればいい」と話した。

 息子には「スポーツを通して物事の本質を見極める力が身についた」と感じている。「スポーツ」とは「体罰の効果も込み」だ。今では息子も子どもたちに空手を教える立場になり、竹刀で床を強くたたくなど脅しを含む指導をしている。

過去の部活中の体罰経験についてのアンケート結果(ホワイトボックス提供)

 自分自身が体罰を受けた経験は、年代が上がるに従って増える傾向にあり、アンケートでも20代では19%、50代では46%だった。「部活中に受けた体罰やパワハラが今の自分にとってプラスになっている」と答えた人も15%いた。染谷さんも中学の部活中に体罰を受けた経験を「根性がついた」と前向きに振り返っている。

桜宮高校事件から

 若い世代ほど体罰に向き合う姿勢は厳しい。中学生のバスケットボールのユースチームでヘッドコーチを務める30代の沖田宏一さん=仮名=は、学生時代、仲間の死に直面した。後から聞いた話によると、部活中の行き過ぎた指導に追い詰められた末の自殺だった。

部活動の体罰で生徒が自殺した大阪市立桜宮高校

 沖田さんの学生時代、「体罰はいけない」という空気はあったものの、指導中に殴られたり怒鳴られたりするのは当たり前だった。「やる気が足りない」「だらだらしている」など理不尽な理由で叱責を受けることもあった。流れが変わったきっかけは、2012年に起きた大阪市立桜宮高校バスケットボール部の体罰事件。根絶へと向かう気運が一気に高まった。現在、沖田さんは年2回、コーチの講習会で講師を務め、事件当時の新聞のコピーを配って体罰について指導している。

 一方で、保護者が「我が子に強くなってほしい」と願うあまりに「うちの子にはもっと厳しくして」「たたいてもいいです」と指導者に求めるケースもある。沖田さんは「チームの目的は育成や強化であり、勝つことだけではない。一部の保護者にはそれが伝わっていないことがある」と分析し「暴力や体罰は必要ない。口で言えばわかるはずだ」と話す。

体罰の効果

 しかし、染谷さんの言うような「体罰の効果」が一切存在せず、「体罰は必要ない」のであれば、なぜスポーツ界に長らく体罰がはびこっていたのか。

 体罰が少なくなった世代でも、「効果」を目の当たりにしている人がいる。大阪市の30代の会社員菊池達夫さん=仮名=は、小学校高学年からフェンシングのクラブに入り、高校から大学院までフェンシング部に所属。今も趣味で続けている。これまで指導者から怒鳴られたことも暴力を受けたこともない。大学院生のときには小中学生の指導をしていたが、体罰をしたことはなかった。

 ただ同世代には体罰を受けた仲間もいた。保護者がコーチをしている子どもは特に厳しい指導をされていることも多かったという。菊池さん自身、体罰に対しては「もし自分の子どもが受けたら百パーセント許せない」との立場だが、その効果については「体罰で結果的に強くなっている人もいた。人それぞれだ」と言葉を濁す。

 教育現場での事故や学校の労働問題などを研究する名古屋大の内田良准教授は「暴力には効果がある」と話す。おびえさせ、恐怖によって従わせることで、生徒は指示通りに動く。指導者がその効果に甘えたとき、体罰は常態化し、そして時には保護者まで我が子への暴力を含む指導法を肯定してしまう。内田准教授は「体罰は指導者の問題に置き換えられがちだが、それを取り巻く環境にも問題がある」と指摘する。

 内田准教授によると、桜宮高校バスケットボール部の体罰事件以降、体罰根絶に向かう社会的な流れは確実に強まった。しかし指導者が生徒に暴力を振るう事例は絶えず、問題が明るみになった際に保護者やOBが処分に反対する嘆願書を出すことは「定番」だという。体罰の告発者が「レギュラーになれないから告発したのだろう」などと後ろ指を差されて関係者から村八分にされることさえあり、保護者が体罰を支持することは決して珍しくない。

 実力を高め、スポーツを通して何事かを学び取ろうとしたとき、それは体罰の効果を利用しなければ実現できないのか。内田准教授は「体罰には効果があるかもしれないけど、別の方法を考えましょう」と提案する。

「たとえば試合で負けたとき、怒られたら強くなれるのか? 殴られたら次は勝てるのか? 試合のビデオを見直して反省点を考えた方がずっと効果的で、科学的だ」

体罰が今の自分に及ぼした影響についてのアンケート結果(ホワイトボックス提供)

 体罰に反対する声が高まる現在でも「暴力を振るわれて強くなったという成功体験にしがみついている人は山ほどいる」という。指導者だけでなく保護者もまた、体罰の成功体験から抜け出さなくてはならない。アンケートで「体罰が今の自分にとってプラスになっている」と答えた20代は0%だった。体罰の連鎖は止まるだろうか―。

(了)

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