2018年 第31回東京国際映画祭コンペティション部門16作品紹介

 10月25日(木)~11月3日(土・祝)に開催される第31回東京国際映画祭のコンペティション部門全16作品を紹介。日本からは、稲垣吾郎×阪本順治監督の『半世界』と、直木賞作家・角田光代の恋愛小説を今泉力哉監督が映画化した『愛がなんだ』の2本がエントリー。その他、長編3作目となるレイフ・ファインズ監督作や、ワールドフォーカス部門でも特集されるイスラエル映画など、例年を上回る1824本から選りすぐりの16本をご紹介! 今年も本部門のプログラミングディレクター・矢田部吉彦氏が全作品の注目ポイントをズバリ解説します。(取材・文:岩永めぐみ/編集部 浅野麗)

『半世界』

(C) 2018「半世界」FILM PARTNERS

製作国:日本
監督:阪本順治
キャスト:稲垣吾郎、長谷川博己

現代人への強いメッセージが込められた作品
地方都市で、備長炭を製炭する炭焼き職人として働く紘。ある日、帰郷してきた中学時代からの友人である元自衛官の瑛介との再会を機に、仕事や家族に向き合っていなかった自分に気付き、自身を見つめ直そうとする。

ここに注目>> 阪本順治監督が世界をどう見ているかについての作品であり、そして主人公の男性が自分の世界をどう作っているかを描く物語でもあります。監督の見事な脚本に、現代社会に生きる我々への強いメッセージが込められています。主演の稲垣吾郎さんは『十三人の刺客』での映画史上に残る悪役以来、もっと映画に出てほしいと思っていましたが、その期待が報われる素晴らしさです。隅から隅までいい映画だと思います。

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『愛がなんだ』

(C) 2019映画「愛がなんだ」製作委員会

製作国:日本
監督:今泉力哉
キャスト:岸井ゆきの成田凌

ヒロインの強烈な愛に圧倒される究極の恋愛映画
28歳の会社員・テルコは、マモルのことが好きになって以来、彼一筋の生活を送っていたが、マモルにとってテルコは、ただの都合のいい女でしかなかった。そんなある日、突然マモルからの連絡が途絶えてしまう。

ここに注目>> ずばりの恋愛映画としては、今回のコンペティションでは『愛がなんだ』が唯一です。今、恋愛映画を撮らせたならこの人だという今泉力哉監督が、原作の角田光代さんの女性の視点を獲得して、新たなステージに進んだ印象を持ちます。ヒロインの強烈な愛によって映画に徐々に強みが加わって、恋愛映画を超えた領域に入っていくのですが、そこがほかの作品と同じ土俵で紹介したいと思わせた理由です。

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『アマンダ』

(C) Nord-Quest Films

製作国:フランス
監督:ミカエル・アース
キャスト:ヴァンサン・ラコストイゾール・ミュルトゥリエ

青年と少女による家族の再生物語
美しい夏の陽光が降り注ぐパリ。自由を謳歌していた青年ダヴィッドは、ある日、予想だにしない悲劇によって姉を失う。シングルマザーだった姉の死により、天涯孤独となった姪のアマンダと暮らすことになるが……。

ここに注目>> ミカエル・アースはフランスで注目度急上昇の監督で、とても美しい作品を撮る人です。パリで起きたある悲劇をきっかけに、若くして姪っ子の父親代わりになった青年と、母親を喪った少女がどう立ち直るかという物語で、激動する世界の中で我々はどう生きていくかというテーマを含みながら、家族の再生が描かれています。

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『堕ちた希望』

(C) Tramp Limited Srl - O’Groove Srl 2018

製作国:イタリア
監督:エドアルド・デ・アンジェリス
キャスト:ピーナ・トゥルコマッシミリアーノ・ロッシ

たくましいヒロインの激しく美しいサバイバルドラマ
ナポリ郊外、イタリア屈指の無法地帯と呼ばれる荒れた海辺の街。人身売買組織の手先として働くマリアは、逃げた娼婦を探していた。だが、自らの妊娠を機に人生を変える賭けに出る。

ここに注目>> イタリアで急速に名前が知られるようになったエドアルド・デ・アンジェリス監督は、ヘビーなネタを美しく見せるのが上手い。イタリアでもっとも危険といわれるナポリ北部が舞台で、犯罪組織から抜け出そうとするヒロインがとてもたくましく、新鮮。海沿いにある荒れた地を、美しくファンタジックに撮った監督の演出も見事です。

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『ブラ物語』

(C) 2018 Veit Helmer - Filmproduktion, Theo Lustig (C) 2018 Theo Lustig

製作国:ドイツ、アゼルバイジャン
監督:ファイト・ヘルマー
キャスト:ミキ・マノイロヴィッチパス・ベガ

彩られた世界で綴るセリフのないおとぎ話
のどかな町中を走る列車の機関士は、車体に引っかかったブラジャーを見つけ、まるでガラスの靴の持ち主を探すシンデレラの王子のように、その持ち主を探し始める。

ここに注目>> 『ツバル』などのファイト・ヘルマー監督が撮った、おとぎ話のような映画のルックが見ていて楽しく、とても心温まる作品です。特徴的なのはセリフがないこと。役者の存在感、音楽や映像が重要になりますが、エミール・クストリッツァ監督作品などに出ている東ヨーロッパの名優、ミキ・マノイロヴィッチの存在感がたっぷりです。

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『ホワイト・クロウ(原題) / The White Crow』

(C) 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

製作国:イギリス
監督:レイフ・ファインズ
キャスト:オレグ・イヴェンコ、レイフ・ファインズ

伝説のバレエダンサーの刺激的な半生
史上最高のバレエダンサーの一人、ルドルフ・ヌレエフ。型破りな技術と性格を持つ彼のキャリアの開花から、パリ公演でのスリリングな亡命劇など、彼の半生を描く。

ここに注目>> 今年の目玉の1本になるかもしれません。長編監督作3本目のとなるレイフ・ファインズはロシア文化に造詣が深くて、ロシア人ダンサーのルドルフ・ヌレエフの伝記を20年ほど前に読んで、長らく映画化の構想を抱いていたそうです。バレエのシーンもたっぷり見られますし、亡命劇がとてもスリリングでスリラー映画としてのおもしろさもあります。レイフ自身もヌレエフの先生役で出演しています。

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『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』

(C) KMH Film

製作国:ハンガリー、カナダ
監督:パールフィ・ジョルジ
キャスト:ポルガール・チャバペテルソン・エリク

映画的な見応えのある鬼才監督の世界
幼少時に去った父の行方を調べる兄弟の前に、アメリカの巨大な陰謀が見え隠れする。父は国家犯罪に関わっていたのか。宇宙と家族を繋ぎ、人類の創生に踏み込む、奇想天外な物語。

ここに注目>> 原作は『惑星ソラリス』のスタニスワフ・レムで、家族の物語に宇宙船や生命の起源など、いろんなものが絡んできます。パールフィ・ジョルジは鬼才と呼ぶにふさわしい世界的な監督で、奇妙だけど映画的な見応えのある作品を撮ることで有名。今作もすごいものを見ちゃったなという圧倒感が半端ないです。ワールドプレミアなので、世界で最初の観客になって、その驚きを世界に発信していただきたいと思います。

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『氷の季節』

(C) Nordisk Film Production

製作国:デンマーク
監督:マイケル・ノアー
キャスト:イェスパー・クリステンセンマウヌス・クレッパー

リアリズムに裏付けされた格差社会の闇
1850年代のデンマーク。農村で、極貧にあえぐ農家の主イェンスは、冬が近づくにつれ厳しさを増す状況に、娘を裕福な地主と結婚させ、貧困からの脱却を図る。だが、思惑とは裏腹に残酷な運命が交差する。

ここに注目>> 監督のマイケル・ノアーは2012年のコンペティション部門で上映された『シージャック』の脚本を書いていて、現在のデンマーク映画シーンをリードする監督の一人です。19世紀の農村地域を舞台にしながら、現代の格差社会にも通じるテーマを描いています。とてもリアリズムがあって、美術、衣装、撮影など見応えのある作品です。主演のイェスパー・クリステンセンも素晴らしく、映画が締まりますね。

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『大いなる闇の日々』

製作国:カナダ
監督:マキシム・ジルー
キャスト:マルタン・デュブルイユロマン・デュリス

独特な雰囲気を放つ不条理ダーク・スリラー
第2次世界大戦中。チャップリンのものまねをする芸人の男が故郷カナダに帰国を試みるが、荒れ地の中で交通手段を失ってしまう。偶然にも親切な男に助けられるが、行先には意外な落とし穴が待っていた。

ここに注目>> カナダのフランス語圏の監督による不条理ダーク・スリラーです。第2次世界大戦中が舞台で、ファシズムがメタファーとして強く意識されていて、映像はダークだけれど美しくてかっこいい。フランス映画ファンにはおなじみの、ロマン・デュリスやレダ・カテブといった実力派俳優が出演しています。非常に独特な雰囲気のある作品です。

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『ヒストリー・レッスン』

製作国:メキシコ
監督:マルセリーノ・イスラス・エルナンデス
キャスト:ベロニカ・ランガーレナータ・ヴァカ

教師と生徒による世代を超えた奇妙な友情
ベテラン女性教師のヴェロは、転校してきた生徒エヴァのあまりの反抗的な態度にうろたえる。だが、お構いなしにヴェロの生活にずけずけと侵入してくるエヴァとの間に、やがて世代を超えた奇妙な友情が芽生えていく。

ここに注目>> ストレートなヒューマンドラマであり、女性映画です。年齢の離れた二人の女性がそれぞれに問題を抱えているのですが、やがて二人で旅に出るロードムービーになり、感動が待つラストに向かっていきます。心にしみる作品で、二人のコンビネーションがなんともいえずいい。主演女優賞の有力候補だと思います。

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『翳りゆく父』

(C) ACERE , 2018.

製作国:ブラジル
監督:ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ
キャスト:ジュリオ・マシャ-ドニナ・メデイロス

ブラジル発注目のホラー系アートムービー
母を亡くした少女は、怪しいおまじないで願い事を叶えようと夢中になる。同じく、妻を亡くし落ち込む父は、リストラに怯え、次第に様子がおかしくなっていく……。

ここに注目>> ブラジルのホラー系アートムービーが海外の映画祭で受賞しているなど、新しいブラジル映画の波がきています。そのブームを引っ張る若手監督の一人が、ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督です。母親を亡くした一家があり、娘のオカルト趣味と父親の憔悴っぷりが交わっていって、だんだんホラー風になっていくという(笑)。非常に風変わりな作品です。

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『シレンズ・コール』

製作国:トルコ
監督:ラミン・マタン
キャスト:デニズ・ジェリオウルエズギ・チェリキ

大都会を舞台にした風刺の効いたブラックコメディー
再開発ラッシュが進む大都会イスタンブール。建設会社勤務の男は醜い都会に疲れ果て、地方でオーガニックな生活を楽しむ女性シレンに会うべく脱出を図る。だが、障害が相次ぎ街から出ることが出来ない。

ここに注目>> 都会に暮らす人にとってはとても身近なテーマの映画です。トルコのイスタンブールで暮らす男性が都会の喧騒から脱出しようとするのですが、まるで結界が張り巡らされているかのように街から出られない。不条理なブラックコメディーで、都会人の脱出願望だったり、逆にオーガニック幻想だったり、現代社会への皮肉が猛烈に効いています。

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『テルアビブ・オン・ファイア』

(C) Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Artemis Productions

製作国:ルクセンブルグ、フランス、イスラエル、ベルギー
監督:サメフ・ゾアビ
キャスト:カイス・ナシェフルブナ・アザバル

複雑な中東情勢を笑いに変えた極上エンタメ作
パレスチナの女スパイがイスラエル将校と恋に落ちるというドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」が大ヒット。制作現場で働くパレスチナ人青年のADは、ひょんなことでイスラエルの検問官から脚本の着想をもらうが……。

ここに注目>> ここ数年、イスラエル映画に秀作が目立ってきています。複雑な政治問題をコメディーで伝えるのは一番難しく、しかしそれが成功するととても有効なんですよね。政治ネタがコメディーとしてわんさか盛り込まれていて状況がおもしろく伝わってきますし、人々がそんな状況の中でどう生きているかというのがとても丁寧に描かれています。楽しいし、勉強になるし、一石五鳥くらいの映画です。

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『ザ・リバー』

(C) Films Boutique

製作国:カザフスタン、ポーランド、ノルウェー
監督:エミール・バイガジン
キャスト:ジャルガス・クラノフジャスラン・ウセルバエフ

計算し尽された美が詰まったアート・ムービー
文明から隔絶された辺境の地で暮らす5人の兄弟。家の仕事を共にこなし、仲良く川で遊ぶ。だが、そんな彼らの平穏な日々は、都会から来た少年によって崩れてゆく……。

ここに注目>> 100パーセント、ピュアなアート映画です。美しい映画が観たい方、現代アートが好きな方、コアなアート・フィルムファンにおすすめです。監督のエミール・バイガジンは、デビュー作がベルリン国際映画祭のコンペティションでいきなり賞をとった才人。物語のタッチはゆったりとしているのですが、構図が計算し尽くされていて、一つ一つの構図に息を飲むというくらいに映像が見事です。

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『詩人』

(C) 2018 Edko Films Ltd. All Rights Reserved.

製作国:中国
監督:リウ・ハオ
キャスト:ソン・ジアチュー・ヤーウェン

時代の荒波に翻弄される夫婦の愛の物語
経済大国前夜の中国。炭鉱で働く詩人の夫と彼を支える妻は、将来を夢見て深く愛し合っていた。だが、炭鉱を訪れたある高名な詩人が夫婦関係に微妙な影響を及ぼしていく。

ここに注目>> 毛沢東からトウ小平への時代に、鉱山で働く詩人の青年と彼を支える妻が激動の時代の荒波に翻弄される物語です。広大な鉱山のショットだけでもこの映画を観た甲斐があるというほどに圧倒的で、自然の雄大なショットと緻密な室内のショットのコントラストもおもしろく感じられます。ジャ・ジャンクーと同じ中国第6世代に属する、リウ・ハオ監督の演出にも注目していただきたいです。

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『三人の夫』

(C) Nicetop Independent Limited

製作国:香港
監督:フルーツ・チャン
キャスト:クロエ・マーヤンチャン・チャームマン

香港インディー界が放つ強烈なエロチシズム
半人半魚伝説が残る香港の港で、ボート暮らしをしながら客を取る不思議な娼婦。彼女は、3人の夫に愛され、ひたすら行為を続けるも足らず、娼婦として客もとるほどに、人間離れした性欲を持っていた。

ここに注目>> 香港インディペンデント界の雄であるフルーツ・チャン監督が、“買春3部作”と呼んでいる『ドリアン ドリアン』『ハリウッド★ホンコン』に続く3作目です。映画の半分近くをセックスが占める印象です。しかし、香港の変遷をずっと見てきたチャン監督が娼婦のヒロイン像に込めたメッセージについて考えると、この映画が味わい深くなっていくだろうと思います。

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